第30話 初めての雑談配信

「こんばんブラック」


 ”おはブラック!”

 ”おはよう朝日、七時です”

 ”朝早すぎブラック”

 ”雑談配信の時間じゃなくて草”

 ”これもまたブラック”


「おはブラックー!」

「おはブラー!」


 ”おはよう美琴&風華ちゃん”

 ”これどこにいるんだろう?”

 ”山?”

 ”外っぽい”


「今日はいい景色を視聴者に届けようと思ってな」

「ダンジョンもいいけど、外もいいねえ」

「うんうん、山最高!」


 俺と美琴と風華さんで、近くの山登りに来ていた。

 夜がいいと頼んだが、危ないからダメだと言われて早朝四時集合。


 初めは登頂から配信しようと思ったが、はあはあと地味な息切れするだけの動画になるので山頂に辿りついてからになった。


 同時接続者は30万人、朝とは思えない人数だ。


 なんだかんだで雑談メインは初めてだ。

 何を話していいのかわからないのは、俺の根の問題だろう。


 だが美琴と風華さんは元気だ。

 見習わなブラック!

 

 ちなみにローザは「眠いからパスじゃあ……」とメッセージが来ていた。

 致し方なし!


「ただ雑談だけするのもあれなので、ダンモンの散歩風景もお送りしておくブラック」


 そう言って俺は、五体のダンモンを解放した。

 戦闘状態の場合は、消費呪力が半端ないが、遊ぶだけなら問題ない。


 ”ダンジョンボスが戯れてて草”

 ”山を消し飛ばないようにしてくれwww”

 ”この山、現在カオスです”

 ”消し飛びそうww”

 ”世界一危険な散歩ww”


「カワイイペットなんだが……」

「普通の人から見たらそうは見えないですよ」

「うん、めちゃくちゃですよブラック様」


 二人とも俺の正体がわかってからも動画上では丁寧に接してくれている。

 ありがたい。


「はぁはぁ、すぅすぅ――」

「風華、ちょっと近いな」

「ダンモンへ呪力の配給って、永遠の命と関係している気がしますね」

「な、何をいっているんだ?」


 ”匂いかいでる?w”

 ”俺の背後に立つなブラック”

 ”きっと後ろを守ってるんだ”

 ”美琴ちゃんが勉強してて偉い”

 ”ブラックノートにメモしてる”

 ”不老不死について、という文字だけ見えた”


 まあちょっと不可解な行動もあるが、おおむね大丈夫。


 それから質問コーナーを始めた。


 ”ブラックって、どうしてそんな強いの?”


「人には誰しも闇がある。自身の闇との対話が強さの秘訣だ」


 ”呪術ってどれくらいあるの?”


「呪術は200種類以上ある」

 

 ”ブラックの名づけの理由は?”


「全てを覆い隠せるのは黒だけだからだ」


「はい、代わりに私たちが答えますね! ブラックさんは、人は誰しも弱いところがあって、努力すればなんとかなるとおっしゃっています」

「はい、次は私が。200種類は嘘です。でも、100種類ぐらいはあるみたいです」

「はい、次はまた私が。ブラックという名前が、単純にかっこいいからみたいです」


 ”翻訳者wwww”

 ”わかりやすい”

 ”俺たちにブラック語はまだ早かった”

 ”草すぎる”


 そんなに難しいのだろうか。

 日本語は大変だ。


 それから二人の質問もはじまり、むしろそっちのが人気だった。

 あれ、戦うとき以外はブラックの人気がない?



 早い物でお昼過ぎ、配信も終わろうとした。


 山を下ろうとしたまさにそのとき、なにやら魔力を感じる。


 ――あれは。


 崖をゆっくりと降りる、そこには、ダンジョンもどきの入口があった。


 これは、ダンジョンが出来かけのときに現れるものだ。

 不安定な魔力を感じる。


 見つけた場合、𠮟るべき対処としては破壊するのが一番良いとされている。

 もちろんそれができないので、政府に任せることになるが。


 とはいえ、俺には必要はない。


「美琴、風華、下がっていてくれ」


 死の宣告はもちろん使えない。

 イザナギか、いやダンジョンもどきならアマテラスがいいか。


 黒剣を出現させる。


 すると危機を感じたのか、もどきの入口から魔物が飛び出した。


 小さいネズミのようだがが、すばしっこい。


 世に出ると危険だ。


 急いで剣を振る。


 だが思いのほか力が入ってしまったのだろう。


 そのまま魔物を倒し、後ろのダンジョンもどきに空気斬が飛んでいく。


 そして――山が割れた。


 なんと説明したらいいかわからないが、かなり割れた。


 そのままゴゴゴゴと音が響く。

 急いで下を見たが、人はいなかった。


 だが、山が確実に割れた。


 ”ブラック、山を割るww”

 ”クソワロタ”

 ”山斬るのやばすぎw”

 ”山斬るブラックwww”


「ブラックさん、これは……」

「やりすぎです」

「はいブラック……」


 その夜、Ahooニュースにこんなのが上がっていた。


 有名配信者ブラック、ダンジョンもどきを発見、山ごと叩き割る。


 間違ってない。

 

 間違ってないが、誤解されないといいなあ……。


 ちなみに初めてぷち炎上した。


 ”いいことをしたがやりすぎだ”

 ”ブラック反省してたよ”

 ”正直そこまで悪くないが、有名税だったな”

 ”仕方ない”


 それからごめんブラックというタイトルで動画をあげたのだが、不謹慎すぎるとそっちのが炎上した。


 次は土下座ブラックにしておこう……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る