第4話 吸血姫エリザ


 翌朝。フルトヴァンゲンの男たちは巨人ギガント兵の襲撃によって破壊された箇所を修繕していた。工兵らしき小人ホビット兵が指示をしながら、効率よく柵を修繕し、埋められた堀は再度掘り起こし、敵の死体を片付けて埋葬するなど、作業を進めていた。

 戦闘の翌日から勤勉に働く男たちのために、ミナを含めた女たちは炊き出しを行い、あたたかいスープやパン、干し肉や水、ホットワインなどをふるまっていた。


 その様子を、エリザはボーっと、少し離れた所から眺めていた。


「ねー、えりざー」

「なんじゃ?」

「はいっ」

「おぉ、これは蒲公英たんぽぽじゃのぅ」

「きれいだから、あげるねー」

「ありがとうの。あめちゃんいるか?」

「いらなーい」


 レイラは、ぽてぽてとたんぽぽが群生するあたりでひとり遊んでいた。


 その生命いのち子守こもりが、いまの彼女エリザの仕事だった。

 実は昨夜の反動からまともに脳が働かないので、自分からミナに提案したのだ。


(しかし、不思議なものじゃな・・・)

(ミナは、せつを家族だと誤認しておるようじゃ)

(そんなわけないのにのぅ)

(レイラこそが、ミナのすべてじゃ)

(拙は死に場所を探している老兵ばばあじゃし、この子の代わりに死ぬというのも、悪くないのぅ)


 エリザにとってミナの愛情は、心からうれしいもので、この身をすべて預けたくなるような、ぬるく心地よい温泉のような、そういうものではあった。


 しかし同時に、ひどく恐ろしくもあるのだ。

 これをうしなう未来があるのだとしたら、きっとエリザは耐えられない。


(もう二度と、うしなった生命いのちしのぶことはしたくないのぅ)


 しかし奪いに来るものは確実にこの森の中に存在していて、森の外に出たとしても今度は修道騎士がいて、彼らが所属する騎士団国家があるのだ。


 騎士団にとってヴァンパイアは忌むべき存在であり、族滅ぞくめつさせなければならない種族である。

 教義ドグマとして、そういう存在だと、彼らの聖典バイブルに書いてあるそうだ。

 彼らからエリザは常にその命を狙われていて、廃城を出た現在は、弱い種族ホビットとエドワルドしか、吸血姫エリザを守るものはいない。


(まぁエドワルドもいつかは、せつを裏切るかもしれないし、のぅ・・・)


 人質を取られて裏切る可能性だって、あるだろう。

 なぜならエリザとエドは、ただの協力関係で、


わたしを殺すための、共犯関係でしかないからのぅ)


 炊き出しを終えたミナと一緒に昼食を撮り、吸血おやつも済ませたあと、エリザは昨日治療してあげたホビットの家族からお礼をされたり、レイラを通じて里の子どもたちと仲良くなったりした。


 設備の修繕作業は3日ほど続き、無事に完了した。


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