永久の勇者に花束を
蒼久若々
第1話 リーリエ
あれはもう八十年前の事になるのかしら。
何十年も前に魔王を討伐した勇者一行の銅像。
それは月日が経つに連れ滅び今はもう森となった村の中心に今も変わらず立っている。
方には鳥がとまり、足元には忘れな草の青い花が群生している。
リーリエは勇者像を眺めながら若かりし頃の記憶を遡る。
それは、勇者イルヴェとその一行と出会った日のことだった。
勇者イルヴェ、戦士シリウス、僧侶ローズマリー、そして魔法使いリーリエ。
この四人は魔王を討伐する為に組まれた人為的なパーティーだった。
最強の勇者、歴戦の戦士、実力のある僧侶、天才的な魔法使い。
最初はみなよそよそしかったが旅をするうちに分かる彼らの人間性。
みんなと苦難を乗り越え、喜びを分かち合い、時には喧嘩したあの日々。
今思い出すとこの記憶が私の宝物だったのだなと思う。
あの二十年の記憶が、イルヴェが私の永久の光となり私の心を照らし続けた。
今彼は何をしているのだろうか。イルヴェにまた会える日は来るのだろうか。それとも誰も知らない世界へと旅立っていったのだろうか。
私は朽ち果てた勇者イルヴェの銅像の前に忘れな草の花束を捧げる。
花言葉は、私を忘れないで。
私じゃなくてもいい。どうか、彼の事を忘れないでいてくれる人がいるといい。
そう思い、一筋の涙が石碑の上に落ちる。
そうだ、姉さんにもあいたい。みんなとまた会えたらいいのに―――――
その瞬間、ばたりと人の倒れる音が深い森の静寂の中に響く。
そして私がそこを動くことは終ぞなかった。
―――――――――――――――
私の名前はリーリエ。
私はサーシェ村という小さくても明るく活気のある村に住むただの少女だ。
一つ違う点と言われたら、私はここらでも有数の魔術師一家に生まれたの。私は五人姉妹の中の末っ子として育てられ、上の姉たちが私のことをとてもかわいがってくれたために幸せな幼少期を過ごしたの。
長女アイリーンは元気で家族思いの憧れのお姉ちゃん。彼女は才能ある若き炎魔術師として国お抱えの宮廷魔術師団に二十で入団した。
次女エミリアはぼーっとしているが実は冷静でとても頭がいい自慢のお姉ちゃん。彼女は探知魔法が得意で世界で大発見となった魔法の原理を発見し世界有数の魔術研究者となり調査のために世界中を旅している。
三女ミレイユは優しくてみんなに好かれる頼れるお姉ちゃん。彼女は水魔法において群を抜いて優秀で王都魔術学校の教師をしている。
四女カトリーヌはおふざけも多いけど面白くてみんなを笑わせる友達みたいなお姉ちゃん。彼女は風魔法において天才的で二つを両立しながら世界有数の特級冒険者として人を助けて回っている。
上の姉たちが立派な魔法使いとなり旅立っていく姿を見送り続け、私は彼女らに憧れを持っていたと思う。
自分で言うのは何だけど私ははやろうと思ったことはとことんやり何が何でも成し遂げるタイプだった。
姉のような魔法使いになれるように沢山血反吐が出るほど努力した。姉さんたちに幼い頃から憧れて魔術を教わり、そして自分の魔力量をずっと上げてきた。私は多分姉さんたちには劣る実力だが、早くも十六歳で魔法使いになれた。
このあと、私は何をしようかな。
アイリーン姉さんみたいに宮廷魔術団に入るのがいいかなぁ。
エミリア姉さんのように世界中を周るのもいいかもしれない。
それともミレイユ姉さんみたいな先生も憧れるなぁ。
カトリーヌ姉さんのような冒険者もいいかも。
それはリーリエが未来への希望を持って自身の進路を考えていた矢先のことだった。
「王からの使者です。こちらのお宅にリーリエ・ミルフェ様はいらっしゃいますか?」
珍しいことだ。こんな辺境の村に王都から人が来るなんて。そう思っていたらなんとその人は私を探していたのだ。
「私がリーリエです。王都からの旅は長かったでしょう。しかし、私なんかに何か用があるのですか?」
「私なんかとはそんなご謙遜を。この度魔王討伐のため勇者パーティーを組むことになりまして魔法使いの位置を決める際、貴殿の姉であるアイリーン様、エミリア様、ミレイユ様、そしてカトリーヌ様らがリーリエ様を推薦なさったのです。陛下もリーリエ様が勇者たちと魔王討伐の旅に向かう事をお望みです」
勇者?え?私が?
そんな、ありえない。そうリーリエが思っていたが彼女の知る常識はあの姉たちなのでそんな常識当てはまらない。
世間的に見ると、魔法の全属性を持ち異常な魔力量を持ちそして美しく、高威力で正確な魔法。それを齢十七にして兼ね揃えたリーリエはまさに世界一の魔法使いにもなれる素質があった。
そしてそれに本人は気づいていなかったが姉たちはすでに気づいていた。
彼女がさらに成長できるように、そして彼女に友達ができるようにと彼女らがリーリエを推薦したのだ。
もちろんリーリエがそれに気づくことはなかったが。
「こ、こんな私なんかで良ければ引き受けます。何より陛下のお願いでもあるので」
勇者パーティーなんてこの国で一番強い各役職のエキスパートのパーティーだ。きっといい経験になるし断る理由なんてない。まあ陛下のお願いというところが断るという選択肢をなくしているというのはあるのだが。
「ありがとうございます。それではリーリエ様、行きましょうか王都へ」
「い、今からですか?!」
「そうですが?他のメンバーの方々は王都付近で活動されている方々なので」
「わかりました!急いで支度してきます」
なんでこっちゃ。王都の人は気が早いらしい。
「いえ、急ぐことはないですよ。すみません。では明日の夜に出発いたしますのでそれまでに挨拶や荷造りをすることはできますか?」
「お気遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて」
リーリエは丁重に答え、しかし足早に我が家へと歩く。
家についたらいきなり連れ出された娘を心配した両親が待っていた。
使者からの話を伝え、リーリエは両親に別れの挨拶を告げる。急な旅立ちで驚いていたものの、もう四人の子どもたちを送り出してきた二人は私を引き留めることはなかった。
二人はとてもいい親で私の自慢の父さんと母さんだったので離れるのは寂しいが、いつかそんな日は来る。ここは耐えないといけない。
そしてリーリエは十七年間過ごしてきた部屋の中を改めて見る。
本棚にはぎっしりと魔導書が詰まっており棚には私の作った数々の魔導具が入っている。そして机の引き出しにはリーリエが姉たちとの別れの時にそれぞれもらった思い出の品が入っていた。
「なつかしいなどれも...これはアイリーン姉さんがくれたお守り」
真っ赤な石が埋め込まれているネックレス。それは後に調べてみると炎魔法の効果を上げて運が良くなる特別な石が入っていた。このネックレスをつけていた日、私は魔物に暗い道で襲われた。しかし、この石が光り輝きその魔物を焼き尽くしたのだ。これがなかったら今私は生きていないかもしれない。
「これはエミリア姉さんがくれた世界一の魔導書」
エミリアは家を離れるとき今までずっと書いていた彼女の魔導書を私に託した。そこには炎、水、風、土、光、闇の六大属性の他に彼女が開発した草魔法と雷魔法の使い方が書いてあった。これはエミリアとリーリエだけの魔法で誰も真似することができない。
「これはミレイユ姉さんがくれた鞄」
この鞄はいつか私が旅立つ日を見越してくれたくれたアイテムボックス機能のついた特別な鞄。これさえあれば何でも持てて重くないとくれた。彼女は先生になったのであげるならばリーリエがいいと私に渡してくれた。
私は部屋中の必要なものをこの鞄に押し込んだ。役立つ日がきっとくるよ、と言ってくれた意味が今わかる。
「そしてこれがカトリーヌ姉さんのくれた魔法の杖」
カトリーヌ姉さんはものづくりにおいて才能があって、彼女は旅立つ日に向けてリーリエ用の杖を作っていた。というのもその頃にはリーリエの使っている見習い用の杖では威力に耐えられず壊れてしまうと思ったからだ。
そしてカトリーヌ姉さんの予想通り、姉さんが旅立った次の月ぐらいに私の古い杖は爆破事故を起こした。やっぱり姉さんはすごい。
その杖は私にぴったりで私の魔法効果をすごく高めた。そしてとても頑丈だ。前崖の上で魔法を打つ練習をしていたらうっかり崖下に落としてしまったときも傷ひとつつかなかった。もういっそ鈍器として使うのもありかもしれない。いや嘘だが。
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