第24話 攻略組

「こんにちは、はい! そうですね!」

「ええーそうですか!?」

「今から、ウルトラパンチを殴りたいと思います!」

「私、いきまーす!」

「メンストコークいかがっすかww」


 ”カオスwwwwwww”

 ”これは予想外”

 ”人多いな”

 ”新ダンジョンは仕方ないよね”

 ”当たり前だけど、ちょっとシュール”

 ”これが、ダンジョン……”


「カオスブラック」


 思わず呟いてしまう。

 俺の目の前には、大勢がカメラに向かっておしゃべりしていた。


 みんな配信者なのだろう。

 

 新ダンジョンだということもあって仕方がないが、まさかここまでとは思わなかった。

 とはいえ、みんな頑張っているのだ。


 俺も一年ほど前はコメントすらなかった。

 なんだったら仲間すらいなかった。


 そう思うと、今の環境は幸せだ。

 この想い、決して忘れないでおこう。


 ”ブラック静かに魔物を潰してて草”

 ”無言だけどやってることがえぐい”

 ”魔物が全員消えていくww”

 ”強すぎんよw”

 ”草ww”


「ブラックさん、とりあえず人が少ないところまでいきます?」

「そうだな。他の人の邪魔になるのも良くないだろう」


 美琴の言う通りだ。

 イザナギとアマテラスも満足に振ることもできない。


「よし、このまま突っ切るぞ」

「「「了解/だのぅ」」」


 そのまま魔物を駆逐しながら真っ直ぐ突っ切っていく。


 するとそこで、武装集団を見つけた。


 あれは――血塗られた妖精だ。


「ん? ここは俺たちの狩場だ。よそへいきな」

「お前らか、最近噂のブラックシュボルツってのは」

「なんか黒い集団だなァ?」


 屈強な男たち。

 彼らはいわゆる攻略組と言われ、ダンジョンが新しく出現した時、人海戦術で奥へ進む。


 狩場としては荒らされるのであまり良い印象は持たれない。

 とはいえダンジョンの事を教えてくれたり、攻略ブログも書いてくれたりするので、俺はそこまで嫌いじゃない。


 粗暴に見えるが、意外にもいい人たちなのだ。


「ったくよォこんな子供たちがよォ」

「ほんだぜ。ほら、栄養ドリンク持っとけよ」

「ったく、無理すんなよォ」


 ”意外にいい奴らwwww”

 ”武装集団とは思えない温かみ”

 ”攻略組の印象が変わったw”

 ”屈強だからこの優しさはズルいなw”


「ありがブラック」


 栄養ドリンクを受け取り礼を言うと、ニカっと微笑んだ。


「どうします? ブラック様。無視して真っ直ぐ奥までいきます? 戻るのもちょっと」

「ふむ、確かにな」


 風華さんは配信のことを考えてくれている。

 戻っても人が多い、進んでも印象が悪いからだろう。


「我、何でも良いッぞ」


 ローザがカッコつけながら気を遣ってくれている。

 

 今日は幸い時間はゆっくり取れている。

 ならば――。


「フルコンプに切り替えるか。それもまた、おもしろ! だ」

「それはなんじゃ? ブラック」


 ローザの疑問に、風華さんが答える。


「ダンジョンは慣れていくと最短が大体わかるんだけど、あえて横道とかで寄り道しながら行くことだよ。もちろん、それでお宝もあったりするけど、危険もあるからね」

「なるほどのぅ」


 ”それも楽しみ”

 ”急がなくていいブラック”

 ”安全にしてくれれば”

 ”みんなをみてるだけで幸せブラック”


「そうか。ありがブラック。なら、フルコンプに切り替えるとしよう!」


 みんなの理解も頂いたことで、俺たちは能力の紹介、雑談も混じりながら、安全にダンジョンを攻略した。


 時間もそれなりに経過し、ほどよく進んでいたとき、異変が起きた。


「た、たすけてくれええええええええ」

「ひ、ひいいいあああ」

「――どうしたブラック」


 前から、血塗られた妖精団と思われる男たちが走ってきたのだ。

 それも、かなり焦っている。


 ”何が起きた!?”

 ”怪我してるぞ”

 ”災害指定ボス?”

 ”イレギュラーの可能性も”


「ぼ、ぼぼぼ、ボスが」

「た、助けてくれ仲間が!」

「落ち着けブラック。一体何があったのか教えてくれ。風華、ローザ、癒しを頼む」


「はい」

「任されぃ」


 癒しの術が使える二人に任せながら、話を聞く。


「攻略は順調だったんだ。でも、五階でデカい扉を見つけて。んで、入ったんだ。この辺りなら、問題ねええだろうって。じゃあ、すぐ扉が閉まって、モンスターが次々と!」

「……なんだと。それでどうしてお前たちは逃げられたんだ?」

「お、俺たちは特殊能力があったんだ。脱出が」

「なるほど……」


 脱出とは、固有能力だ。

 壁を抜けれたり、テレポートできたりする。

 つまり、中にはまだ人がいるということか。


 今は三階、五階はまだ先だ。


「ブラックさん、でも私たち」

「そうね。もうかなり魔力を使ってしまった」

「ふむ、確かに我もあまりないのぅ……」


 そう、俺たちはコンプの為に能力紹介をしながら進んでいた。

 半分以上の力を使っていたのだ。


 しかし――。


「――俺は行く。お前たちは待っていろ」

「あ、ありがとうございます!」

「な、なら俺たちが五階まで、テレポートさせます。――後一回ぐらいなら……! 扉の前ですが」

「頼んだ」


 そして俺は、男たちと手をつなぐ。

 ちょっと汗だくだが、今はそんなことを気にしている暇はない。


 すると、俺の肩を誰かが掴んだ。

 美琴だ。そして、風華、ローザと続く。


「知らないぞ」

「私たちは、ブラックシュヴァルツですから」

「そうですよ」

「我に、死という概念などない」


 ”みんなかっけえ”

 ”でも無理しないでくれ”

 ”気を付けて”

 ”がんばれ!!!”


 次の瞬間、俺たちはテレポートした。

 大きな壁の前、そこから悲鳴と無数のモンスターの声が聞こえる。

 手を触れることで、中には入れるだろう。


「お、俺たちは――」

「案ずるな。ありがとう。――行くぞ、お前たち。ブラックシュヴァルツの初陣だ」

「はい!」

「わかりました」

「邪眼を解放する時が来たのぅ」


 そして俺たちは、中に入った。


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