第2話 旅立ち

「それでは、出発いたしましょうか。魔法使いリーリエ様」


「はい。それではよろしくお願いいたします。あの、ちなみに王都まではどのくらいかかるのでしょうか?」


「トラブルなく進んだ場合はおよそおよそ二ヶ月といわれています。しかしほとんどの場合何かしらあるのでもう少しかかると思っておくといいでしょう」


そうか。この世界基準からするとそこまで長くはないのは口調から分かるが私からしたら今まで一度もサーシェ村近辺から離れたことがないからすごく長く感じる。でもこの旅が終わったら姉さんたちに胸を張って顔を合わせられると思うとやる気が出てくるのだった。


「気をつけて行ってくるのよ。途中で魔物や賊に気をつけてね。でもリーリエのことなら大丈夫ね。うちの自慢の努力家な魔法使いさんだもの。ああ、でももし困ったことがあったら無理せずお姉ちゃんたちを頼るのよ。あとうちにはいつでも帰ってきていいからね」


「ありがとうお母さん。かなり突然の別れだけどこれも旅だからね。...パーティーの人たちが優しいといいな。うん。それじゃあ行ってくるね。またねお母さん、お父さん」


「お前はうちの自慢の魔法使いだ。これからきっともっと伸びる。いっぱい経験してこい」


「本当に、気をつけてね。いつでも帰ってきていいのよ」


二人が名残惜しそうに、それでも笑顔で私のことを見送ってくれる。

思わずじわっと目が潤んでくるがぐっと堪えて馬車の進行方向を見る。先には果てしない街道が続いており途中には山道や暗い森も見える。怖くてあまり行きたくはない。しかしこれも魔法使いになるためには必要な道である。


というのも、魔法使いというのはランクがある。それはもちろん別の職業にもあるのだがここでは魔法使いについてだけ語ろう。


魔法使いは魔法使用者、魔法使い見習い、魔法使い、魔術師、大魔術師、賢者という順番でランクアップしていく。これは魔法ギルドが定めており実践経験や対魔物との試験などで上がっていくのだ。誰もが大魔術師や賢者に憧れるがそんな存在になれるのはほんの一握り。いや握れてもいないかもしれない。現在生存する賢者はたった三名だ。本当は四人いるはずなのに数年前一人が亡くなってしまったのだ。


その賢者、西の賢者を殺したのは魔王と呼ばれる魔物界最強の存在だった。

魔法使い最高峰の賢者、剣士最高峰の剣聖、僧侶最高峰の神者、そして勇者最高峰の英雄。その彼らを皆殺しにしてきたその魔王はこの世界の長い歴史に暗い影を落としてきた。


そしてその魔王を討伐するため国によって組まれるその国で一番有望な新人パーティー、それが勇者パーティーだ。これは百年に一度組まれ今まで何百ものパーティーが挑んできたがどれも成功することはなかった。


そして、それに挑む二百六十六回目のパーティーが私の入るパーティーである。名前は後ほど皆で決めろというわけである。まあもう伝統行事みたいなものだが。



これからの未来、何が起こるのだろうか。

私は今まで出来うるかぎり魔法の練習を積んできた。しかしそれが足りるのか、また私にセンスや才能があるのかが全くわからない。ここが一番不安である。

それに、今までの歴代勇者パーティーの人たちは変人や変わり者が多いという言い伝えもある。言い伝え、とあるがこれは確かな事実である。先代の勇者なんてヤバかったらしい。お願いだから常識人でいてほしいというのが私の願いである。


ぐるぐると同じようなことを考えては憂いて、しかし何かしなければと魔法の練習を重ねまくる毎日。そしてとうとう、馬車は王都着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永久の勇者に花束を 蒼久若々 @kiki16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ