第15話 終わり良ければ全て良しブラック! でもなんか怪しまれ……?

 探索者委員会、理事長室。

 眼鏡をかけた高身長、手足の長いすらりとしたスーツを着た女性が、テーブルに座っている白髪の男性に激昂していた。


「なぜですか!? ブラックという探索者の登録番号を調べましたが、Eランクでした。確かに功績は素晴らしいですが、資格を剥奪すべきです。しかしそれを――なかったことにしろだなんて」

「もう決まっていることだ。動画もこれ以上はネットからアップロードされないようになっている。今上がっているのもいずれ消えるだろう」

「……納得いきません。これでは規約の意味がありません」

「いいか。これは私の一存ではない。――政府機関、探索者国防長からのお達しだ」


 それを聞いた女性が、目を見開く。


「……あの背丈、まさかと思っていました。もしかしてブラックは、あの子供達チルドレンの一人だということですか?」

「さあな。私にもわからんよ。まさに――真相は『ブラック』だ」



「……理事長。かっこつけてるみたいですが、ダサいです」

「あ、そう?」


 ――――

 ――

 ―


「なあ昨日のブラックの配信見てたか!?」

「ああ、マジかっこよすぎだろ」

「けど、どうなるんだろうな。探索者のルールなら剥奪だろ?」


 陽キャたちが話してる声をラジオにしながら、俺は、ブラックこと黒羽黒斗は、大きなため息をつきながら教室の机に突っ伏していた。


(やっちまったああああああああああああああああああああああああ)


 俺の配信者としての夢が、潰えた……。


 せっかくおんぶに抱っこ、棚から牡丹餅、他力本願で登録者数も増えていたのに……。


 あれから配信アプリを起動するのも怖くてできない。


 エゴサなんてもっとできない。


 きっと、違反をしたから大炎上してるはずだ。

 人々を危険にさらした、身の程知らずのブラックと書かれているに違いない。


 それに最後の最後で、悪い癖が出てしまった。


 戦うのが楽しくて、つい笑ってしまった。


 これはもう、完全に気持ち悪いブラック。


 黒いやつがニヤニヤしてただけだ。


 だが……後悔はない。


 あの時、俺は誰かを見捨てていたらより辛かったはずだ。


 昔、美琴をいじめっ子から助けられなかったような後悔は、もうしたくない。


「お・は・よ・う。黒羽くん」


 そのとき、後ろから声をかけられ慌てて振り返る。

 いつも気配がわからない女性、君内風華さんだ。


「き、昨日はお疲れ様」

「? あ、配信見ててくれたんだ」

「うん、凄かった。格好良かったよ」

「……ふふ、ありがと」

「黒斗、私は?」


 そして次に後ろにいたのは、美琴だ。


「美琴も凄かった。本当に」


 これは心の底から思っている。

 彼女たちがいなければ、ああも見事に助けられなかっただろう。


 ただその代わり――。


「だ、大丈夫? 二人とも痛そうだけど」

「へ、平気だよ? ね、ねええ!?」

「わ、私も大丈夫……ねねねね、ねえ、君近さん」


 呪戦士にした代償で、身体が凄く痛いらしくロボットみたいになっていた。

 以前、俺も自分に付与したことあるが、三日ほど寝込んで動けなかった。


 そう考えると二人は強いな。


「ブラック、どうなると思う?」


 俺は、自分の事だが訪ねてみた。

 探索者アプリを開くのもニュースを見るのも怖いからだ。


「一応、私も事務所からも掛け合ってる。まだ返事は来てないけど」

「私も組んでたパーティーとか、知り合いのみんなにも頼んでるよ。資格の剥奪なんて、してほしくないよね」

「……ありがとう」

「え? 黒斗、なんか言った?」

「何でもないよ」


 本当にいい二人だ。

 といっても、Eランクの俺を守る理由なんてないだろう。


 短い間だが、二人と組めてよかった。


 ……いや、直接礼を言うべきだ。


 隠す意味も、もうない。


「美琴、風華、俺、実は――ブラッ――」


 ピロロン、その時、通知が聞こえた。

 探索者アプリの通知だ。


 それは、まさかの同時だった。


「え、これ……お咎めなしってこと?」

「良かった……ブラック様もこれで……」


『お知らせ:昨晩のダンジョン崩壊について。探索者ランクに満たないものについての処罰はなしとする。この件については後に会見を開きます。お問い合わせはxxxxxxx』


「……ああ、よかった……」


 理由はわからない。だけど、本当に良かった。

 そのとき、美琴が大喜びで飛び跳ね、風華さんにハイタッチした。


 ここまで喜んでくれるとは思わなかった。

 嬉しい。


 俺に視線を向けてくれたので、お手もハイタ――。


「黒斗、何言いかけてたの? ブラッって」

「私も聞こえた。それに、さっき呼び捨てじゃなかった?  風華って」

「え? そう? 気のせいじゃない? あ、ブラックホールだよ。ブラックホール、昨日見えたんだ」

「どれだけ目いいの?」

「なんか、怪しいね黒羽くん」

「あはは、あはは」


 あぶなブラック!


   ◇


 その夜、俺は視聴者に礼をするために配信を付けた。


 ”ブラック様ああああああああ”

 ”ニュースみました。会見いつするんだろう”

 ”良かった。本当に良かった”

 ”ちゃんと見てる人はいるんだね”

 ”お疲れ様”

 ”あれ、どこいるの?”

 ”これ、満月? え、空?”

 ”さすがに配信用の壁紙でしょ”


 俺は、東京タワーの一番上にいた。

 家でやろうとおもったが、最近は特定されるらしい。


 でもよく考えるとこれって犯罪じゃないか?


 ”でも、雲動いてね?”

 ”え、マジ?w”


 やべえ、だまっておこう。


「こ、こんばんブラック!」


 ”お、しゃべった!”

 ”こんばんブラック”

 ”こんぶら!”

 ”おつぶら!”


「ありがとう。みんなのおかげだ」


 ”お礼なんていいブラック”

 ”むしろこっちがお礼言いたい”

 ”あの、私、助けてもらった親子です。初めて配信見ます。本当にありがとうございました”

 ”ほら、感謝してるよみんな”

 ”でも、どうしてなんだろう。規約に厳しいはずなのに”


「わからない。だがおかげでこれからも配信をやれるだろう。短いが、これだけいいにきた」


 ”律儀すぎる”

 ”そういやすぱちゃ投げれるようになったんじゃなかった?”

 ”マジ?”

 ”行くぜお前ら”


 え? スパチャッて――。


  ¥1,000

  少ないけど、ありがブラック”


 ¥500

 ほんとだ。すみません、まだこれしか投げられませんが!

 いつも楽しいです


 ¥2,000

 ブラック、頑張ってくれ


 ¥10,000

 人助けお疲れ様。

 これからも頑張ってください。


 大好きです。


「……お前ら、ありがとな」


 ああ、最高だ。

 これが、配信者なんだ。


 お金よりも、気持ちの方が嬉しい。


 でも、お金も嬉しい。


 帰りにお菓子買って帰ろう。


 ついでに飲み物もちょっと普段は買わないやつにしよう。

 

 ハーゲンダッツにしよかな。


 うーん、調子乗りすぎかも。


 やっぱりガリガリ君にしておこう。


「それじゃあおやすみブラック。――ありがとな」


 ”お疲れ様”

 ”おやすみなさい”

 ”次のダンジョン配信、楽しみにしています”

 ”美琴風華に宜しく!”

 ”おやすみブラック!”


 配信を切る前に、月を眺める。

 まさか自分が、ここまで褒められるようになるとはな。


「……さて、終わるか」

「良かった、ブラックさん」

「ブラック様、これからもよろしくお願いします」

 

 慌てて振り返ると、そこには手足をぷるぷるさせながら鉄骨にしがみついている二人がいた。

 美琴と風華さんだ。

 落ちるなよ、絶対に落ちるなよ。


「なんでここに……」

「配信見たからですよ」

「はい。直接、お礼をいいたくて」

「――ふっ、二人もよくやった。これからもよろしくな」


 そのとき、美琴が案の定倒れそうになる。


「――気を付けブラック」

「は、はい。――あれ、その顔どこかで――」

「え? い、いくぞ美琴、風華」


 俺は二人を抱えて地面を降りていく。

 呪空術は難易度が高い。だが滑空するだけなら問題ない。


 しかし――。


「美琴、顔を凝視するな。風華、なぜ匂いを嗅ごうとする」


 何か、怖いなぁ。


 とはいえ良かった。


 明日からも、がんばブラック!



 ――ピロン。


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 понял тебя。

 


 


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