第17話 夜が更ける(3)
「ねぇ、先輩。枕投げしましょ〜!」
そろそろ寝ようかという頃、胡桃がそんなことを言って来た。
「なぜ、そうなる?」
「え?泊まりの時は、枕投げか恋バナって決まってるじゃないですか」
「いや、そんな『当たり前でしょ』みたいな顔で言われても」
「だって。当たり前のことですもん」
そう真顔で言う胡桃に私はいつものことながら脱力する。ある意味脱力キャラやな。
スースー。
そんなこんな胡桃の攻撃をのらりくらりと避け終わった頃、流石に疲れてくれたか胡桃は寝だした。
同級生が寝てしまった横で本を読んでいた高校の修学旅行をふと思い出した。
何となく寝れなかったので今日、1日間(というかこの南雲邸についてから)のことを思い出してみる。
単なるパーティーで呼ばれたはずのここで最初に聞いたのは絢音さんの声——じゃなくてボーガンで狙われているという話。
田淵さんなる花屋犯人説も浮上はしたがイマイチ。
「コスモスか……綺麗やな」
部屋に備え付けられたテーブルの上。エミール・ガレ風のランプの光を浴びて何とも言えない情緒を醸している——勿論、テーブルじゃなくてコスモスが。
コスモスは下の例の庭にもあった。確か、花言葉は「調和」「謙虚」「乙女の純真」やったか。乙女が使うと判っていての配慮か。知らんけど。
話を戻して、夕食の場。
そして、先生の再度の爆弾発言。
毒殺予告だとぉ!聞いてないって。食べてもうたって。先に言えよそれ!失礼。少し取り乱した、とどこかの誰かに謝ってみる。
でもさー私は
ドライブレコーダーの件も含めて色々考えてみるが、全く何も掴めない。事件の全容すら掴めているのか判らない。一応、弁護士として相談はされているのだから何か成果はあげたいもんや。
だが、思いつかないもんは仕方ない。どうしようもない。
ふと、メールでも確認してみるか、という気になった。
阪神の試合結果が来てるだけやろ?と思いながら開いたのだが、ところがどっこい。あの例の子犬からメールが来ていた。ほらあのバンドのボーカルみたいな刑事。
拝啓 浜元舞美様
日ごとに秋の気配を感じる今日この頃、お変わりありませんでしょうか。
さて、先日は……
いや、待って、待って、ちょい待ち。何、これ?
え?あの刑事こういうキャラやったん?たまにいるよな、何か知らんけどなんでもかんでも丁寧に書いてくるやつ。
それとも何だ?あれは天然なんか?メール出すの初めてのお子ちゃまなんか?それともあれか。毎回誰に出すんもこんな感じなんか?
まぁ、なんでもいいや。とりあえず、メールの文面を纏めるとこんな感じ。
『前嶋創業専務殺害事件で犯人の角田の送検が終了したこと』
『角田が修理した車から犯罪の証拠は見つからなかったが、遺体が遺棄された現場近くのホームレスの家(?)のブルーシートから角田や楠本さんの遺留物やらが出てきたこと——これで物的証拠も揃った——』
『未だ、角田が楠本さんを恐喝するに足るネタをどうやって見つけたかは判らないこと』
うん、1つ目は正直どうでもいい。単なる事務連絡や。
問題は2つ目の3つ目。
この前、つまり社長に昼食を誘われた日の事情聴取で実は1つ相談をされていた。角田は少し脳が足りないのか、物的証拠があやふやな時点から罪を大っぴらに言い張っていた。胡桃への暴行の現行犯でちゃっちゃと
しかし、なんと角田が修理した車から、これ、といった証拠が見つからなかった。困った困った子犬さん。このままではスパナを捨てたという川の川攫いに自分も駆り出されてしまう。
そこで私は1つ提案をしてみた。現場にはホームレスの住処があった。そこにはブルーシートがあった。
いくら角田でも修理した車に遺体を乗せるのは気が引けるだろう。となれば、無難なのはブルーシートの上に載せて運ぶ方法だ。
で、現場に遺体を遺棄した後、用済みのブルーシートがある。そして、現場と目と鼻の先には
そしたらビンゴ。ホームレスのブルーシートから証拠がわんさか見つかったという。これで2つ目は終わり。
で、3つ目。これは単なる私の疑問の過ぎなかった。
どうして、角田は楠本を恐喝できる材料を見つけることが出来たのか。もちろん、偶然見ちゃった系もあり得るし、腐っても弁護士をしているからそういうケースが多いことも認識している。
だが、どうしても気になる。これが判ったところで、楠本の余罪が増える訳でもなければ特に何か変わる訳でもない。
ただ、どうも単なる偶然とは考えられない。単なる勘でしかないが、何かそんな気がする。
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