海洋しげん探索機構 転

 深淵に一筋の光が見えた。底にいた隼人の探査ロボがこちらに光を向けてくれているようであった。チラチラと岩肌に光が反射し、キラキラと光り輝く。


 「雄太、ここの岩肌、地底…全部、鉱脈に見えるんだが、俺の目がおかしいのかな?」

 「いや、海底鉱床に違いなさそう。ちょっとまって、いま検査ツールで簡単に検査してみる。」

 鉱物らしき物を少し岩肌から抽出し、簡易的な計測をかける。


 「隼人…コバルト、こっちは銅っぽいな。間違いない!」

 「やったぜ!これで俺たち大金持ちだ!」

 隼人の探査ロボの動きからその喜びの大きさが理解できた。そして、俺も内心の興奮を抑えきれそうになかった。


 深淵に潜っていくあの怖さは一瞬だけ吹き飛んだ。なぜ、今まで誰もここに潜らなかったのかと疑問に思うほどだ。こんなに資源があるのだ、誰かが見つけていてもおかしくない。ここにいたる事ができる地図や機材まであるのだから。


 「隼人、海底鉱床も見つかった事だし、サンプルを持ち帰って、報告しに一度戻らないか?」

 「雄太まってくれ。全貌を把握したいとは思わないか?もしもだぞ、全貌を知らなかったら政府の奴らにバックをちょろまかされる可能性もある。」

 「ん…。わかるんだが…。」

 隼人の言う事はすごく理解できた。しかし、漠然とした不安感がなぜかまた俺にのしかかる。ここにきてから智さんの言葉が頭から離れないのだ。


 「智さんも危ないっていってたからさ。今回はここまでにしておこう、データだけ集めてな。」

 「わかった。雄太はここでデータをまとめておいてくれ。俺はちょっとこの先を見てくる。なに、会話はできるんだから何かあったらすぐに呼ぶよ。」

 海溝は一本道であり、ケーブルも続いているので見失う事はないだろうと安易に考え、隼人を送り出した。


 「しかし、すごいな。鉛…銅だけでなく、金も銀もありそうだな。」

 片っ端の岩肌、地底から鉱物らしきものを採取しては簡易計測し、コロニーに情報を転送した。


 「まてよ…、このデータからすると…。隼人が行った方向に行けば行くほど金の含有量が増えている…。おい隼人、聞こえるか?」

 「聞こえてるよ。雄太お前の言う通り、こっちは金が露出してまるで神殿の様だぞ!やばいもん見つけちまったな!俺たち!」

 隼人はいつにもまして上機嫌である。隼人がどれほど奥まで行ったのかは定かではないが、俺も少し興味が出たので隼人のケーブルを目印に奥に進む事にした。


 何か巨大なモノが抉って作った様なその岩肌は異様な雰囲気を醸し出している。奥へ奥へと導く様に通路はどんどんと豪華に彩られていく。懐中電灯から発する光が金に反射して、不気味な光景を映し出す。まるで、何かを讃えるかの様に…。

 そして、突出している金は何かの偶像な様にも見えてくる。しかし、それは俺が知っている神の様な姿ではなく異様な形をしている。


 「すごいなこの金…どうやったらこんな歪な形に造形されるんだ…。もしかして、一夜で沈んだと言う、海底都市アトランティスなのか?」

 「雄太…、お前の言う通りアトランティスかもしれない。今、よくわからないが祭壇の様な広い場所に着いた。全て金で作られている…、ちょっと気味が悪いな。」

 「隼人、戻ろう…嫌な予感がする。隼人?聞こえてるか?隼人?」

 なぜか隼人が返事をしなくなった。ここでもまた、智さんのメモの事を思い出す。やばくなったらシンクロを切れ…その言葉が頭に流れ込む。


 智さんが忍ばせておいてくれたケーブルカッターを手に持ち、隼人のケーブルを辿る。


 金の山と聞けば聞こえは良いが、その金が歪な偶像を形取り、欲に塗れた人間を奥へ奥へと導いている様にしか見えなくなってきた。

 抉られた岩肌も今思えば、おかしな話であった。その岩肌を抉り取れる様な巨大生物はこの地球上存在しないのではないか…。ドリル鑿岩機でも持ってこない限りはこの様に削り取る事はできないであろう。

 

 「わがらない…。わがらない…。わからない…。」

 「どうしたんだ、隼人?何があった?」

 「わがらない…。質問がわがらない…!どうして、なぜ?わがらない…。」

 「質問?隼人?おい、隼人?いまいくから!」

 隼人に何かが起こっていると言う事は明白ではあった。会話が成り立たず支離滅裂になっている。


 どんどん気味が悪くなる岩肌に手をつき、地底を踏みしめながら、必死で隼人のケーブルを伝う。進むにつれ、俺の侵入を拒むかの様に違和感や抵抗を感じる。


 隼人が言っていた祭壇の様な場所に出た。


 「いやだ…、わからない…。理解できない…。わからない…。」

 隼人の探査ロボは何かの前に跪き譫言の様に同じ言葉をつぶやいている。


 「隼人…大丈夫か…?」

 俺が声をかけた時、隼人は何かに掴まれているかの様に海中を浮遊し始めた。


 「わかりません…。わかりません…。私にはわかりません…。ああああああああ!」

 海中を激しく振り回されるかの様に探索ロボが宙を舞う。その度にケーブルが地面に叩きつけられて海中が濁る。


 「なにが起こってるんだ…。言ってる場合じゃない、ケーブルを切らないと。」

 暴れるケーブルを足で押さえながら必死にケーブルカッターの刃を通す。海底探査に耐えられる様に作られているケーブルはそう簡単には切れない。そうしている間にも、隼人は超自然的な何かの力によって弄ばれている。


 「クッソ!隼人ぉぉ!まってろ!今すぐ!」

 ロボットの全体重がケーブルカッターに伝わる様に体重をかけてケーブルを断ち切った。


 「よし…これで隼人は戻ったはず。俺も…。」

 シンクロを切ろうとした時、体を巨大な何かに掴まれる感覚に陥った。

 目の前には巨大な目のようなものが見える。そして、それは俺に直接干渉する…。


 「わからない…。」

 全てがわからなくなった…。宇宙から何か質問を語り掛けられているそんな感覚だ。その質問以外何も考えられない…。そんな時メモの最後の一文を思い出した…生…。生きたい…生きたい…。


 「生きたい!」

 その言葉が勝手に出ていた。目の前の大きな目は怒りに震えた眼差しをこちらに向けた。

 その瞬間俺の意識は繭型のカプセルの中にいる体に戻ってきた。


 

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