第1話

 ハッ。

 近くで何かが鳴ったような気がして私は起きた。

 ベッドの近くの窓に掛かるカーテンを捲れば、外では救急車がけたたましい音を鳴らしながら走っていた。

 

「はぁ」と私は一つ溜息をつく。

 また、あの夢だ。救急車のおかげで(或いは、せいで)いつもよりかは夢が短かった。

 あの夢にはもう少し続きがあるはずなのだ。


 枕元に置いている時計を見れば、長針が5の文字を指している。

 どうやら近くにとまっているらしい小鳥がチュンチュンと鳴っている。

 いつもは、もう少し後、6時から6時半の間に起きているのだが、変に目が冴えてしまって二度寝は出来そうにない。仮に出来ても、寝過ごしてしまって遅刻するのが落ちだろう。


 もそもそと布団から出て、目覚ましの予約を取り消す。その間も、時計の短針はチクチクと動き続けている。寝付く前に、この音が気になって寝れないことがたまにあるので、デジタルにしようかとも思ったが、アバウトな時間が判るからそのままにしている。


 その時計の横に座っている、少しよれったクマのぬいぐるみにも「おはよう」と挨拶をして寝室から出る。

 ぬいぐるみには名前も付けていて、昔は名前も呼んでいたのだが、このままじゃいけないような気がして最近は止めている。


 いつもより、早く起きたのに不思議と頭がシャッキリとしている。顔を洗えば、よりスッキリしたような気がする。


 食パンを焼いている間、私はテレビの前に座って適当なテレビ局の番組をかける。この時間帯だから当たり前と言えば当たり前だが、報道系の番組をやっていた。どこかの川に鯨(だったか、イルカだったか。まぁ、どちらでも私の生活には関係ない)が現れたとか……。


 今の私にはそんなこと、心底どうでもいいように感じた。


 目の前にはテレビがついたままだが、殆ど頭には入っていない。景色と化してしまっている。

 夢の続き、それはこんなものだった。


  *

 「お父さん?」

 私は、お父さんに声をかけるが、怒鳴られることもなければ動く気配もない。無視されているというのが正しいのだろうか。


 どんだけ、肩を叩こうが、揺すろうがお父さんは起きる気配を見せない。お父さんにやれば、怒られるんだろうな、そうも思ったような気もするが、本当かどうかは判らない。子供の記憶なんて簡単に改竄されるものだ。


 チャプ。私の足のスリッパを何かが濡らした。

 思えば、この時、お父さんの周りからは、普段のお父さんからするような臭い匂いがしていた。

 空いた酒瓶がテーブルから程遠くないところに転がっている。

 ああ、さっきの階下からの音はこれだったのか。


 お母さんは?

 ああ、いた。お母さんは椅子に座ったままじっとしていた。まるで、かのように。

「ねぇ、お母さん、お父さんは全然起きないよ。


 しばらくして、お父さんのドウリョウの人が来て、キュウキュウシャを呼んだ。お父さんと、お母さんを連れて行かれたまま、私とは会わなくなった。


 二日後くらいに、お花に囲まれた二人のを見たっきり全然。


 火……。燃えるビル……。

 私はそれをどこからか見ている。どうしてか、ここだけは画像も音声も鮮明じゃない。そして、その時、私の隣にいるのは……。


  *

 ピーピーピー。

 食パンが焼けたのを知らせるアラームが鳴っている。

 どうやら、今日は夢も、その記憶も音によって邪魔される日らしい。

 

 

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