第26話 俺がブラックだ

 ”今のどうやって避けたんだ!?”

 ”凄すぎて言葉が出ない”

 ”ブラックの動きがマジで人間を超えてる”

 ”凄いな、回避した後、もうあそこに……”

 ”でも、ウォッシャーロボも強くない?”

 ”めっちゃ強い”

 ”ロボって割には、デカい黒い人みたいだけど”

 ”がんばれブラック!”


 配信の読み上げを聞き分けながら、ロボボスの攻撃を回避する。


 下をちらりと見ると、とんでもない数の部下が沸いていた。

 小さなウォッシャーロボだ。


 特殊な魔法は使えないみたいだが、防御力が半端ないらしく、魔法や攻撃をはじき返している。


「――ハァアッ!」

「――フラッシュパンチ」


 だが、美琴と風華がデカい斧と高速攻撃ではじき返していた。

 俺を信頼して時間を稼いでくれている。


 ならば、その期待に応えなきゃいけない。


「我が攻撃を食らえ、滅びのドラゴンストリーム!」


 俺の横で、ローザが竜を放つ。

 ぐんぐんと伸びていく。ロボにぶち当たるが、無残に離散する。


「ぬぅ」

「――イザナギ、アマテラス――ウィンドソニック」


 間髪入れず前に出る。ロボの攻撃を回避しながら2連撃を与えた。

 少しだけ傷をつけることはできたが、無傷のようだ。


 ”ブラックの攻撃が!”

 ”当たらないとはいえ、食らわないのは厄介だな”

 ”マジでやばいぞ”


 いや――違うな。


「ローザ、おそらくこれは能力だ。ただ固いだけじゃない」

「ほう、つまりどうすれば」

「攻撃を仕掛け続けろ。俺が、その・・を探す」


 ”種?”

 ”どういうことだろう”

 ”勝ってブラック!!”


「――ガァアアッ!」


 鋭く大きな右拳が振りかぶられる。

 ぶんっと空気が震え、衝撃でコートが揺れた。


 それでもローザは攻撃を続けた。だが無敵だ。


 そのとき俺は、ほんの些細なロボの不審な挙動に気づく。


 ――なるほどな。


 少しだけ戦闘をローザに任せ、後ろに下がる。

 それから、ある大柄の男に声をかけた。


「ごんぞう!」

「は、はい!」

「あいつを倒す為に――手伝ってくれるか」

「も、もちろんです!」


 血塗られた妖精団は既にバラバラで指揮系統が取れていない。


 俺は問題ないが、彼らにこれ以上怪我をさせたくない。


「――反動は大変だが、強くなれるはずだ」

「……す、すげえ。力が!?」

「部下の処理を頼んだ。その力なら、問題ないだろう」


 俺は――ごんぞうを呪戦士に昇華させた。

 防御力が大幅に増加し、大きな盾が出現する。


 そのままごんぞうは、いや、ごうぞうくんは前傾姿勢で突っ込んだ。

 部下をなぎ倒し、前に出る。


 その瞬間、俺は美琴と風華を呼ぶ。


「――美琴、あいつの体勢を崩してくれ。風華はそのアシストを。ローザ、奴の顎を叩け」


 ブラックシュヴァルツを結成してから、何度か合同訓練を重ねている。

 その言葉だけで理解してくれたらしい。

 

 全員頷く。


 ”うおおおおお、いけえええええ”

 ”カッコイイ”

 ”どうなる!?”

 ”ごんぞうかっけえw”


 あ……ご、ごんぞう君も、頑張ってね!


 俺が囮となり前に出る。

 ロボのヘイトを買う為に、かっこつける。


「――雑魚が、俺に勝てると思うな」

「ガアアアアアアアアアアア!」


「今だ!」


 美琴が、渾身の一撃で足元を崩した。続いて風華も。

 更にローザが顎に竜をヒットさせる。


 俺は、ロボが隠していた顎下の黒い斑点に気づいていた。


「――丸見えだな」


 ボスにも能力がある。

 それは人間と違って規格外、謎ときのような魔法だ。


 斑点に連撃を叩きこむ。


「――オラオラオラオラオラオラ!」


 その瞬間、抵抗力が消えたのがわかった。

 これが、こいつの弱点だったのだ。


「――死の宣告」


 次の瞬間、カウントが999999と表示される。


 ”うおおおおおおおおお、ついに死の宣告!”

 ”カウントやばすぎ”

 ”これ、減らせるのか?”

 ”ヤバい……”


「――後は総力戦だ」


 俺はイザナギとアマテラスをあえて解除した。

 ダンモンを出すと範囲攻撃が激しくてキケンダ。


 ――須佐之男命スサノオノミコトを出現させる。


 巨大な黒剣。


 だがそれだけじゃない。


 美琴、風華、ローザが武器を構える。


「終わりだ。――ロボ」


 更に陰陽五行を展開。呪いによって抵抗力が失われていく。反対に俺たちに加護が付与される。


 とどめにあみだくじで動きを止める。


「ガアァアッアア」

「終わりを悟ったか。――配信時間はもう三時間。フィナーレを超えた」


 上段からの薙ぎ払いで一撃、カウントが555555。

 美琴が攻撃、444444、風華が攻撃、333333、ローザが攻撃、222222。


 ”いけえええええ”

 ”がんばブラック!”

 ”ラスト!”


「――じゃあな」


 そして俺は、そのままウォッシャーロボを葬りさった。


 ――――

 ――

 ―


「あ、ありがとうございました!」

「ブラックさん、本当に助かりました」

「血塗られた妖精団は、今後調子乗らないようにします」


 全てが終わり、俺たちは外に出ることができた。

 いや、正しくはクリアしたのだ。


 驚いた事に、あのボスはイレギュラーだったらしい。

 新ダンジョンでたまに起こる。

 階層がめちゃくちゃになったまま出現するのだ。


 つまり最下層ボスを俺たちは倒した。


 しかし、俺はビクビクしていた。


「え、新ダンジョンがもう……ない!?」

「ブラックがクリアしたらしい」

「うそおおお!? 俺の予定が……」


 ダンジョンは有限。だが誰のものでもない。

 クリアするのはいいことではあるが、早すぎるのも空気が……。


「い、行こうか」


 そんなことを言われたくないので、サッとコートを揺らせてその場を去ろうとする。

 そのとき――。


「ブラックさあん!」

「ブラさん!」

「ブゥさん!」


 ごんぞうくん、金魚、フーンが追いかけてくる。ブゥ?


「マジ、ありっしたぁ!」

「気にするな。反動に苦しむだろうが、頑張れよ」

「はい! あ、あの俺……ブラックシュヴァルツに……」


 ま、まさか入りたい……?


「憧れてました! これからも、頑張ってください!」

「……ああ、そっちもな。ごんぞうくん」

「――! はい!」


 よ、よかったああ。

 ごんぞうくんいい人みたいだけど、見た目が怖いからビクビクしてしまう。


 しかし、今日は楽しかった……。


 明日もまた楽しめたらいいな。


「ごんぞうくん、喜んでたね」


 そのとき、美琴が声をかけてくる。


「みたいだな」


黒羽くん・・・・に、あんなに意地悪してたのにね」

「まあでも、許してあげるよ」


 ん? 何か返事が来ない――。


 振り返ると、二人が、俺を見ていた。


「ブラックさん、いや、黒斗……」

「やっぱり黒羽くん……」


 ローザが、手を顔に当てていた。

 あちゃーなのか、我、ローザなり、なのかはわからない。


 失敗した。こんな初歩的なミスで……。


 しかしいつまでも隠し通せるとは思えない。

 仕方がない。


 ギルドリーダーとして、仲間には言うべきだ。


 …………。

 しかし申し訳ない。ブラックが俺だとわかったら、悲しむだろう。

 とはいえ、ハッキリと言おう。


「――ごめんブラック。黙ってたのは、悲しませたく――」

「黒斗、なんで黙ってたのよ!? こんなに強いだなんて! それにすごく……か、カッコイイじゃないの!!! もおおおお、怪我無い!? ねえ、痛いとこない!?」

「え、だ、大丈ブラック……」


 残念がるどころか、美琴は心配してくれた。

 カッコイイといってくれた。

 ああ、やっぱりいい子だな。


「――すぅぅすぅすぅすぅすぅ」


 すると、俺のうなじに風華さんがいた。

 思わずビクりとなるが、とてもエクスタシーを感じている顔をしていた。


「黒羽くん……私、あなたが七代遊んで暮らせるように、がんば……るね……」


 そのまま鼻血を出しながら倒れ、思わず抱きかかえる。


 い、いったい何が……。


「ふむ、これもまた、運命デスティニーか……。――なんて、うらやましいなぁ。うふふ」


 そして最後に、ローザがいつもとは違う笑顔で、ニコリと微笑んでいた。



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