海洋しげん探索機構 結
見慣れた景色、ワープしたかの様な気持ち悪さ、脳が揺さぶられる。
地面に滑り落ち、体を強打する。止まらない吐き気に胃の中のものを全て床に撒き散らす。ふらつきながら緊急ボタンの下まで歩く。
「隼人…まってろ…いま、すぐ、呼ぶ…。」
緊急ボタンを押した後、誰かが担架を持ってこの部屋に入ってくる。時折聞こえてくる、自傷行為をやめさせろと言う言葉…。光が何回も通り過ぎていき…俺の記憶は途絶えた。
「目が覚めたかな。君たちはよくやってくれた!」
起きたら目の前に瀬下室長が腰掛けていた。そして、ここは病院のベッドであると伝えられた。
「機械に故障があった様で、君たちには不便をかけてしまった事をここで詫びさせてもらいたい。申し訳ない。」
瀬下室長は水圧に機械が耐え切れず、シンクロシステムに支障をきたしたと説明してくれた。しかし、全てが故障したわけではなく俺がまとめていたデータに関しては本当であった様で、見つけたしげんに対して対価が払われるという事も説明してくれた。
「君たちが見つけてくれた死源はこの世の中を大きく変える事でしょう。対価も相応に支払われますので、ここにサインをお願いします。」
瀬下室長は秘密保持契約と契約満了の書類と対価の支払いに関する契約書に関してを出してきた。
「瀬下室長、アレはなんだったんですか?」
「アレとは?」
「いや…見た様な気がするんです…異質な…この世者とは思えない悍ましい何かを…。」
「シンクロシステムに異常があったのです…、その際に幻覚を見たのでしょう。」
その回答に納得はできなかったが、その事象の説明も自分では出来ず断念した。
「瀬下室長、もう一つ。隼人は…どこに?」
「隼人くんは別の病院にいます。混乱しているようで、自傷行為を繰り返してる様でね…。今は会えないよ…。」
瀬下室長は何かを隠している様に見えた。しかし、体のしんどさが勝ってしまい追及する余力はなかった…。資料にサインをして室長を追い出した。
瀬下室長はあれは機械の不具合だと言っていたが、絶対に違う。超自然的な何かであるのは間違いない。そして、あそこはその超自然的な何かが作り出した場所であるとしか思えない。
そして、退院の時を迎えた。病院の外には一台の黒いバンが止まっていた。扉が開いており、俺に中から乗れと言っている。
「ゆうちゃん…無事でよかった。霜野、出せ。」
黒塗りの車の中には智さんが乗っていた。そして、瀬下室長の部下の霜野さんが運転していた。
「ゆうちゃん…、すまなかった。止められなかった俺の責任だ。」
「智さん、どうしたんですか…。智さんのおかげで俺は帰ってこれたんだと思ってますよ。」
「隼人にも悪い事をした…。」
智さんがひたすら俺に謝ってくる。あの超自然的な現象に関して何かを知っている様であるが、この調子では聞けない。
すると車はどこかの病院に入って行った。
「隼人に合わせてやる…。これが俺にできる最後の償いだ…。」
「隼人がいるんですね!」
智さんは病院の受付を怒鳴りつけ、隼人の場所に案内する様に催促した。
「ゆうちゃん…。」
その言葉の意味は隼人を見ればわかった。全身を拘束具でぐるぐる巻きにされ、身動き一つ取れないそんな隼人がそこにはいた。猿轡をはめられながらも何かを呟いている。
「空が…宇宙が語りかけてくる…。わからない…。」
俺は隼人が言っている言葉を聞き取り声に出した…。涙が溢れた…、超自然的な何かのせいで狂ってしまったのだ。
「智さん…、隼人は…もう…。」
「ゆうちゃん…すまない…。どうしようもない…。見つけてしまったんだ…人類は…あれを…死源を…。」
泣きじゃくる俺を連れて車に帰り、俺の家まで送ってくれた。
隼人と一緒に暮らしていた部屋…、一人だと全く物音がしない…。まるで心がなくなってしまった様な…そんな感覚だ。そして二、三日自堕落な生活を送っていた時、隼人が亡くなったと智さんから連絡があった。
そして、あれから2年たった…。見つけたしげんのおかげで生活には何不自由する事は無くなった。ある日のニュースを見ていると、少子高齢化異例の回復とのニュースがあった。
内容は80歳以上の高齢の方が次々と亡くなったことにより、逆転現象がおこったという事であった。そして、ニュースではこうも言っていた、皆死ぬ前に「空が…宇宙が語りかけてくる…わからない。」と言って死んでいったと…。
(独)海洋死源探索機構 完
【短編】(独)海洋しげん探索機構 ろぶんすた=森 @lobsuna
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