第8話 成井さんと謎の占い師
俺の人生運は50歳くらいが1番いいらしい。そんなこと言われてもな。俺25歳だから人生倍なんて想像つかないよ。
成井さんは30歳らしい。確か成井さんは20歳だから、やっぱり1.5倍。30は俺は5年後だけど、成井さんには想像つかないだろうな、と耳だけで聞いていた。視線はとりあえず占い師の手元にある水晶玉に釘付けにして。水晶玉は三脚の台に乗ってて、占い師がモヤモヤと動かす手の様子を反射してた。
「いよいよ恋愛運ですね」
俺と成井さんはその言葉を聞いて、同時にごくりと喉を鳴らす。思わず見合わせたその顔は、右半分は少し恥ずかしげに苦笑していて、左半分はまるで生贄の子羊を受け取る魔女のように爛々と輝いていた。魔女の格好補正と思いたい。
それにしてもいよいよってなんだよ、俺はこれから死刑判決を受ける被疑者の気分だよ。
「お2人の相性は基本的に良好です。ただ、お2人の間にその関係を邪魔する存在があります。それを取り除かない限り、お2人が結ばれることは難しいでしょう」
「えっその障害とはなんでしょう」
「それは……」
成井さんの言葉に占い師は意味深に俺を見て、つられて成井さんが俺をガン見する。やめて、俺のSAN値はもう0よ!
「それはそちらの男性がご存知なのではないでしょうか」
「えっ俺のせいなの? なんで!?」
……心当たりはあるけどさ、ありまくるけどさ、なんでなのかは俺も知りたいよ! この心臓がキューってなるのが極まる前に。
「村沢主任、ひょっとして実は結婚されてるとか」
「ないない!! 全然ない!! 俺の戸籍は清く正しい!」
とっさに訳のわからないワードが飛び出しても責めないでほしい。
まるで蛇に睨まれた蛙だ。助けて、まじ助けて! 藁を掴むような気持ちで占い師を見る。占い師は俺の勢いにちょっと恐れをなしたようだ。
「拝見した感じでは、そちらの男性は理由はご存じないようです」
うん、俺すごく潔白。
その言葉で俺の心臓を今にも握りつぶしそうな圧は少しだけ弱まった。でも俺はここが聞きたい。俺が知りたいのはまさにそこなんだ。
「あの、俺は本当に心当たりがなくて。その原因って占いで分からないものなのですか?」
「少々お待ちください」
「追加料金が発生してもいいので」
「あ、そういう問題ではないのです。私も本当にわからなくて。他の占い師を読んでもよろしいでしょうか、追加料金は結構です」
「是非お願いします」
壺でも買わされると思ったけど良心的だ。
占い師が
俺は2人の間の障害を取り除く方法を金を払ってまで聞こうとしたわけだ。oh……。
しばらくして占い師は少し年配の女性を伴って現れた。
びっくりした。
「とりあえず見たよ。主な原因はそっちのお兄さんだけど、根本的な原因はそっちのお姉さんだ」
やっぱ俺が原因なの? なんで?
「まずお兄さん、半年ほど前に変なもの食べて腹を壊さなかったかい? 腐った魚みたいな」
記憶を探って、ある出来事に思い当たる。
「鮒鮨みたいなものなら食べてお腹壊し記憶はありますが、同じ会社の人も壊していたので違うと思います」
「それは人魚の干物さ」
「はぁ?」
よりにもよって人魚の干物。いや、ええと。ジュゴンとかそういう意味? 沖縄に行けばジュゴン生息してるらしいけどさ。
あれは確か鮎川さんがどこからともなく持ってきたお土産だったと思う。鮎川さんはたまに会社に来ると思ったら変なお土産に持参してきてさ……大体がタッパーで。美味しいのもあるけどたまにヤバイのもあるから最初はみんな恐る恐る一口だけ口にする。慎重な人はみんなが食べて30分後に食べる。
半年前のアレはやばかった。食べる前は別に変な匂いも何もしてなかったから大丈夫かなと思って食べたんだ。紙皿に広げられてたし半生っぽかったから時間を置いてあとで食べる方が当る気がして。でも食べた瞬間2人が気絶して4人が床に転がった。俺は転がった方だ。
「でも流石に人魚はないんじゃないでしょうか。それに俺以外にもっと酷く当たった人もいます」
「それはお兄さんにこれまでの蓄積があって、あと体質とか家系も大きい」
「家系?」
「お兄さんの先祖は
「はぁ?」
流石にそれはない。俺の家は先祖代々由緒正しき農民だと聞いている。鮎川さんの謎物質はともかく流石に人魚の干物に安倍晴暗はないだろう。まだ成井さんが魔女の家系と言われた方が信じられる。というか心の奥底でそう直感してるわけだけど。そんなわけで俺は占い師を大分胡乱な目で見始めていたはず。
でも俺の不信感は占い師の次の一言で覆った。
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