第6話 後日談1
私の手足を固定し終わった櫻井刑事が彼の片方の手もパイプ管と繋いだところで、私は一つに気づいた。
あれ?私たち、口、塞がれてなくない?まぁ、いっか。口紅も乱れないし、変にガムテを貼られて口の周りが気触れても困る。ああ、後で手首ハンドクリーム塗らなきゃ。
「お前の目的はなんだ⁉︎」
と、櫻井刑事。
「目的って、逃げることに決まっとるがな。何を聞いとんねん、ワン公が!」
うん、確かにそうだと思う。櫻井刑事はホントいつも何を訊いとるんや?っていうか、いつの間にかあだ名が"バンドのボーカルみたいな刑事"から"ワン公"に変わってるし。この角田とかいう男、私のことを笑わせに来やがる。
「何だと!」
それは、どの部分に対する「何だと!」なんですか?目的についてか、"ワン公"って呼ばれたことか……。
ギギギとこっちまで聞こえてくるくらいの歯軋りをしながら、ワン公はガンガンと手錠を引っ張る。
意外と熱血系なのかな、この刑事。さっきまでと全くイメージが違うし……。いや違う!それは救助対象(?)があの胡桃だからだ!ああ、どいつもこいつも!仮に私が人質(?)だったらどうだったんだろう?悲しくなってきた、トホホ……。
「んじゃ、お前らはしばらくそこらへんで蹲っとけ!」
そう言って、角田は胡桃を連れたまま車に乗り込もうとした(この車は角田個人のものなのだろうか?)。だからきっと、さっきの台詞は捨て台詞的な奴だったんやろうが、どうも様になっていない。こいつに悪役は無理だな……。蹲っとけ、って。私ら病人なのか?
バン!と扉を開けて胡桃諸共、中に乗り込むとき、角田は私たちにさらにもう一言。
「大丈夫や、この娘は頃合いを見て開放したるわ。流石に俺も誘拐まで前科に加えたくはないしな。ほな」
頃合いっていつなんだろう、しかもその時っていうのはいつ、どうやって判るのか?
それに、刑法224条によると、未成年者略取誘拐罪が成立するためには,①未成年者を略取し,または誘拐すること及び②故意(①に該当する事実についての認識)が必要となるし、「略取」とは,暴行・脅迫等の強制的手段を用いて,「誘拐」とは,偽計・誘惑を用いて,未成年者を自己または第三者の事実的支配下に置くことをいう。でも、今角田が攫っているのは成人の胡桃だから"誘拐"というのはおかしい。
ホント、ちゃんと言葉を使ってもらわな困るわ、おっさん。子供たちが間違えて覚えてまうやろが。
私がそんな下らないことを考えている間に角田は車に乗り……
ヴォフ!
その音と共に角田の体がこちらに吹っ飛んで来た。
いや、吹っ飛んできた?うん、ホントに吹っ飛んできた。空を仰向けに跳んで。所謂背面跳びというもんか?走り幅跳びとか得意そうやな、角田。オリンピック出れるんとちゃうか?
その角田といえば何か薬品やらスパナ等の道具やらが無造作に並べてある棚に体を激突させていた。
その拍子に上からガラガラって色んなもんが降ってきてなかなかに笑える画になっていた。ほら、漫画とかでありまっしゃろ。埃がボフボフって舞ってる感じ。きっと、角田の頭の上では3つくらいの星が回っているんやろう。
私はこんな感じで結構冷静に分析できたが、パイプ管と仲良し子良し、御手手を繋いでいる櫻井刑事は一体何が起きたのか判らないっていう顔をしていた。目を見開いたままボーって様子で。
コツコツと革靴の音が工場内に響く。さっき、角田が乗ろうとしていた車から出てきた男だ。およそ、角田のことを殴り飛ばした張本人であろう。こっちに向かって来る。っていうか、この男って……。
「前嶋社長?」
車から降りてきた男、それは前嶋社長であった。
車の中、ショックで気を失っていた胡桃が目を覚まし、看ていた櫻井刑事の顔をどうしてか角田の顔と間違え、櫻井刑事の顔に強烈な右ストレートをお見舞いした後。櫻井刑事は応援を呼び、私、胡桃、社長の3名はさっき起きたことについて話していた。
「まず、前嶋社長訊かせて下さい」
「ええよ。何でも訊いて」
「何で、車の中にいたんですか?」
「ああ、それ?僕の容疑は晴らせても、それは解けないんだ?」
「いや、予想はついてますけど、どうせ竹村にでもお聞きになったのでしょう?」
「うん、ちょっと訊きたいことがあったから探したんよ。で、竹村課長に会って浜元さんが福島署に向かったって判ったから、そこで話聞いてチョチョイとね。なんやかんやで
「中元胡桃って言います!」
「はぁ、そう。中元、さんが人質(?)に取られたみたいやったから、ああ、こりゃ犯人は中元さんを人質にしたまま車で逃げるんやなって思った。だから、車の中にいた」
「はぁ、で私に訊きたいことって何やったんですか?」
「ああ、それ後ででええわ。今話す内容とちゃうし」
へぇ、何だろー、楽しみだなぁー。(棒)
そう思う私に胡桃は「愛の告白だったりして。きゃーいいなぁ、イケメンの敏腕社長と……!」とか耳打ちしてきたが、華麗にスルーして
「最後にもう一つ。何であんなに人の体が翔ぶんですか?」と訊いた。
「ああ、あんなものはコツやでコツ」
「コツって……」
「昔、極限流空手を極めてたことがあったから……」
ああ、社長が全く説明する気のないということだけは判った。
「何はともあれ、ありがとうございました。助けて頂いて……」
「ああ、ええよ。今度は藤堂流古武術でも使ってあげるから……」
社長しつこいぞ。絶対、胡桃の世代には判らんて……。ほら、困った顔して苦笑しとるやんか。
「もうちょいしたら来るそうです、応援」
ならば。
「じゃ、一つだけ確認していいですか?」
すいません、今回の話、後日談なのに長引いてしまいました。明日にでも『後日談2』をお送りする予定です。
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