第9話 2人目の幼馴染

「久しぶりに親戚の集まりにでも顔を出しに行くか」


遽然、父親はこんなことを言い出した。


「尤が産まれてからは、まだ一回も行っていないことだしな」


「そうね、せっかくだし今回は行きましょう」


どうやら母親も乗り気らしい。


・・・めんどくせぇぇぇぇ。


親戚の集まりなんて、どうせ爺さん婆さんに愛想と愛嬌振りまき続けなきゃいけないだけの超ダルいイベントだよなぁぁぁ。


何か断るための口実を考えよう。


前世では確か不治の宿痾に罹っている、とかいう設定を使って一回も参加せずに済んだけれど、今世ではどうしたものか。


もう一度同じ設定を流用するのは、なんだか風情が無い気がするから避けたい。


情に訴えるためには、人情だけでなく風情も必要な気がするからね。


うーん。


僕は手を束ね、枯れ木のように冷然と沈思する。

が、なかなか良い案が思いつかない。


「どうした、尤。そんな難しそうな顔をして。どこか体調でも悪いのか?」


「あらあら、それはとても心配だわ。今日の集まりは大事をとって休んだ方が良いかしらね」


しめたっ。


仮病は断続的に使える理由にはならないけれど、その場しのぎには有効に働く。


本来はあまり使いたくはない方法だったけれど、そんな瑣末事なんて気にならないくらい、僕は集まりに行きたくない!


「しかし残念だ。今日は尤と同い年の女の子が来るって話だったのに。」


「そうね、尤ちゃんはまだお友達が凜ちゃん一人だけだから、新しいお友達ができるかもって思っていたのだけれど」


む。


むむ。


むむむ。


同い年の、女の子・・・?


なんとも聴き心地の良い言葉を聞いてしまった気がする。


ふっ。


僕は危うく、初心を忘れるところだったよ。

可愛い幼馴染といちゃラブな人生を送る。

生まれ変わる前、僕が末期に祈った唯一の願い。


最近出逢いが欲しいって思っていたのは、他でもないこの僕自身じゃないか。


その機会をみすみす見逃そうとするなんて、僕はなんて愚かなことを。


「僕は大丈夫、行きましょう二人とも!」


僕は子供らしく、溌剌とした大きな声でそう言った。






「まさか弓槻の家の者が来るとは・・・」


「どういった風の吹き回しだ・・・」


親戚の集まりに行ってみたものの、どうやら僕たち家族はあまり歓待されていないようだった。


何やら複雑な事情が絡みそうだったので、その辺りのことは省略させていただくとして。


僕は全力で同年代の女の子を探す。


集まりはさるホテルの宴会場で行われていた。


僕の現在の身長よりも高い丸テーブルが何個もあって、その上に食べ物やら飲み物やらが置かれている感じの、よくあるパーティといった感じのものだ。


スーツを着た人、スーツに着させられている人など、色々な人達で横溢した会場を進む。


まるでジャングルをかき分けながら進む探検隊みたいだな、と思った。


無論、求めるのは財宝ではなく幼馴染なんだけれど。


両親ともはぐれ、5歳児の視点では喬木のように見える大人達に視界を阻まれたために(特にスカートを履いた若い女性には目を奪われた)、僕はいつのまにか方向感覚を失ってしまっていた。ほうほうの体で、人がまばらな場所に抜け出すことはできたけれど、ここが会場のどこに位置するかも分からない。


どうしようかと思索しながら歩いていたせいで、僕は目の前から歩いてきていた人に気づかず、接触してしまった。


ぐでん、と尻もちをつく僕。目の前には、僕と同じく尻もちをついている5歳児くらいの女の子がいた。


「ごめん、大丈夫だった?」


前世ではイギリス王室にすら認められた(認められてない)紳士さを存分に発揮して、僕は女の子に右手を差し出す。


「・・・うん、こっち、こそ、ぶつかって、ごめん、ね・・・?」


なんて優しい子なんだろう。


自分だって痛いはずなのに、実際に声も震えているのに、それを我慢して僕に謝ってくれるだなんて。


爪の垢を煎じてどっかの桐原にも飲ませてやりたいくらいだ。


女の子は僕の手を取って、ゆっくりと顔を上げる。




この気持ちになったのは、桐原凜と初めて会った時爾来、2年ぶりだ。


ついに見つけた。


僕の幼馴染候補生。

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