第31話 呪われた学校

「怖いブラック」

「今は二人きりだから、普通でいいわよ」

「助けて美琴」

「ビビりすぎでしょ……。なんでダンジョンだと大丈夫なの?」

「ダンジョンだから……」

「答えになってないけど。でも、私の後ろに隠れてていいわよ」

「ありがとう、ササッ」

「本当に隠れてる……まあでも、カワイイから許してあげる」


 俺と美琴は、山奥の廃校の校門に立っていた。

 入口の張り紙には、もうなんというか鬼のように立ち入り禁止の札が張っている。


 これは、視聴者からの願いだった。


 既に取り壊しが決定しているにもかかわらず、破壊しようとすると摩訶不思議な出来事が起きるらしい。


 そもそも立ち入ってはいけないんじゃないかと思ったが、美琴が事前に許可を取ってくれた。


 なぜこんなことをするのかというと、ぷち炎上している最中なので禊みたいなものだ。


 風華さんも誘ったが、怖いのがダメらしい。

 ローザは「夜は眠たいのじゃあ……」と言われてしまった。

 

 唯一付いて来てくれたのが、美琴だったということである。

 感謝はしっかりと伝えなきゃいけない。


「ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがろうがりとうありがとうありがとうオリゴ糖ありがとうありがとう」

「お願いだから一回だけにして。私も怖くなるから」


 申し訳ないブラック。


 さて、漆黒のコートに着替える。

 気持ちが入っていく。


 ブラックとして完成だ。


 配信のスイッチをオン。


「私だ。ブラックだ」


 ”こんブラ!”

 ”通知見ましたー。廃校怖そう”

 ”こんブラック!”

 ”なんか足震えてませんか?”

 ”ほんとだw 怖いの苦手なのか”

 ”ブラック様、怯えてます”

 ”美琴ちゃんだ!”

 ”美琴は大丈夫そうww”


 どうやらバレているらしい。

 ダンジョンの中は平気だが、外だといつもの気持ちになってしまうんだよな。


 とはいえ今回は禊。


 しっかりと原因を特定し、学校を破壊できるようにしよう。

 事前通知はしていたので、軽く説明だけして、さっそく本題に入る。


「行くぞ美琴、学校を壊す為に」

「はい!」


 ”言葉だけ聞くと野蛮で草”

 ”ワロタ”

 ”予告編短めw”

 ”がんばて!”


 中は何とも言えない雰囲気だった。

 学校といっても、今どきのではなく、旧校って感じだ。


 外に二宮金次郎の銅像があったのもその象徴だろう。


 だがそのとき、俺は気づく。


「魔力を感じるな」

「え? もしかして……ダンジョン?」

「どうだろうな」


 先日のダンジョンもどきを思い出す。

 ぷち炎上中なのだ。流石に廃校を叩き切るなんてことはできない。


 とはいえ、もどきであれば見過ごすことも難しい。

 何とか上手い事帳尻を合わせるしかないな。


 ”不穏すぎる”

 ”無理しないでね”

 ”気を付けブラック”


「トイレから魔力を感じるブラック」

「わ、わかった」


 中に入った途端、美琴も怯えはじめていた。

 仕方ないだろう。


「ブラックさん、なんで私の後ろに」

「背後が一番危険だからな。人間、後ろに目はないだろう」

「でもいつもダンジョンでは前じゃない?」

「…………」

 

 ”無言ブラック!”

 ”みなまでいうなブラック!”

 ”察しないでくれブラック”


 女子トイレだったので、美琴に入ってもらう。


「すぐ戻って来るんだぞ」

「はい」


 何だか怒ってる? いや、気のせいだろう。


 ”怒ってるww”

 ”草w”

 ”ダンジョン以外のブラック、おもしろw”


「はーな子さん、でておいで」

「やめろブラック」


 ”ワロスww”

 ”美琴ちゃん余裕でてきたねw”

 ”てっきり恐怖動画かと思っていたらおもろw”


 だが幸いにも何もなかった。

 何とも言えぬ魔力は感じる。


 それから教室を除く。

 古い机と椅子、当時のまま残っていた。


 ガラスが欠けているのは老朽化だろう。


 だがそのとき、何か声が聞こえた。

 美琴と顔を合わせる。


 ――魔力も感じる。


 視線を前に向けると、後ろ姿が見えた。


 真っ暗の中に、人の背中だ。


「あ、あれは!?」

「ああ――行くぞ」


 しかし俺は怯えることなく、その後ろを追いかけた。



 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る