第12話 初めての企業案件は、高難易度グルメダンジョン!?
「おはよう、黒斗っ!」
「黒羽くん、おはよう」
学校のお昼休み、最近なぜだか知らないが、俺におそらくモテ来が到来している。
目の前には、幼馴染で綺麗な御船美琴。
そしてその横には、あの人気配信者でもある君内風華がいる。
「黒斗、お弁当作ってきたよ」
「え? 俺に?」
「そうだよ。だって、最近パンばっかりだったし」
「ありがとな」
彼女とは幼い頃に知り合った。俺が海外へ行っていた時は連絡が取れなかったが、戻って来てからは常に気に掛けてくれている。
正直、俺なんかに構うにはもったいないくらいいい子だ。
「黒羽くん、実は……私も」
「え? え? お、俺に!?」
するとその手には、お弁当箱があった。
訳がわからない。一体、何が?
二人はいつのまにか仲良くなっていた。
今ではまるで親友みたいだ。
――もしかして。
やっぱり、ダンジョンのおかげだ。
死線を超えると仲良くなれる。共通の目標を持つことで、連帯感が生まれる。
ああ、やっぱり、ダンジョンって凄い。
「なあ、黒羽のやつ弁当作ってもらってないか?」
「いや流石にそれはないだろ。試作品かなんかを食べさせてるんじゃね?」
「ああそうか、配信者だとそういうのもあるもんな。毒見みたいなもんか」
後ろから何か聞こえるが、気にしないブラック。
「ほら、食べて食べて」
「私のも、黒羽くん」
「あ、うん」
しかしそのとき、通知が響いた。
件名『今日の企業案件について』
今日は、ブラックに初めての依頼がきたのだ。
楽しみだが、不安もある。
頑張らないと。
メールを確認して前を向くと、二人が俺を見ていた。
「どうした?」
「……今、通知鳴った?」
「なんか、同じタイミングだったよね」
「ああ、お知らせメールだよ。お昼の時間を設定してたんだ」
「ふうん」
「そうなんだ」
そう、今日は三人でコラボだ。まあ、俺ではなくブラックだが。
ちゃんと気を付けなあかんブラック!
そして俺は新しい目標を立てた。それは、探索者の最高位であるSを目指すことだ。
今は確かEランクだったか。まあ、ボスを調伏していたので討伐ともいえないし、制覇として申請していなかったのも悪いが……。
今後はしっかりとしていくつもりだ。
そのほうが、入場可能なダンジョンも増える(らしい)。
全ては視聴者の為、そしてブラックの人気を確固たるものにする為に――。
◇
”お、始まった”
”うわああ、また三人! 神回続く”
”美琴&風華がアシスタントを務めるブラック”
”今一番乗ってるブラック!”
「こんばんブラック、美琴です!」
「こんばんブラック、風華です!」
「そして私が――ブラックだ」
”挨拶がレベルアップしてるw”
”もうトリオなんよw”
”なんか、女子の服もちょっとブラックになってない?w”
”本当だ、黒くなってるw”
俺も驚いたが、二人とも少し黒い服装になっている。
どうやら配信を気にしてくれたらしい。
そういえば事務所の問題は大丈夫なのかと聞いたところ、むしろもっとコラボして知名度をあげてほしいとのことだった。
いや、俺はありがたいが……。
美琴も割と有名なパーティーに入っていたので聞いてみたが、こっちを優先したいという。
まあ、ブラックとして聞いているわけだが。
俺たちはもう、ダンジョンの中に入っていた。
テンポは大事だ。それが、視聴者の為にも繋がる。
「今日は政府指定の新グルメダンジョンへ来た」
初心者講座にも書いていた。まずは何をするかを明確に。
すると――。
”うはw またとんでもないとこにw”
”グルメダンジョンって新しいところ?”
”うわああ、うらやましい”
”そういえば、なんか画面からいい匂いが”
”そこってもう入れるんだ”
”難易度もかなり高いんじゃなかった?”
”楽しみすぎる”
グルメダンジョンとは、先月に新しく出現した高難易度ダンジョンで、色んなとこ食べることができたり、モンスターが美味しいとされているのだ。
まだ探索者委員会や政府しか入れないのだが、先日メールを確認したところ「ブラック様に是非」と書かれていた。
ありていに言えば宣伝してほしいのだろう。つまり初めての企業案件である。
俺は、咳払いした後、昨日復唱したことを思い返す。
「グルメダンジョンは、先日オープンした。今は会社、XXXから提供されている。入場の費用はかからないが、XXXが必要で。人数はXXXが持ち物は――」
”企業案件下手かよw”
”手馴れなさすぎブラック”
”クソワロタw”
”案件いつも萎えるけど、ここまで下手だと逆に好感”
”むしろ初案件が上層部がらみってすごくね?”
”ヤバいw”
”落ち着けブラック”
”マジかよブラック”
一生懸命に説明していると、いつのまにかコメントで笑われていた。
うーん、難しいブラック。
おんぶに抱っこで人気が出ただけで、俺はまだまだなのだ。
それをより噛み締めよう。
すると、風華がとんと俺の肩を叩く。
そして、ウィンク。
そうだな、視聴者を楽しませないと。
「では行こう。よし――ミカッ」
「ミカッ!」
そして俺は、ミカエルことミカを召喚した。
ぽんっと現れると、嬉しそうに羽をパタパタさせる。
デフォルトされた女の子で、白いスカートがヒラリ。
天使のわっかがとても可愛らしい。
”かわええ”
”癒しw”
”いいパーティーだなw”
「今日は、
”調伏してさっそく!?”
”うおおおお、楽しみ”
”すばらブラック”
”豪華な回だ”
”いいねいいね”
前に進むと、すぐにスライムが現れた。
見た目が少し茶色だ。
”これ確か擬態スライム”
”こうみえてB級ぐらいのやつじゃなかった?”
”似たようなのに全滅したことある”
まず、ミカが近づいていく。
”光魔法かな?”
”浄化系かも”
”ワンチャン剣”
”なんか、距離近くない?”
そう、ミカはスライムにゆっくり近づいて――思い切りビンタした。
それはスライムも驚いたらしく壁に激突し、そのまま息絶えた。
「ミカッミカッ!」
”まさかの物理wwwwww”
”魔法タイプじゃねえのかよ”
”脳筋天使めずらしw”
”クソワロタw”
”ある意味カワイイ”
そう、俺も驚いたのだが、ミカエルは力タイプだった。
ダンモンにはあまりいないタイプなので、これはこれでよし。
そして、風華がスライムを持ち上げると、ぽんっと音を立てて、小さな四角い塊になった。
「これは……?」
「いい匂いするね」
「風華、貸してくれ」
そして俺は、おもむろに口に入れた。
一応、政府からの資料にも書いていた。
それは、とても芳醇な香りのチョコレイトだった。
「美味いブラック……」
”嗜好な顔w”
”食べれるんだ”
”すげえ、さすがグルメダンジョン”
”二人にも食べさせてあげて”
それから何度かスライムが出てきたので、風華と美琴が二人で倒す。
正直、俺の手助けもミカの手助けもいらないぐらい強い。
次のスライムはチョコレイトと飴玉だったらしく、頬張った瞬間、同接が伸びる。
「美味しい……」
「甘いねえっ」
”口についたチョコをぺろぺろすなw”
”たまに見える舌がエロイ”
”これはまさか……色んな意味で美味しい!?”
”艶っぽい”
”思わぬ役得”
二人とも食べるのが好きらしく、確かにいい顔をしていた。
少しエロいブラック。
途中、壁の上から下までチョコレートが流れている滝を見つけた。名づけるなら、チョコレートウォール。
舐めてみると、濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。少しだけ苦味がある場所もあった、ビターウォールと名付けよう。
「美味いなペロペロ」
「そうねペロペロ」
「ペロペロペロペロペロ」
「ミカミカッ」
”シュールな映像だなw”
”三人と一匹で壁を舐めている”
”ワロタ”
”風華舐めすぎwwwwwww”
服をチョコまみれにした後、ふたたび前に進む。
風華さんは配信をやはりわかっている舐め方だった。勉強になる。
だがだんだんとモンスターが増えてきた。
メールでも書いていた、難易度はすぐに高くなる。
一体二体、気づけば十体に囲まれている。
敵はオーガタイプだ。デカい牙と、デカい体躯。
狭い通路で、相手にするのは面倒だろう。
だが――。
”来るぞ来るぞ”
”ついに本番”
”カウントダウンスタート”
俺には、関係ない。
「死の宣告」
すぐさま駆けると呪いを付与、カウントダウンが一斉にスタート。
0になった瞬間、魔物は食材となった。
”すげええええええ”
”相変わらず最凶”
”正直勝てる奴いなさそう”
”ブラック様はなんでこんなに強くなったの?”
「……過去は語らない」
恰好良く言い切る。ちらりとコメントを除くと、思ってたより少なかった。
”暗黒面を出すブラック”
”実際、マジでなんかありそう”
”新しい呪術みたいー”
”震えて眠れブラック”
確かにそろそろ新しい呪術を紹介してもいいだろう。
配信映えするのは「アマテラス」かもしくは「イザナギ」かな。
ま、なるようになるだろう。
しかし同接続凄いな。本当にありがたい。
俺のこんな配信に来てくれて。
よし、だが本番はここからだ。
がんばるぞ。
「今から中層に入る。風華、美琴、ここからもっと強くなるぞ。気合を入れろ」
「「はい!」」
そこはできれば、ブラックつけてほしかったなあ……。
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