隣の超能力者

海湖水

隣の超能力者

 玄関のベルが鳴る音がした。

 空には雲一つなく、日差しが容赦なく降り注いでいる。柔らかな風に吹かれて、風鈴がチリンと鳴った。


 「あかね~!!遊ぼ~」


 誰が来ているかを大体察していた茜は、外に出かける準備をすると、玄関へと向かった。茜を急かすかのように、玄関の前に立つ少女は玄関のベルを鳴らす。


 「昨日ぶりだね、明音あきね。今日も来たんだ」

 「昨日ぶり~。今日も隣の佐藤さんのとこ行くよ」


 茜は目の前に立つ明音を見た。着ている服は、今の茜が着ている服と同じものを着ている。何をしたいかがわかった茜は、思わずため息をついた。


 茜と明音は似ている。性格がではない。茜はあまり積極的でなく、友達がとても多いわけではない。それに対して明音は、とても積極的で明るく、初めて会った人でもすぐに友達になれる。

 似ているところは見た目だ。傍から見れば、双子なのではと思われることも多い。なぜか誕生日も同じで、好きな食べ物や動物も一緒。それに気が合う(赤の他人なのに)。

 性格が違うところもウマが合う要因だったのか、二人はすぐに仲良くなった。

 そして、二人は今、同じ目的を持っていた。


 「佐藤さん、今日はどんな反応するかな?」

 「明音、つい最近はこればっかりだよね。……まあ、私もだけど」


 目的地にはわずか数歩で着いた。茜の家の隣の家。表札には『佐藤』とポツンと書かれている。


 「佐藤さん、出かけてないかな?」

 「あの人が出かけてても、私たち気づけないでしょ。あの人、瞬間移動使えるし」


 茜の隣に住む、独り暮らしの男性、佐藤さん。彼は超能力者だ。


 茜たちが、佐藤さんが超能力者だと気づいたのは、3か月前。茜と明音がいつものように遊んでいると、佐藤さんが家から出てくるところが見えた。いや、少し違う。家のドアは開くことはなく、何もない場所へと佐藤さんは突然現れた。

 それから、二人は佐藤さんのもとを訪れることが増えた。初めは佐藤さんは二人のことを、ただ自分が超能力者だということを知った小学生だと思っていた。佐藤さんは表情を全く変えないから、感情が読み取りにくい。超能力者だとバレた時も、特に慌てた様子を見せなかった。

 それから毎日、二人は佐藤さんの家に訪れた。佐藤さんは自らのできる超能力の数々を、二人に見せてくれたからだ。そんな生活が続くにつれ、二人は佐藤さんの感情も少しづつ読めるようになってきた。


 「でもさぁ、佐藤さんって表情だけは変えないんだよね~。ちょっとは驚いてる顔とか、そういうのが見てみたいよ」

 「まあ、ね。私もあまり感情を表に出さないタイプだけど、あそこまで見せないのはちょっと異常な気もするよね。感情はわかるのに……」


 それから二人は、佐藤さんの表情を変えるためにいろいろなことをしてきた。2か月間数えきれない回数してきたのだ。

 表情が変わった回数?もちろんゼロだ。


 「おじゃましま~す!!」

 「おじゃまします」


 二人は何のためについているのかがよくわからないドアを、佐藤さんから受け取っていたカギで開けると、中に入った。今回の計画は、多分、瞬間移動だ。なぜ『多分』なのかというと、茜は明音から何の説明も受けていないからである。

 茜と明音が同じ髪型と服装なら、まず見分けることは難しい。だから、まず明音が佐藤さんを呼んで2階で隠れ、茜が外に立っていることを窓から見せ、まるで瞬間移動をしたかのように見せる、という計画だ。


 「佐藤さ~ん!!」


 明音が二階で佐藤さんを呼ぶ声が聞こえた。そのあと、男性としては少し高めの返事が聞こえると、茜は外へと出た。これで、窓から茜の姿を見せれば……


 「やあ、茜ちゃん。元気?」

 「ごめん、茜!!見つかっちゃった~」


 気づけば目の前には明音と佐藤さんが立っていた。これが本当の瞬間移動か、レベルが違う。茜は目の前に、人が突然現れたことで尻もちをついた後、その場に寝転がった。


 「まあ、案は悪くなかったと思うよ。家に入ってくるときに、二人とも声を出しちゃったから、だいたいわかったけど」

 「案が悪くないって、なんやかんや失敗する未来しか見えないんですよね。今回も超能力でなんとかできるでしょ?」

 「……まあ、否定はしないけどね」

 「茜!!次は頑張ろう!!」

 「次は成功するやつにしようね」


 二人の少女は笑いあった。今は叶いっこないけれど、いつか叶うかもしれない、変な目的。それが二人の絆を深め合っていく。

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隣の超能力者 海湖水 @1161222

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