第38話 水面川ローザseason2

 続く二層は、うって変わって自然とはほど遠い無機質な場所だった。

 鉄のような材質の壁、ひんやりとした空気が張りつめている。


「これは面倒だな」


 現れたのは、デュラハンという首のない騎士だ。

 能力はジャンケンだ。手数が無数にあり、相性が存在する。


 俺の呪術にも弱点がある。


 それは、意思を持たない魔物に死の宣告の付与ができないことだ。


 アンデットモンスターのような死人にも効かない。


 その理由は、おそらくだが恐怖だと思っている。


 呪術は相手の怯えが大好物だからだ。


 といっても問題はない。

 

 アマテラスとイザナギがあれば、俺は魔物を倒すことができる。

 だがそのとき、ローザが前に出た。


「ブラック殿、ここは我に任せてくれんかのぅ」


 そういって、ローザはぐるぐる巻きにしていた包帯をほどき始めた。

 俺の悪い癖だ。


 何でも1人でやろうとしてしまう。

 ブラックシュヴァルツはギルドであり、仲間だ。


 見せ場はそれぞれあったほうがいい。

 

 ”包帯www”

 ”ついに解放してしまうのか”

 ”そういえば最初からしてたなw”

 ”怪我かと思ったが、流石にそれはないか”

 ”ローザの必殺技が、ついに!?”


「もう後戻りはできないぞデュラン。巻き方を忘れちまったからのぅ」


 ”名台詞キター”

 ”ちゃんとタトゥーみたいなあるw”

 ”包帯に黒いのついてる”

 ”墨汁だなwww”

 ”凝ってて偉い”


 魔力最大のドラゴンストリームか、それとも闇のおもちゃブラックトイザラスか。

 彼女の想像は予測がつかない。


 首無しデュランは、カッコイイ剣を持っていた。

 ガチャガチャとなり響く銀甲冑、よくわからないドラゴンの盾持ち。俺たち男の子憧れみたいな風貌だ。


 そんな相手にどう戦うのかと思っていたが、驚いたことに――駆けた。


 ”まさかの近接!?”

 ”ローザ、ついに覚醒の時”

 ”大丈夫かな”

 ”ブラックみててあげて”


 彼女は確かに無茶をしがちだが、勝算の戦いはしない。

 裏モードを出すつもりだろうか?


 ――剣が、ローザに振りかぶられる。


 あぶなブラック!!!!


 しかし、それは杞憂だった。


 ローザは寸前のところで回避、そのまま、右手の平をピタリと甲冑に当てる。

 ひんやりしてて冷たそうだ。


「ちゅめたっ」


 ”カワ(・∀・)イイ!!声w”

 ”そんな喘ぎ声みたいな高音出るんだw”

 ”カワイスギ草”

 ”エロイ”

 ”てか、今の回避すごくね?”

 ”すごい”

 ”何するんだ?”


 次の瞬間、手のひらが光り輝く。


「死きとし死せるものよ。安らかに眠りたまえ――」


 詠唱を終えると、デュランは――まるで糸が切れたかのようにぷつりと砕け落ちた。


 ローザは立ち上がり、涼しい顔で歩いてくる。

 前髪をこれでもかと触りながら。


 今のは浄化魔法に近い。


 彼女は中二を好む。

 そんな魔法を想像できるわけがないはずだ。


 たとえそれが、想像で創造思いつきだとしても。


 いや――違う。


 俺は気づいた。


 ――こいつ、シーズン2の主人公になりきってる!


「殺さずの誓いは、大変だのう」

「ローザさん、思い切り死んでるよ」

「うん、デュランが天に召されてる」


 シーズン1で敵をバタバタと倒していた主人公が、なぜか悟りを開いたり、ヒロインのおかげで善性に目覚めるやつだ。

 そうか、だからローザは涼しい顔なんだ。


 普通ではありえない技を、想像と想像を重ねることで生み出した。


 更に殺さずの誓い(殺してる)で制約を掛けている。


 身体能力の強化も、おそらくその誓約のおかげだ。


「ローザ、2クール目ってことか?」

「流石はブラック殿、気づいてしまったか。それも、二年後パターンだ」

「クソ、それは確かに……かっこいいな」

「だろう。なんだったら、なぜか傷までつけているぞ。ほら」

「ほ、ほんとだ」


 よくみると、額に小さな傷がある。

 多分こけたんだろう。


 しかしそれをよくあるパターンにまで昇華させるとは……恐るべしブラック。


 ”二人の世界すぎるんよww”

 ”わけわからんが強い”

 ”なるほどシーズン2か。――どゆことww”

 ”とにかく強いてほっこり”

 ”さすブラ”


 みんないつまでたっても同じ場所で足踏みしていないということだ。

 

 俺ももっと頑張らnight。

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