3話 帝国の違和感

門を越えると、そこは別世界だった。


「……は? なんだよ……これ……」


 壊れた道に、壊れた家屋。そしてその剥き出しの道の端にうずくまる傷だらけの人達。


「驚いたでしょう」


 隣にいる男は冷めた目で同じものを視ている。


「おい、どういうことか説明しろ。さっきあんた言ったよな? オリキニア帝国の中央兵舎だって。これから姫に会わせに行くとも言った。なら、ここはなんだ? まさか、ここに姫がいるだなんて言うつもりじゃないよな?」


 連れてこられたのは、どこをどう見ても荒廃した街だった。人や建物も崩れるのは時間の問題だと、一目で分かるほどに生気を感じられない街だ。


「おお、察しがいいですね。そうです、姫はここに居ます。ついてきてください」


 だが、そんな自分の言葉を正解ですと言って笑う黒魔術師。


「……はあ?! い、いや嘘つけ! いくらなんでも騙されないぞ!」


「本当ですよ。ここを真っ直ぐ歩いたところにボロ家があるんですが、そこで姫様は衣食住されています」


「いや! 止めろよ! 姫様になんて生活させてんだあんた……」


「はっはっは、言葉もありません。見事なツッコミ、流石です」


 男はそう言うと笑いながら壊れた道の先を行く。


「お、おい!」


 置いていかれないよう早足でその後を追う。そこからは、一切の会話が無かった。

 先程の会話が何かしら都合が悪かったのだろうということは何となく理解した。


「つきました」


 と、そこで目の前の男の足が止まる。

 目の前には今までで一番壊れている家が一軒。屋根は飛び、玄関の戸は穴だらけで、意味があるのか疑問に思うほどだった。


「帰ったのですか……」


 そこで、中から一人の女性の声が聞こえてくる。


「はい。ただいま戻りました」


「ということは、手に入ったのですね?」


「何とか……危ない場面ではありましたが、無事聖剣持ちを連れてくることに成功しました」


「……では、話していたとおりに。行きなさい」


 女性の声は必死に声を出している感じだった。苦しさを必死に隠しているかのような、そんな頑張った声だった。


「……まぁ、そういうことですので。もう一度兵舎に戻ります」


「は?! また?! ってか何もしてなくないか?! 今ので何が分かったんだ?!」


「いいえ、充分です。さ、あとは来た道を数時間かけて戻るだけです。行きましょう。詳しい話は、兵舎で」


 男はそう言うとまた紫光に光る鎖で縛ってくる。


「待て待て! 歩くから! 自分でちゃんと歩くから!」


 結局、何をしに来たのか。それが一切不明のまま、俺は兵舎へ強制送還されたのだった。

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