第11話 ボーガン

「ようこそおいでくださいました」

 そう、私たちを出迎えたのは、落ち着いた雰囲気を醸す女性だった。

「南雲の妻の南雲アヤネでございます」

 着物こそ着てはいないが、老舗の旅館の女将を思わせる対応である。

 しかし、どうやら私と胡桃の予想は外れたようだ。家政婦は? と尋ねると買い物に行っているとのことだった。

「福谷法律事務所から参りました、浜元と」

「中元です!」

 詳しくは聞いていないが、社長曰く南雲先生は相談したいことがあるらしい。だから、こう名乗った方が効果的。

「夫を呼んで来ましょうか?」

「いえ、お構いなく。きっとお忙しいでしょうから後で伺います」

 こう言うとアヤネさんは、そうですか、と私たちを部屋まで案内する。

 私たちの泊まる部屋は2階に位置するようで途中先生の仕事場の前を通り過ぎた。

「では」

 とアヤネさんが去ると胡桃はダーとベッドに傾れ込む。

「先輩〜もう動けません〜」

 ほう、ということは私が無理に動かす必要は無くなったわけやな。楽楽。

「じゃぁ、先生のとこには私一人で行ってくるから。中元は休んどき」

 そう仏心(?)を出して言ってから、しまったと思う。

「はい!元気になりました。先生のところに行きましょう!」

 やっぱり、こうなるよね……。


 階段を降りて少ししたところにある南雲先生の仕事部屋を叩く。

「どうぞ」

 鍵の解錠音と共に一人の老人の声が返ってくる。

 鍵をかけないといけないようなことをしていたんやろうか?そんな邪推が頭を過るがすぐに打ち消す。

「失礼します。福谷法律事務所の浜本です。本日はお招きありがとうございます」

 そう言いながら用意していた春庭良カステーラを差し出す。

「おお、こりゃ大極殿本舗だいこくでんほんぽじゃないか!大好物だよ」

 ニンマリ。わざわざ昨日京都、上京かみぎょうまで行った甲斐があるってもんや。

(南雲先生の大好物なんてよく知ってましたね!)

 胡桃が小声で訊いてくる。

(昔、1回だけ先生が書かれたエッセーに載ってた。ファンやのにそんなことも知らんのか?)

(私は推理作家南雲先生のファンであって、人間南雲岳丸のファンではあ……)

(ああ、もうええわ)

「いやいや、これじゃ、感謝するのはこっちだよ。今日はこんな片田舎まで来てくれてありがとう。前嶋君からは優秀な弁護士さんだと伺っているよ」

 南雲先生は春庭良を紙袋から出してシゲシゲと眺めていたが、ふとパソコンを閉じる。やはり、仕事をしていたのは正解なんか。

「早速ですが、本日は何か相談されたいことがあるとかで」

「ホントに早速だね。それよりそこのお嬢さん、サインはしなくて良いんか?」

「「え?」」

 思わず、胡桃と驚きの声が被ってしまう。

 私自身、胡桃が南雲先生の著作を持っていることを知らなかったし、それを当てた先生の洞察力に驚いた。

「すいません、ありがとうございます。最初に読んだミステリが南雲先生の作品でそれからずっとファンで……」

 緊張しているのか、珍しく胡桃の声には元気がない。

「いやぁ、そりゃ嬉しいね。しかも、これ初版本か」

「ええ、やっぱり初版本を読みたくて古本市で探しました」

「いやぁ、嬉しいなぁ。最近は下火だって言われてるから。君みたいに若い人に読んでもらえると……ああ、名前は?」

「中元胡桃です。大中小の"中"に中国人民元の"元"。胡桃は普通に"胡桃"です」 

 中華人民元の"元"、って。元気の"元"じゃあかんのか?やる気と元気だけが取り柄やろ。やる気、元気、中元! って。

「はい」

 と南雲先生はサラサラとサインを書いて胡桃に手渡す。

「ありがとうございます!」

 しかし……、と私は思う。南雲先生の様子が思っていたものと全然違う。トリックもの、あるいは本格物の作品は綿密に敷かれた伏線と緻密なトリックが売りやったから、てっきり細かいことを気にする論理ジジイみたいなんを想像していたんやけど。若干拍子抜けだ。

「では、相談内容の方を」

「ああ、そうやったな……」

 と角が丸くなった先生は話し出す。

 今もそうだが、先生は昔関西に住んでいたことがあり、所々関西弁のアクセントが見られる。

「お茶をお持ちしましたよ」

 ガチャという音と共にアヤネさんが入ってくる。今は鍵を掛けてなかったのか。

「ああ、悪いね、アヤネ。腰が悪いのに。ったく、あの家政婦は何の為に雇ってやってると思っとるんだ」

「大丈夫ですよ。今日あの子達も帰ってくると思ったら嬉しくてね。幾分かマシですよ」

「普段はこんなジジイと二人で悪かったな」

「いえ、そんなつもりで言ったんじゃ……」

「ああ、すまん。つい。

 お茶、ありがとう」

 失礼します、とアヤネさんは去る。どこか、普段の夫婦の様子が垣間見えた気がする。

「ああ、スマンな。話が逸れてしまった。どこまで話したかな?」

「相談がある、というとこまでです」

 私はそう答えてやるが、この爺ちゃん大丈夫なのか?

「ああ、そこまでか。

 単刀直入に言えばな、犯人を見つけて欲しいんじゃ」

 結構物騒な相談をされそうな予感がするぞ。出来れば、遺産相続云々とかの方が良かった。ああ、でもそれだと刑事部の私が紹介された理由がないしな。しかし、これも仕事や。なんと言っても上客を逃すわけにはいかん。胡桃がサインに夢中で邪魔してこおへんうちにチャチャっと片付けよ。

「さっき、妻が子供が帰ってくるって言っとったでしょ。正確に言えば、1週間前にも一回帰って来たんですよ。娘夫婦とその子供が—だから、娘のその連れ合いと孫になるんかな」

 言い換えんでも判るで。フンフンと適当に頷いておく。

「その時にボーガンで襲われたんでな」

 おっと、いきなり話が飛んだぞ。ホントに昔の先生とは変わってしまっているような気がする。論理というものがなくなったのか?

「犯人に心当たりは?」

 おっと、サインはもう見んでええんか?そして、いつも結構良いところで入ってくんな。

「お!やっぱそうなるよな。流石、わしの読者じゃ」

 へぇ、南雲先生の一人称って"わし"なんや。

 しっかし、先生もなんか変やな。やっぱ変な人が書いた本をずっと読んでいると伝染するんかなぁ?でもちょっと変わった人の文章の方がおもろいかもしれんけど。

「当然、犯人は家政婦と妻と娘夫婦と孫の誰かかな、思とるよ。家政婦と妻は普段から一緒にいるけど、だからこそその時来た娘たちに罪を着せようとしたって線もある」

「確かに、そうですね」

「家政婦は見た! はないんですか?石崎秋子とか出て来ないんですか?」

 胡桃、少し前から思ってたけど、例えが古ないか?

「いや、残念。それもないよ」

「そうですかぁ〜」

 あかんわ、こいつらに任せてたら。話が進まん、進まん。

「で、その時の状況を詳しく教えて頂けませんか?」

 堪忍できなくなった私はそう尋ねた。



 やっと、事件発生? まで来ました。

 で、大変恐縮なんですけど、私、今学校なんですけど、見事に突き指をしまして。う〜ん折れてるかな? って感じです。

 なので、暫く更新できそうにありません。下さったコメントの返信はできるだけしようかな、と思っています。状況にもよると思いますが。ご了承。🙇

 気になるところかな(だったらいいな)な所で切ってしまって申し訳ないです。今後を存分に推理してください。(←無理だろ)

 近況ノートの方でも後でご報告させて頂きます。

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