そのハチ 口裂けさんアゲイン

 商店街のポストの上に、メリーさんはすでにちんまりと座っていた。

「来て下さってありがとうございます。よろしくお願いします」

 固くなった口調でそういいながら、早苗はメリーさんを拾い上げる。そしてギクリと体を震わせた。

(冷たい……!)

「ワタシ、メリーサン。ダッテ、ノロイノオニンギョウダカラネ……」

 早苗の動揺を見透かすようにそう言うと、キョロリと目だけを動かして。

「ソコダヨ」

 メリーさんを手にしたまま、早苗も弾かれるように視線を向ける。

 そこには、今まで無かったはずの、あの路地。

「ココガイリグチ。。デモアナタ、ココニハイレルカナ?」

 もう一自分の体の震えを感じながら、しかし早苗は、メリーさんを抱きながら暗い路地に足を踏み入れて行った。


「ふうん……そうかい、それでアタシのところにねぇ!思い切ったもんだ。流石はあの鴻神の家の娘ってとこ。いいね、気に入ったよ。

 何より……脚が震えてるとこが、ねぇ……」

「どういう意味ですか?」

「あぁいいね!その声もいいよ、アタシを怖がってる声だ。堪らないねぇ。アタシら化け物にはそいつはごちそうだよ!

 つまり、お前は今。自分はノッコの友達だから、何を聞いても言っても大丈夫だろうってさ、そうやっては無いってこと。

 それでも。ノッコとあのもう一人の娘のために、やむに已まれずお前はアタシに会いに来た……そこさ、気に入ったのはね。

 で?アタシに何が聞きたいんだい?ま、全部答えてやれるとは思わないでおくれ。お前が聞きたいのはどうやら、アタシが答えられないことばかりだろうから」

 路地の奥へどれほど歩いたのだろうか?早苗には道中の時間感覚は失われていた。やがて闇の中から音もなく現れた口裂け女は、対峙した早苗にそう最初に釘を刺す。

 少し言葉に詰まった早苗、だが思い切る。

「まず……根本的な事から聞かせて下さい。あなた方『都市伝説の現代怪異』とは、どういう存在なんですか?霊や妖怪とは同じなんですか?それとも?」

「何だって?ハハッ!」口裂け女は首をのけぞらせて一つ笑い、次いで早苗の顔をグッと覗き込んで。

「面白いことを聞くじゃないか!確かに?得体の知れない相手とは話はしにくいよねぇ。いいよ、話はそこからだ。お聞き、アタシらは……『鯛焼き』さ」

「……タイヤキ?え、それって、あの?」

「そうさ。生地を型に流して、はさんで焼くあれだよ。ハハハ!いや、そ言っちゃあわからないだろうねぇ。でもそうなんだ。よくお聞き。

 まず見てごらん、今この路地でアタシとお前を包んでるこの黒いモヤモヤ。お前、これは何だと思う?」

 口裂け女の意外な反問。異界から流れ出すそれを、早苗は単にあちら側のただの空気のようなものだと思っていたのだ。あるいは。

「あなた方が出す、何か……瘴気といったものですか?」

「ハズレだね。そんな物騒なもんじゃないし、アタシたちが出してるわけでもない。逆さ、この黒いモヤモヤがアタシたちの素。アタシたちはのさ。

 ……つまりこれが鯛焼きの生地だよ。で、鯛焼きを焼くにはあとは型があればいい。そうだね?今度は思いな、川の流れをさ」

 口裂け女の言葉は次々に飛躍する。それは何かの預言のよう。しかし早苗は惹きつけられる。この世界の奥に潜んでいた神秘、その片鱗を垣間見ることの出来る興奮。

 もしこの場に仁美がいたら。その時、早苗は親友の心が初めてわかった気がした。

「山の上から海まで。川の水は流れて行くね?それに乗って木の葉だのなんだの、色んなものも流れてく。だけどさ?川は曲がりくねって、深い所も浅い所もある。流れてきた物はだから、全部は海には帰れない。引っ掛かって、そのまま淀みに溜まっていくものもある。

 人や生き物の命の流れ。生まれては死に、その間にいろんな思いを残す。その中で、悔しいとか悲しいとか憎いとか、楽しい思い出への未練とか。果たせない思いが、溜まっていくのさ、お前の住む世界の外の、淀んだ窪みみたいなところに。

 ……わかるかい?その溜まった淀みが、この黒いモヤモヤだよ。言ってみりゃそうだね、命のさ。成せず果たせず、何物にもなれない!そういう命のカスの溜まったもの。

 だからさ?わかるかい、だからこそ!

 これは形を欲しがる。何かになりたがるんだ。そしてそこに。生きてる人間の何か強い気持ちやイメージがあったら。それを自分の姿として借りたがる……!」

 早苗にもだんだんわかり始めた。

「あなた……口裂け女の噂は、たしか1970年代末に広まったと聞いています。

 つまり、その噂をこの黒いものが借りて、形に?それが……あなただと?」

「アハハハハ、御名答!そうさ!あの噂話!

 ……それがアタシの、口裂け女っていう鯛焼きの型さ!!」

 早苗は少し首を傾げる。それは矛盾だ。

「でも……噂が無ければあなたは生まれなかったし、あなたがいなければ噂にならなかったんじゃ……?」

「そう、鶏と卵だね。どっちが先か後かって?こう考えな。口裂け女って型は、最初からキチンと出来てたわけじゃないのさ。最初は何かこう、ぼんやりした女の幽霊だかお化けだか、得体の知れない噂があったんだろうね。鯛焼きの喩えで言えばさ、頭も尻尾も見当がつかない、のっぺらぼうの型が、まずはあった。そういうのはいつの世の中でもそこらに転がってる。

 でも。お前だって人間のうちだ、『正体不明』ってのは落ち着かない、心の奥に呑み込めない、『のっぺらぼうの顔は、確かめたくなる』んじゃないかい?化け物にだって、いや化け物だからこそ、ちゃんとした形が欲しいのさ、人間の方もね!

 で、そのうち誰かがさ、ああじゃないかこうじゃないか、そうやって勝手に想像して、細かい所を肉付けしていく。鯛焼きを魚の形にして、しっぽと頭を決めて、鱗だの口だの目玉だのヒレの筋だの掘り込んで。

 噂は広がりながら、どんどん形が出来て……そしてある時!決定版が完成する。

 ……口裂け女の出来上がりさ。そして一旦姿が決まれば、今度はそれを見て噂もどんどん広まる……形が欲しいモヤモヤと、形を知りたい感じたい人間の心!それが響きあって生まれたのが、このアタシなんだよ。

 いや?ただ『アタシ』って言うのはどうかねぇ?

 なぁお前、今さ、この日本に『口裂け女』はいったい何人いると思う?」

「え……!」

 早苗はハッとさせられる。当時、口裂け女という怪異の噂は、テレビなどを通じてあっという間に日本全国に広がったという。すなわち。

「あなた以外にも、口裂け女は沢山存在している……そういうことですか?」

「そうさ。だから『鯛焼き』なんだよ、アタシはさ。ま、何人いるかなんてのは、実はアタシにも見当もつかない。隣町の口裂け女ぐらいなら、顔は知ってるけどね……アタシとそっくりさ。けどそれだけだ。お互い連絡取り合ってるわけでもなし、つるんでもいない。同じ型で焼かれた鯛焼きのアタシたちだけど、しょせん怪異ってのは、みんなひとりでに闇から生まれて、独りぼっちでそこに隠れて存在いきてる。そういうモンだからね」

「でも」早苗は気づいて問う、「この昴ヶ丘の怪異は、このLIMEで繋がっていたり……それは?」

「おっと、際どいところを聞くじゃないか?アタシたちにはリーダーが、『誰か牛耳ってるやつがいるのか』ってかい?そりゃあもちろんアタシ……と言いたいとこだけど、そうじゃない。アタシの口からは言えないね。でもお前……心当たりは……あるんだろう?」

 口裂け女は早苗の顔を覗き込む。まるで早苗の脳裏に浮かぶあの人物を見透かすように。

(土屋先生……!)

 突飛な飛躍。だがそう考えれば納得のいくことがいくつもある。怪異と家族ぐるみで交流があるらしい土屋一家。子煩悩な蔵人が慈しむノッコが、怪異たちに親しまれ愛されていること。そして何より……

 何に思い至ったのか。口裂け女と睨みあっていた早苗の険しかった頬が、不意に緩む。

「私、今日あなたに会いに来て良かったです」

 微笑みながらそう言う早苗。口裂け女は軽く目を見張ると、早苗はその表情に被せるように。

「あの方が、あなたたち昴ヶ丘の怪異のリーダーなら。私は安心です。

 くねくねさんは言ってました。あなたたちは人間に危害を加えるつもりはない、ちょっとおどかすだけだって。その言葉を、私は信じます、信じられます。

 あの方が何の理由で、どんな方法で、どんな存在だからあなた方を従えるのか、私にはわかりません。でも。あの方が、力づくであなたたちを無理矢理服従させているはずがない。そんなことをする方じゃありません。あなたたちは、優しいあの方を素直に慕ってついていっているだけ……あなた方にも、あの方の優しさに寄り添っていける心がある。そうなんですね?」

「……アハハハハ!」

 口裂け女は今までとまるで違う、からりとした明るい声で大きく一つ笑った。

「いいねお前、さっきよりずっと!ホントに気に入ったよ!!

 そうさ。どだい型と生地だけじゃ味気の無い鯛焼きもどき……アタシらに餡を詰め込んでくれたのは、お前の言う「あの方」だよ。昴ヶ丘の化け物はみんな、「あの方」のおかげでを貰ったのさ。だから……

 だからノッコはね、アタシらにとっては、大切なお姫様みたいなモンなのさ……」

 語るに落ちる……否。早苗にはわかる、口裂け女は早苗を信頼してのだ。

 「メリーとアタシらへの連絡先、大切にしな。こないだ見た通り、今この昴ヶ丘は物騒だ。アイツをどうにかするまではね。何かあったらすぐにアタシを呼びな!」

「つまり口裂けさん、あの宇宙人は、まだ……?」

「ああ。アタシらの作るこの闇の中に閉じ込めてやったはずが、アイツめ、簡単に逃げ出しやがったよ。なんてヤツだい、まったく……?」

 と、そこまで言って口裂け女は首を傾げる。何かに一つためらい、しかし思い切ったような顔で

「なぁお前、じゃない、早苗……そう呼んでいいだろ?アタシも一つ聞いていいかい?その……化け物が聞くのはどうなのかって話だけど」

「何ですか?」

 口裂け女は少し困ったような、実に微妙な顔で。

「そのな?その……『宇宙人』なんて物がさ、ホントにこの世にいるもンかい?」

「ああ……」聞かれた早苗も、何とも言えない顔がうつる。確かにそれを怪異が問うのは「自分は何様?」だ。早苗はあるいはふきだしてしまったかも知れない、現にあの「宇宙人」を見ていなかったのなら。

 早苗はごく真面目に答える。

「その……絶対いないとは言えないでしょうね。ただ、仮に他の天体に高度な知的生命体がいたとしても、それが地球に現れるのはまずありえないだろうとは言われています」

「そうかい、そうだろうねぇ……でも、だったらありゃ一体……何なんだろうね?」

「さあ……?」

 と、同じく首を傾げた顔をお互い見合って、やがて同時にクスリと小さく笑う。

「こりゃ済まなかったね」

「いいえ、こちらの方こそ。ありがとうございました」

 もっと聞いてみたいことは細々あったはず。だがもう十分。早苗の心は今満たされていた。これが潮時と思ったのだろう、早苗がぺこりと頭を下げると、すかさず。

「ワタシ、メリーサン。ダイジナオハナシノサイチュウハダマッテル、オリコウナオニンギョウ。サナエチャン、ココデオワカレシマショ」

 その言葉にニコりと頷きながら、早苗は抱いていたメリーさんを手渡しで口裂け女に託した。そして路地の出口に向かって踵を返したのだった。

 去っていく背中を見送りながら、闇に残った怪異達は囁き合う。

「クチサケチャン、スゴイネ、アノコ」

「ああそうだね、まぁもっとも、自分じゃまだ気づいてないようだけど。

 あのコは今、。爺さんめ、孫を見たらきっと驚くよ……!」


「ただいま、遅くなりました」

 早苗は少し堅苦しくそう挨拶して帰宅を告げる。元々礼儀正しく育てられた彼女、しかし普段はそこまででもない。ただ最近、何故か祖父の目がやたらとうるさい。

 遅く帰って来た事実は曲げようが無いが、せめて、と。

 すると。

「むむ?!早苗!」

 早速玄関に出て来た巌十郎、来たなとばかり首を縮めて身構える早苗だったが、次の祖父の反応は意外。

「早苗、お前……一体どうしたことじゃ?」

 呆然とした顔の祖父。てっきりまたガミガミと叱られるかと思った早苗は、祖父のその顔にこちらも呆気にとらわれる。だが「どうした」と問われても答えようがないし、まさか怪異に会いに行ったなどとは言えない。

「何でもないです。すみません」

 それだけ言って、早苗は巌十郎の側をそそくさと通り過ぎる。捕まるかと思ったが、これも意外、祖父は黙って見送るばかり。よくわからないがこれ幸い、トコトコと階段を上がり自室に退散する早苗。

「早苗……何があった?今朝家を出た時とまるで違うではないか……?」

 巌十郎の見る孫娘の、僅か半日の間での、驚くべき変化。

「なんたる霊力……まるで何年も修行をして来たようじゃ。これは一体……?」


 次の日の朝、通学バスをいつもより2本早めた早苗は、車中で思う。

(今日は来てくれるかしら。今日はきっと!)

 仁美としっかり話そう、早苗の決心は固い。彼女はのだ。

(私、はっきりわかった。この町の怪異は)

 善良で優しい、良き隣人。そう、怪異であろうとなかろうと、そのことは決して揺るがない。

 だから。彼らと、そして何よりノッコのことを、仁美に友達として認めてもらう!

 そう説得するのだ、と。バスを降りて登校の道すがら、何度も自分に言い聞かせていた早苗であったが、学校に着いたその時。

「早苗!」呼ばれて腕を取られる。校門の前で逆に待ち構えていた仁美に。

「やっと来てくれた!あたし、今日は始発で来て待ってたんだよ!」

 それは思いもよらぬ不意打ち。少したじろぐ早苗に、仁美は畳み掛ける。

「ノッコはまだだよ。早苗、早苗もここで一緒に待ってて欲しい。あたし、ノッコに話があるんだ」

「……わかった」

 一瞬は驚かされたものの、仁美の言葉とその真剣なまなざしを、早苗は真正面から負けじと受け止めた。そうだ、覚悟は決めてきたはず。例え年来の幼馴染、親友である彼女と仲違いになるとしても。今の自分はノッコを弁護しなければならない。

 校門を出て、左の下り坂が駅に通じる道。早苗も最前そこを登ってきた。ノッコも必ずそちらから来る。すれ違っているはずの二人が、しかし心合わせをしたように同じ坂の下を見下ろすと。

 やがてその姿が見えて来た。初めて会った時と然程変わらぬ、折り目の真新しい小さなブレザー姿の少女。はかばかしくない足取り、だがそれは確実に近づいて来る。

(ノッコ……)

 早苗はゴクリと一つ息を呑む。同じ音がすぐ近くから聞こえてくるのを、肌で感じながら。だがまたもや驚かされる。仁美が坂を駆け下りていく!急ぎ追って走る早苗。

 一方二人の急接近に、ノッコは怯えた顔で立ちすくんでいた。いや、もし足が動いたのなら、彼女はその場から逃げ出していたに違いないだろう。そんな顔だ。

 ついに、その固まったノッコの肩を、仁美が両手でとらえた。

「ノッコ!!」

 仁美の唇から叫びがほとばしるのと、早苗がすぐ傍に追いついたのは、同時。

「待ってたよノッコ!聞いて。あたし……ノッコに言いたいことがある。早苗も聞いて!」

「仁美!」

「大丈夫。あたし、落ち着いてるから。聞いてノッコ。

 あたしは、お化けとか、ホントは信じて無い。あたしはオカルトは大好きだけど、それは素敵な夢いっぱいのファンタジーとして。決してホントのことじゃない。

 ノッコのあの変わった友達も、ホントはお化けなんかじゃない。そう思ってる」

 仁美の唇からきっぱりと吐き出された、決定的なその言葉。青ざめたノッコ、やがてその瞳にまたもや、溢れそうな涙。早苗は無念に眉を曇らせる、そして急ぎノッコのために弁を張ろうと息を吸い込んだ、まさにその瞬間。

「……だけど!ゴメン、ごめんねノッコ!あたしが間違ってた!!」

「え?!」驚きの呟きは、ノッコも早苗も同時。

「関係ない。関係ないんだよ!あの人達が、ノッコの友達が、人間だとかお化けだとか、そんなこと!

 あの人達は、あの宇宙人をなんとかしようとして……あの男の人も助けて。町を、みんなを守ってくれてた。あの人たちは……ヒーローだったよ!!

 あたしは。あの人たちと、ノッコを信じる!!!

 だから……ひどいこと言ってゴメン、ノッコ!あたしは、ノッコの友達でいたい、いさせてもらいたい、お願いノッコ!!」

 たちまちノッコの両の瞳から流れ落ちる、しかし最前とはまるで違う色の涙。泣きじゃくるノッコを抱きとめ、背を撫でる仁美。見守る早苗は、胸には暖かい安堵、唇にはそっと苦笑い。

(何よ仁美ったら……!)

 散々気をもまされて、そのせいであんな冒険までしてきたというのに。親友は、一人勝手に自分の答えを見出していたのだ。自分が答えてあげられる以上の、最高の答えを。

(そうね私も間違ってたのかも、信じてよかったのよね、仁美、あなたを。あなたには敵わないわね、いつも。よかったわノッコ……)

 そして胸の中のノッコが少し落ち着いたのを見計らったのか。仁美はノッコの両肩は持ったまま、体を離してこう言った。

「ねぇノッコ?あいつは、あの宇宙人はどうなったの?みんなに聞いてない?」

「くしゅん……センパイ!口裂けさんがあの後、わたしのおウチに来て言ってました。みんなでやっつけようとしたけど、逃げちゃったって……」

「そう……だったらあたし、キミにお願いがある!あたし、あの宇宙人が許せない。なんとかしなくちゃ。みんなの力になりたいんだよ!

 それで考えたんだ、いい考えがあるの。

 あたし、キミのあの友達と会って話がしたい!お願い、会わせて!!」

 するとたちまち、仁美の懐から電話の呼び出し音。ちょっと嫌な顔になる仁美。

「……って、何ィ?モー、こんな大切な話の最中に!誰から……え?!」

 (ふふ、これは見ものだわ)

 早苗は思う、肝の太い親友からは普段滅多に見られないその仰天顔に。

「えええ??メリーさん??なんで?!えと……もしもしィ?!」

「モシモシ、ワタシ、メリーサン。イマ、アナタノウシロニイルノ」

 振り向いた仁美は、更なるびっくり顔。早苗が、メリーさんを胸に抱いている!!

「仁美どうしたの?そぉんな顔してさ」

 早苗はここぞとばかり、いたずらな顔でニヤリと笑い、自分のスマホの発信画面を突きつけて一言。

「私、もうこの人たちとはとっくに友達だから。代わりに呼んであげたのよ。

 すぐに一時間目始まっちゃうし、打ち合わせなら放課後ゆっくり、今はそれだけお願いしましょ?場所は良い場所知ってるわ。ねぇノッコもう一度、今度はちゃんと飲もうよ、クリームソーダ!」

 してやったりの早苗。仁美とノッコの顔が驚きから笑顔に変わるのには、ほんの少しだけ時間がかかった。

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