第14話 未曾有の災害vsブラック

 ”西口に魔物が二体”

 ”ブラック、渋谷駅すぐ傍に魔狼が出現”

 ”南口でも魔物が多いって”

 ”ほかの探索者とか警察はどうなってんの?”

 ”集まってるらしいけど個人で動けないみたい”


「うわあああ、に、逃げろお」

「く、くるなああ」


「――死の宣告」


 オーガに追いかけられていた少年たちの前に出ると、そのまま呪いを付与。

 数秒後、オーガが地面に倒れるも、散り散りとなり消えていく。


 ダンジョンが崩壊した後の魔物は、数日で形を保てなくなる。

 それより早く消滅させたいのならば、倒すしかない。


 ”ブラック、マジでかっけえ”

 ”B級以上の探索者が向かってるって。でも、結構参加しぶってるみたい”

 ”なんで?”

 ”人助けは割にあわないからでしょ。助けられたらいいけど、間に合わなかったらヘイトがくるし”

 ”そうか……でも俺たちも何もできないもんな”


「そんなことない。気持ちだけで十分だ」


 だが想像以上に魔物が多い。

 コメントも読み上げているが、数千体以上だという。


 するとそこに、少し遅れて美琴と風華さんがやってきた。

 ダンジョン終わりでかなり魔力を使っているだろう。

 既に一時間以上もフルで動いている。限界は近いはず。


「はあはあ……風華さん、大丈夫?」

「何とか……」

「二人ともよくやった。後は俺に任せろ」


 ”ほんとだよ。無理しないで”

 ”死んじゃうよ”

 ”十分頑張った。後は他に任せてもいいと思う”

 ”ブラック様に任せよう”


 視聴者も気遣ってくれる。

 しかし、二人の目は、諦めていなかった。


「諦めない。絶対に」

「私も。――こんな時の為に動かなきゃ、探索者じゃないよ」

「――はっ」


 その目、その瞳、上からで偉そうかもしれないが、俺は嬉しかった。

 美琴は昔から強かった。肉体的ではなく、心が。


 そして風華さんには、いちリスナーとして憧れていた。


 ――なら。


「呪術には代償がある。全てではないが、二人の力を底上げすることはできるぞ」

「本当、ですか?」

「是非、お願いします」

「その代わり、後が辛いが」


 二人は、顔を見合わせる事頷いた。

 そして俺は、二人の肩に手を置く。


「――チャクラ解放、第一段階「呪戦士じゅせんし」」


 その瞬間、二人の魔力が漲る。

 チャクラが立ち上り、何倍も強くなっていくのがわかる。


 ”こんなこともできるのか”

 ”すげえ”

 ”かっこいい”


 ただし、反動はある。


「すごい、力があふれてくる……」

「本当だ……」

「ここからは別れよう。各自配信を付け、視聴者にナビゲートしてもらえ。リスナーたち、君たちは無力じゃない。俺と同じだ。――行くぞ」

 

 ”ブラックかっこよすぎんよ”

 ”みんなこれが最後の配信かもしれない。頑張ろう”

 ”ブラック様、二丁目に大勢のウェルストベアーが!”


 俺たちは別れ、逃げ遅れた人たちを助けていく。


 だがそのとき、とある読み上げコメントが――。


 ”イベントしていた中学校で、ボスみたいなのが出たって――”


 すぐさま駆け付けるも、想像以上に魔物が多い。

 どれも亜種だ。個体差がある上に、魔力も強い。


 ”めっちゃ人多い”

 ”お祭りしてたらしい”

 ”うわああああああおおすぎる”

 ”これはヤバイ”


 ――ここが正念場だ。呪力度外視でいいだろう。


 俺は、『陰陽五行』を地面に展開した。


 黒と白の模様が広がっていく。

 更に防御術式を指定した。邪念のない人たちの身体に、黒いシールドが付与される。

 

 ”すげえ、こういう使い方が”

 ”みんなにシールドが!?”

 ”ブラックマジですごすぎる”

 ”マジで戦いっぱなしじゃね?”


「――死の宣告、死の宣告、死の宣告、死の宣告、死の宣告」


 遠隔で呪いを付与したいところだが、防御に術式を割いている。

 そのまま高速移動、左手で触れ、直接呪いを付与していく。


 ”画面が処理しきれてないほど速い”

 ”ブラック様、マジで何者なんだ”

 ”今のみた? 五体の攻撃をかわしたぞ”

 ”おい、他の探索者はなにやってんだ?”

 ”頼む、もっとみんな来てくれ”

 ”ブラック、がんばれ!”

 ”がんばれ、がんばれ、がんばれ”


 敵が時間差で倒れていく。

 しかしどうやらこの学校の近くのダンジョンが崩壊したらしく、魔物がまだまだ溢れてくる。


 だが朗報だ。


 ここさえ抑えれば、問題ないはず。


 俺の最後の配信だ。出し惜しみはしないでいこう。



「――お前ら、好きに暴れろ。ただし、魔物が相手だ」


 俺は、ポケットから今扱える呪力限界ギリギリのダンモン札を投げた。


 大天使ミカエル。

 氷のウィンディーネ。

 そして、殺戮のアルマジロと虐殺のダルガス。


「ミカミカ!」

「ご主人様のためなら、ネ」

「ふしゅうう……」

「ギリイイイイイイイイイイ」


 ”ミカエルとウィンディーネだ”

 ”調伏四体同時召喚!?”

 ”ヤバすぎ。どうなってんだ!?”

 ”このアルマジロって、誰も倒せなかったモンスターじゃない? 突然消えたって聞いたけど、ブラックだったんだ”

 ”ダルガスってあの数百人の探索者をまとめて倒したっていう!?”


「――いけ」


 そして、四体のモンスターはそのまま魔物に突っ込んでいく。

 ちなみにデフォルメされている。


 ”やべえ、つよすぎる”

 ”だいぶ魔物が減ってる”

 ”近くの魔物も戻ってきてない?”

 ”魔物は魔力に反応する。ラックはこれも考えてるのか”

 ”探索者もようやく到着”

 ”もう少しだ、ブラック様頑張って!”


 視聴者のコメントのおかげで、戦況がわかる。

 ああ、やっぱり、配信をやっていて良かった。


 あの時・・・の努力は、無駄じゃない。


 しかし、学校の校庭、その裏から、超巨大な魔物が現れた。


「――ようやくボスのお出ましか」


 ”でけえええええええええええええ”

 ”なにこれ、サイクロプスの亜種?”

 ”ヤバいこれは”

 ”ブラック様、逃げて”

 ”こんなのが外に逃げたら”

 ”ちょっとまて、ブラック何をしようとしてるんだ”


 俺が、逃がすわけないだろう。


「――簡易結界」


 俺は、あえて結界で囲った。こうなると俺を倒すか、それとも解除しない限り出られないだろう。

 それに気づいたらしいサイクロプスが、俺に向かって吠えた。

 地鳴りが、音が、電波に乗って、頭に響く。


 これが、こいつの魔法か。


 ”こんなの勝てるのか?”

 ”やばすぎる”

 ”ブラック様なら”


 ああ、俺は本当にダメだな奴だ。


 敵が、強ければ強いほど――楽しい。


 昔の自分が、ついでてしまいそうだ。


 ”笑ってる”

 ”ブラック様が笑ってる”

 ”勝てるよ、絶対”

 ”怖い”

 ”怖い、けど安心できる”


「悪いが――一瞬でカタをつけさせてもらう」

「ギャギャギャッアアア」


 ”何するんだ”

 ”なにこの印!?”

 ”これは――”


「イザナミよ、呪力よ。俺――ブラックに従え。――須佐之男命スサノヲノミコト


 その瞬間、俺の手に巨大な黒剣が現れた。


 これは、あまりにも強すぎるがゆえに使わなくなった技だ。


 まあでも、こいつ相手ならちょうどいいだろう。


 ”なんだこれ、画面がブレてる”

 ”呪力で、電波が――おくれて――”

 ”なんでブラック様――こんな強いんだ?”

 ”わからない。でも――カッコイイ”

 ”いけええええええ”

 ”や――ば――すぎ――る”


  このサイクロプスは、逃げ惑う人達に攻撃を仕掛けようとしていた。

 容赦はしない。


「――お前に呪いは必要ない。じゃあな」


 そして俺は、思い切り振りかぶった。

 サイクロプスの右肩に剣が深く突き刺さり、腐食の力で防御や魔法耐性を貫通していく。


「はっ、はっ、はははは! ははは!」


 ”つ、つよすぎる”

 ”ブラック、何者なんだ”

 ”でも、いい人だよ”

 ”だな”


「――討伐完了」

 

 ――――

 ――

 ―


 翌朝、スーツ姿の男女のアナウンサーがマイクを持っていた。


「おはようございます。朝のニュースの時間です。昨晩、未曽有の大災害が渋谷の街を襲いました。巨大なダンジョンが謎の崩壊、魔物が街に流れこみました」

「いや驚きました。三十年ほど前にもありましたよね。その時は確か死者数200人……悲しい事件でした。それに今回は、その規模よりも数十倍だったと。いや、更に驚いたことがありましたが」

「はい。私も……驚きましたが、まさか、犠牲者がゼロなんて……」

「迅速な活動のおかげでしょうね。それと、確定したお話でないので公で言うべきではないんですが」

「もしかして彼でしょうか? ――ブラック」

「おや、ご存知でしたか」

「もちろんです。今、凄く話題ですから。いやほんと、ブラック様格好良かったですよ。人々を救った上に、何とダンジョンボスまで倒しましたから! 最後のスサノヲなんて、語彙力がなるほど格好良く! あ、し、失礼しました……」

「いえわかります。私もファンですから。しかし、どうなるんでしょうね。探索者のランク問題もありますから」

「私のような立場で発言することではないのですが、是非寛大な処置をしてほしいと願っております」



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