第15話 夜が更ける(1)
いくら毒殺を仄めかす脅迫状(って言いながら、先生があの様子じゃ"脅迫"要素0やな)が来ていても本人はピンシャンしている。
先生はどうってことないって言うように、いつも通り風呂に入ると言った。本来、年寄りには一番風呂はすすめるべきどころか止めさせるべき何やけど、先生本人が
そして今。脅迫状含め、一連の事件(?)の考察をしないといけない今。私たちがどこにいるか。聡明な読者諸氏にはお判りだろうか?いや、判らんか。うん、判るわけない。
「え〜ん、先輩!お腹が痛いです!」
至極当然というのか、自業自得というのか夕食の時にいやらしいくらいに食べていた胡桃がこうなることは容易に想像できた。
いつもちょいちょい
で、胡桃は今トイレの中。ほんで1枚扉を隔てた廊下に私がいる訳である。
いや、別に胡桃を見捨てて、さっさと2階の部屋に戻ってもいいんやけどなんか知らんが胡桃は謎に耳がいい。だから、離れたらバレる。バレると元気になった胡桃がやかましくなる(厳密にはよりやかましくなる)。よって私はここを離れるわけにはいかない。——Q.E.D 証明終了。
って何の証明や。
さっきまでいたダイニング——ダイニングはリビングと隣り合っている——では先生の娘夫婦と仲川さんが談笑中。その息子は胡桃がトイレの住民になる前にそそくさと2階の自らの部屋に戻って行った——そういう年頃なんやろう。家政婦は……どんだけ洗うもん多いんや?
はぁ、私は何の為にただ廊下に佇んでるんや?
「先輩ぃ〜、いますか?」
微妙にくぐもった声が聞こえる。
「うん、中元がおれっちゅうからな」
「前嶋社長のとこだったら行っていいですよ?」
「なんで、中元に許可されなあかんのや?」
「えへへ……何ででしょう?」
はぁ……。
ってあれ?社長、今どこにおるんや?
ま、どこにおっても好きにしはったらええわ。
パリン
何となく、さっき庭で現場検証(?)をしていた時のデジャビュな感じがした。そうなったのは私を除けば胡桃しかいない筈やけど。そうじゃなかったら困る。
「ちょっと、三田谷さん、大丈夫なの⁉︎」
「あ、はい、すいません」
どうやら、家政婦の三田ぞ……ちゃう、三田谷さんが皿を割ったようだ。あの先生にぐちぐち言われなければいいが。
私は別に他人の幸せを望むことは基本せえへんけど、不幸になれとも思わない。
「どうや、中元、大丈夫か?」
キャベジ○が効くまではもう少し要すやろうけど、少しはマシになったやろか。①あまり、
いやちょっと待て。トイレはもう1個(あるいは1戸?数え方が判らん。誰か教えてくれ)あるとか言ってたな。(という妄想かもしれない)ということは①あまり、ここにいたくないのが9割。③胡桃が心配というのが1割か。
ええ、私だってね、鬼じゃないんでね人を心配する心というのも持ってるんですよ?そこの疑り深い目をしている貴方!貴方に言ってるんです!
「いやぁ、いい湯だった」
牛乳瓶こそ持ってはいないが、首周りにタオルを巻いた"完全なる風呂上がりのおっさん"が風呂から上がってきた様だ。
「おや?浜本先生。トイレならもう1個向こうにありますよ?」
うん、やっぱり誤解した。別にトイレが空くのを待っているわけではない。
でも、説明すんのも面倒くさいからそっとしとこ。
「ああ、ありがとうございます」
「うん、場所は……まぁ、判るか」
そう言って、先生は
ってか、もし場所が判らんって言ったらついて来たんやろか。
まぁ、結果として、結構判りやすい場所にあったんやけどね!
無駄にトイレとトイレの間を往復した後。最初のトイレに戻ると、胡桃が丁度出てきたところだった。
「お、胡桃、もう大丈夫なんか?」
が、胡桃には珍しく申し訳なさそうな顔をして
「先輩、トイレに行きたいんだったら、言ってくれたら良かったのに〜!」
誤解の雪だるま〜!
そんな馬鹿馬鹿しいやり取りをしている時。
「はい、すいません。
ああ、はい。大丈夫だと思います。……ええ、大丈夫です」
そんな深刻そうな会話をしている人がいたというのも事実だったらしい。
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