第23話 新ダンジョン

「こんばんブラック! 今日はフルメンバーでの配信だ」

「美琴とー!」

「風華とー!」

「私が、ローザだ」


 ”全員集合ブラックww”

 ”華がありすぎる”

 ”決めポーズワロタ”

 ”こんブラー!”

 ”ブラックブラックブラック!”

 ”相変わらず黒い”

 ”ローザだけピンクw”


 ギルドメンバー、ブラックシュヴァルツのフルでの初配信だ。

 先日、都内に出来た新しいダンジョンへ来ていた。


「そういえば、この腕輪、私がもらっていいんですか?」

「ああ、一番適任だろう。武器の出現はその場で適正判断される。ダンジョンに入ってからのお楽しみだな」

「美琴ちゃんならデカい斧とかでそうだね」

「なんかあんまり嬉しくないけど……」

「我の創造・・もお披露目するときがきたな」


 以前ゲットした腕輪は、ギルドの話し合いで美琴がつけることになった。

 遠慮していたが、怪力だけでは危険な相手もいるだろうと。

 ローザの能力はまだ完全にお披露目できていない。


 視聴者にパーティーマスクの正体はバレていないので問題はないだろう。


 今はまだ入口、カメラをダンジョンの方へ向ける。

 

 普段は地下なのだが、これはそびえたつ塔になっていた。


 ”でけええええええ”

 ”上にあがっていくタイプか”

 ”これまたヤバそうな”

 ”タワーもそうだけど、人多くね?”

 ”攻略する為だろうな”


「お前ら、武器の用意しとけよ!」

「防具しっかり手入れな!」

「今日は10階までだ! 気合いれろ」


 視聴者の言う通り、俺たちの隣では、体育会だったり、ウェーイ系の人たちが集まっていた。

 それぞれギルドは違うらしいが、みんな身体が引き締まっている。

 

 なんだったらランニングシャツの人もいる。


 ダンジョン探索者には色んなタイプに分けられる。


 俺のように元ソロだったり、先駆け攻略を目指すギルド。

 安全に楽しむギルド、危険を顧みず前に突き進むギルド。


 宝物には一度きりのものもあって、ドロップを目的とするギルドもだ。


 どんな人も否定するわけじゃないし、それぞれの想いがあっていいと思う。


 だが俺は――怖かった。


 ”ブラック様怯えてない?w”

 ”魔物には強いのに人間には弱いのかw”

 ”チワワのように震えておる”

 ”ビクビクしててカワイイw”

 ”ハムスターブラック!”


 俺は陰陽でいうと陰だ。

 日の当たらない場所、いわゆるブラック。


 だからこそ今までソロでいた。今は違うが。


「おい、どけえ!」

「お前ら邪魔だ!」

「俺たち『血塗られた妖精』が、一番奥までいくぜ!」


 俺たちの隣を屈強な男たちが走っていく。

 あいつらがそうなのか。ちなみに全然妖精感はない。


 ”血塗られた妖精初めてみたww”

 ”俺もwあいつらかよww”

 ”でも強そうだ”

 ”先おこされてしまうブラック!”


「ブラックさん、震えてませんか?」

「寒いのかな? ブラック毛布いりますか?」

「我が炎を出してしんぜようか?」

「ありがとうみんな。だがこれは、武者震いだ」


 俺の陰がバレそうだったので盛大にかっこつけた後、急いでブラックテレポート。


「金魚、ブーン、いくぜ!」

「はい、ごんぞうさん!」

「ごんさん!」


  ◇


 ”震えブラック、ご入場”

 ”ちょっと小走り可愛い”

 ”カワイイw”

 ”みんな優しい。でもなんか俺たちにはわかる”

 ”ブラック、まさかこっち側!?”

 ”いや、ブラックは武者震いだろう”

 ”そうだブラック!”


 中に入ると、そこは――黒かった。

 入る直前に知っている名前が聞こえた気がするが、気のせいだろう。


 それより――。


「最高……だ」


 今まで色んなダンジョンにいったが、ここまで黒いダンジョンはなかった。


 楽しみで気分が高揚する。


 基本的にテレポート先は一階だが、場所がランダムだ。

 階段を見つけ、上に上がっていくタイプだろう。


 順当に強くなっていくはず。


 油断はしないようにしよう。


「美琴と風華は俺の後ろ、しんがりはローザだ」

「わりました!」

「はい!」

「我の後には、草木も残らぬであろう……」


 ”ローザのキャラおもろすぎるw”

 ”これはブラックも食われかねないぜ”

 ”それぞれ個性があっていい”

 ”このメンバーでダンジョンは激熱だな”


 すると前から、四体の骸骨が現れた。

 そのどれもが、手に武器を持っている。


「――死の宣告。ん?」


 急いで駆けて触れる。だが俺の呪いが発動しない。

 

 ――そうか。


 こいつらはアンデットモンスター。

 既に死んでいる判定ということか。


「私がやりますか?」

「大丈夫だ風華、まずは配信一発目、ギルドリーダーである俺に任せろ」


 ”ヤバい”

 ”そういうことか”

 ”ブラック様と相性が悪すぎる”

 ”こいつらガイコツレギオンじゃね? 確かなかなり強いよ”

 ”どうするブラー”


「――なら新しい術の披露といこう」


 死の宣告はあくまでも楽だから使っていただけだ。


 須佐之男命スサノヲノミコトは、巨大ボスを倒すとき。


 このダンジョンなら――。


伊邪那岐イザナギ

 

 そういって俺は、左手に黒い剣を出現させた。

 呪力が漲っている。


 ”うおおおお、剣!”

 ”これはカッコイイ”

 ”なるほど、こんな武器が”

 ”え、ちょっとまって”


 そして更に、右手に力を籠める。


天照大神アマテラス


 こっちは少し沿った形の剣だ。

 どちらも黒いが、能力が違う。


「見ててくれ――」


 そういって俺は、イザナギで骸骨の首を全て堕とした。

 とにかくダメージが強く、魔法抵抗力が凄まじい。

 そして――アマテラス。


 そのまま二激目、振り返り胴体を真っ二つに叩き切ると、ガイコツが砕け散る。

 

 これは呪いを強制的に断ち切る力を持っている。


 つまり破壊力の高いイザナギと、魔法や結界を看破、不死すらも蒸発させる力を持つ魔法剣。これが俺の武器だった。

 死の宣告は、視聴者リスナーとおしゃべりしやすいがためによく使っていた。


 今回は、この武器のがいいだろう。


 すると配信が、あれ?


 ”ヤバすぎブラックww”

 ”え、つまり魔法をも叩き切れるってこと!?”

 ”無敵じゃんww”

 ”はあああ!?w”

 ”最強剣と最強魔法剣=最凶です”

 ”これに加えてダンモンもいるんでしょ?”

 ”ヤバすぎでしょ。1人で二役できるってことか”

 ”ブラックww”


 盛り上がってくれた。

 嬉しくてたまらない。


 そして俺は、別の魔物が現れた。

 それは通常魔物だったので右腕を切る。


 すると、死の宣告が付与された。


「ちなみに少しの傷でも与えれば、カウントダウンを付与することもできる」


 そして倒れる。


 配信が、鬼のように流れる。


 ”やばすぎww”

 ”つまり死の宣告を付与しながらも攻撃が可能、更に結界はアマテラスでも切るってことか”

 ”誰が勝てるんだよw”

 ”剣士は魔法に弱いって言うのを覆してる”

 ”ブラックww”


 同時接続は、一瞬で100万人を超えていた。


 そして後ろからふたたびアンデットモンスターが現れる。

 次はみんなの見せどころだ。


 まず美琴が、腕輪の力を発動させた。

 怪力の名にふさわしい武器――と思っていたら、何もない。


 いや、よく見るとこれは――拳を覆う武具か。


 そのまま殴りつけると、骸骨が粉々になった。


「凄い……」


 力が倍増しているのだろう。

 そしてそこに、風華が光魔法で浄化し、不死を解除。


 うん、いいチームだ。


「我に歯向かうものは、死、あるのみだ!」


 最後にローザが、右手をかざした。以前の小さな竜ではなく、闇の波動が飛んでいく。

 それは、骸骨に当たると――そのまま束縛する。


 ”おお、支援魔法!”

 ”なるほど、想像はこういう使い方が”

 ”これは強い”


 すぐさま俺がカバーし、骸骨を倒す。


「フフフ、我に任されい」


 ローザの能力は未だ俺にも全てわかっていない。

 単純な戦闘能力も高い上に、支援に特化してくれるのはありがたい。


 想像以上に強いメンバーだ。

 

 同時接続も100万人を超え、盛り上がるも最高潮。


 やっぱり、新ダンジョン効果はすごいな。


 よし、俺も負けじとがんばろう。

 

「このダンジョン、クリアまで行くぞ」


 ”新ダンジョンですよ兄貴ww”

 ”ブラックならやりかねないww”

 ”わらうwww”

 ”マジでやりそうで草ww”

 ”楽しみ”

 ”流石に冗談でしょww”

 ”まあねww”

 ”これが本当のブラックジョーク”


 あれ、本気だったんだけどなあ……。

 

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