8.シーボルトって、オタクだと思うんです。

 カクヨムコン9に参加する予定の物語は、シーボルトの偉業の影響も多少受けています。


 ドイツの医者の息子として大学を出て、開業医となったシーボルトはオランダの軍医として、出島を訪れることになるというのは、比較的知られた話ですよね。


 でも、彼が訪れる数年前にイギリス軍艦がオランダ船を装って入港するという事件が起きました。

 船員の国籍がオランダでなければ、認められなかったんでし、厳しく取り調べられるようになってました。


 オランダ語を話せるとはいっても、ぺらぺらと話せるわけではなかったシーボルトです。出島の役人である通訳に、こいつは怪しいぞ!と見抜かれてしまうんですよ。

 シーボルトが驚くほど、オランダ語が達者だったそうですからね。

 でも、自分は高地に住んでいて言語が少し違う、訛りがあるんだといったように話したから、山オランダ人と訳されたそうです。


 日本国内でも、地方の訛りは分からないなんてのはよくあったことでしょうし、通訳もオランダの地理には詳しくなかった故の、解釈だったのでしょう。

 ラッキーでしたね。


 さて、上手いこと出島に入れたシーボルトですが、基本的に、出島から自由に出ることは出来ません。オランダ人でないと分かれば即刻退去です。


 出島のルールは本当に厳しかったんですよ。実際、偽っての入国がバレて退去になったとか、家族を連れてきたら許されず退去になった、なんてこともあったそうです。逆に、日本の女性との間に子をなしても、本国に連れ帰れない……という、悲しい話しもありました。


 厳しさは日本人側もなんですね。

 出入りの制限だけでなく、出島の中で手に入れたものを持ち出したりなんかも、重い罪となり、厳しく取り締まられてたそうですよ。


 あれ?鳴滝塾を作って、日本人に医学を教えたんだよね?日本の動植物の情報を集めて、出版もしてるよね?

 そんなに厳しくて、どうやって情報を集めたの?と思った方、日本史好きですね!


 そう、キーワードは「鳴滝塾」です。

 シーボルトは本当に優秀な医者でしたので、その知識や技術が日本側としては喉から手が出るほど欲しかったんです。なので、鳴滝塾が出島の外に作られ、彼が教鞭をとれたのは異例中の異例!


 当時の日本で、シーボルトの知識は、ある意味チートだったんでしょうね。


 出島の外で多くの若者と接する機会を得られたシーボルトですが、彼は医学を教えるために日本に来たわけではありません。

 動植物の調査をしなければなりませんでした。

 出島の外に出ることが出来ても、完全に自由になれたわけでもないんですよね。


 そこで、鳴滝塾の塾生たちに様々な論文を書かせることにしたんです。その課題は医学に止まりませんでした。

 そう、塾生の論文から情報を引き出したんです!


 論文や資料をオランダ語で書くことで、学力向上、語学力を身に付ける等を表の目的としたのかもしれませんね。


 医学の伝導を隠れ蓑とした真の目的は、日本の動植物や民俗学的な情報収集でした。

 いつドイツ人だとバレないか心配しながらも、仕事をこなす男だったわけです。なんだか、スパイみたいですね。


 ちなみに、シーボルトが動植物や民俗学の情報を集め、研究をしていたのはオランダから与えられた仕事です。

 元々、謎多き東洋の島国に興味があった彼は、オランダ船を派遣する総督に、熱烈アピールをしたことで、彼こそが適任者だ!と思わせたわけです。


 熱意って大切だな。


 そんな彼の波瀾万丈な人生が、私は好きなんですよ。

 だって、日本を探ってこい!て自分の国の密命じゃないんですよ。下手したら即刻退去です。なのに、調べた情報は全部オランダのものですって約束してまで、日本に来ちゃったんですよ。

 オタクそのものだな、とか思うわけです。

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