第50話 情報共有
「天空界はこんなに不祥事が溢れるほどに無能ものばかりであったかのう!」
地母神は怒りを隠しもせず、強くこちらを非難する。
言いたい事はわかるが、彼女は自分の立場からそう言うのではなく、ほぼほぼ私怨からそう言っているのはわかっていた。
(ここに父上がいなくてよかった)
部下には万が一天上神が来たら伝えるようにとは言ってある。
折角話が出来る機会を潰されたくはない。
「地母神様の怒りは尤もな事です。私達が不甲斐ないばかりに心配ばかりを掛けてしまいまして、申し訳ありません」
私の言葉に地母神はますます顔を歪め、眉間に皺を寄せた。
私の部下も地母神の部下も、はらはらした表情でこちらを見つめている。
「ほぅ……そう言うからにはルシエルよ。伝言もなく勝手に宴を解散し、説明もなく追い返そうとした妾への無礼に対して、何か償いはあるのだろうな?」
普通の者であれば身震いしそうな程鋭い眼光で睨みつけられるが、そのような事で引きはしない。
私は逆に一歩前に出た。
「そうですね、ではお詫びの言葉を失礼します」
「は?」
私が耳元で伝えた言葉を聞いて、地母神は力任せに私の胸倉を掴み上げる。
(さすが最高神の一人、女性と言えども凄い力だ)
ギリギリと締め上げられるが、かろうじて呼吸は出来るところに温情を感じる。
「今の言葉は真実だろうな? 嘘をついていたら承知せぬぞ!!」
また地響きが鳴り、建物が揺れる。
「大きな声では言えないですが、本当です。出来ればここの神には内密にして欲しいですね」
「ふん!」
地母神は私を突き飛ばす勢いで手を離す。
「大丈夫だ」
駆け寄って来ようとする部下達を手で制し、再び地母神に向き直った。
「もしも嘘であればお前を許さぬからな」
不機嫌な顔は変わりないが、やや声が優しくなる。
「身に危険が及ぶような嘘をついたなどと知られたら私は殺されるでしょう。誰に、とは言いませんが」
不承不承と言った感じで、地母神は私に背を向ける。
「急ぎ確認に向かう。ルシエル、もしも本当であればそれ相応の褒美をお前にやろう」
「さすが地母神様はお心が広い。いえ、それだけ彼が大事な存在なのですよね」
「お前、まさか知っているのか?!」
驚く地母神に頭を下げる。
「弟からは色々と伺っています」
ソレイユは地母神との関係を教えてくれていた。
その事があったから、地上に落としたのもある。地母神なら必ずソレイユを助けてくれると信じていた。
(しかし直ぐに匿ってもらえるかはわからないし、地上の神全てがソレイユの味方をするとは限らない。こちらからも援軍を送らなければ)
地母神とて探すとすれば、信頼する部下にしかソレイユが生きていることを話さないだろう。
うっかり天上神へと伝わりでもすればいくら地母神とて庇いきれないだろうから。
「私は彼の味方です。ですから地母神様とも今後ぜひ仲良くして頂ければ嬉しいですね」
「……考えておこう」
逡巡してから地母神はそれだけ言って再び歩き始めた。
恐らくこの後すぐにソレイユを探す手筈を整えるはずだ。
私の方でもソレイユの部下に捜索させねば。
一旦私の部下として引き入れれば、天上神に知られる事なく地上界に送り込めるだろう。
口が堅く信頼に厚いものはもう見繕ってある。
「さすがに疲れたな……」
地母神の姿が見えなくなってから思わずため息が出てしまう。
少々気を張ったが、こうして直接話を出来て良かった。
(秘密裏に使者を送ろうと思ったが手間が省けたな。天上神に知られたらソレイユも私も命がない。そうなればルナリアを助ける事が出来なくなってしまう)
だがうまくソレイユを味方してくれる者が増えて安堵する。
今後も手を間違えないように気をつければ、いつか天上神を討つことが出来るだろう。
「大丈夫ですか? ルシエル様」
おずおずと声を掛けられ、私は顔を上げた。
見れば部下達が心配そうな表情をしている。
「すまない、大丈夫だ」
軽々しく泣き言や弱音を言うものではないな。
私はいずれ今の天上神に成り代わってこの世界を守っていかなければならない。
その為に誰よりも強い力を持って、そして誰よりもこの世界を想っていこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます