第25話 災害指定SSのボス

 俺の名前はごんぞうだ。


 これでも腕は立つし、それなりにダンジョンもクリアしてきた。


 仲間の金魚とフーンとも上手くやっている。


 配信者としてはまだまだ駆け出しだが、少しずつ登録者数が増えて来ていた。

 

 そこに、新ダンジョンだ。

 そりゃあ飛びついたさ。


 誰だって、有名になりたいだろう?


 きっかけは、ブラックだった。


 死の宣告という呪術で、敵をバタバタをなぎ倒していく。


 格好良くて、俺は何度動画を見たのかわからねえ。


 だからだろう。攻略組に交じって、初見のボス討伐に参加しちまったのは。


 こんな地獄になるとは、思わなかった。


 巨大なボスが腕を振りかぶってくる。

 得体のしれないロボットみたいな人型だ。


 攻撃は効かない。部下はワラワラとでやがる。


「ひ、ひいいあああ」

「た、たすけええああ」

「――金魚、フーン、下がってろ!」


 俺は前に出て、防御シールドで身体を覆った。

 デカくて力が強いと思われがちだが、俺の本質は盾だ。


 攻撃と魔法は金魚とフーンに任せ、仲間を守る。

 俺はこいつらに助けられてきた。


 だからこそ、普段の生活では前に出ている。

 被害を及ぼさないように、持って生まれたガタイをつかってな。


 けど、欲を出しちまった。


 何としても、俺が守らなきゃ。


「ご、ごんぞうさん! 血が!」

「ごんさん!」

「俺のことはいい! 後ろにいろ! お前らは、俺が守る」


 周りは阿鼻叫喚だ。

 血塗られた妖精団の奴らは強い。が、相手が悪すぎる。


「ク、クソ、陣形を整えろ!」

「な、なんでこんな災害指定SSクラスが……」

「ぐだぐだいうな! 死ぬぞ!!!!!」


 ――俺は死なない。


 いや、死なせない。

 

 金魚とフーンは、この二人は、こんなクソみたいな俺を慕ってくれている。

 

 そのとき、致死確実の攻撃が、視界に入った。


 でけぇ拳だ。おそらく、跡形もなくなるだろう。


 だが俺の後ろには仲間がいる。大切な奴らがいる。


 最後の最後まで、俺は盾としてやるべきことをやる。


 ――わりぃな。


 オレは、ブラックみたいになれなかった。


 そして、轟音が響いた。


 俺は、死んでいなかった。


 目を開けると、漆黒のコートが目に入る。


 その瞬間、俺は震えた。


「大丈夫か? よく、頑張った」

「ブ、ブラック……さん」

「はっ、俺のことを知っているとはな。光栄だ」


 知ってる。何でも知ってる。

 あんたがかっこいいことも、あんたのことも、あんたのことは、何もかも。


 ……はっ、すげえ。やっぱ、すげえ。


 あの攻撃を無傷で受け止められるなんて。


「ごんぞう、あんたなんでここに?」

「ごんぞうくん、大丈夫?」

「御船、君内……それにお前、水面川か?」

「我が来たから、安心せい」


 心臓が高鳴る。ブラックシュヴァルツだ。


 俺が、入りたかった。俺が、なりたかった軍団。

 

 すげえ、すげえよ。


 するとブラックさんは、両手の剣を構えた。

 あの巨大な敵を見ても臆することがない。


 ものがちげえ……。


「――ごんぞうとやら、まだ戦えるか」


 するとそのとき、俺に声をかけてきた。

 

「え、あ、ああ」

「ふ、やるじゃないか。――後は俺に任せていい。だが、仲間を守ってやれ。よく、がんばったな」

「……ありがとう、ございます……」


 そういって、ブラックさんは駆けていった。

 俺の頬に、一粒の涙が落ちる。


 ――ああ、俺は、あんたに憧れてよかったよ。


  ◇


 び、びっくりしたあああああああああああああああああああああああ。


 な、なんでごんぞうくんが!? てか、血出てたよ!? 血!?


 だ、大丈夫? って聞きたかったけど、さすがに聞けなくて「戦えるか?」とか言っちゃった。


 はあ、大丈夫かな。


 金魚くんとフーンくんもいたけど、大きな怪我はないみたいだ。

 

 良かった。きて……。


 ”敵巨大すぎるだろ”

 ”や、やべえ”

 ”ロボット? なんか無機質の”

 ”逃げられないのか?”


 コメントの通り、敵はかなり巨大だ。


「ブラックさん! あいつは、ウォッシャーロボっていうSS魔物だ! 力がつええのと攻撃がきかねええ!」


 そのとき、後ろからごんぞうが叫んだ。


 ……いい奴だよな。ああ見えて。


 さて、片付けるとするか。


「美琴、風華、お前たちは部下と手下を叩け」

「「了解」」


「ローザ、死の宣告を付与する。隙を作れ」

「任せれた」


「ギギギビビビガッガガ?」


 ――なんとかロボ、お前はもう、死んでいる。



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