ある国の国王夫妻の話

秋月蓮華

ある国の国王夫妻の話

【ある国の国王夫妻の話】


王妃になれたのは偶然とか、縁があったからである。

この王国の貴族の中でも上位には入る彼女の家だが、当時の王子には婚約者がいたのだ。

凛々しくて、仕事ができる。

王子を支え、国を発展させるであろう女性は貴族通しの、家通しのトラブルに巻き込まれて殺されてしまった。

婚約者の座は開いてしまい、彼女が滑り込むこととなった。

父親曰く、王子の指名であった。

断る理由もなかったので受けた。

王妃となって。

子宝にも恵まれて、国は発展していく。

殺された女がいなくても、国は動いていく。


「旦那様、お疲れですか」


「疲れた」


国を動かしている現在の国王、王子から国王となった旦那様の部屋でお茶と共に待っていればあの人はやってきた。

疲れたとだけ言っているがお茶を飲むぐらいの力はまだ残っている。

これがなにも出来なければ、そのまま寝るのだ。

良い妻としてはしっかりと旦那を寝かせることではある。

国王は彼女に近づくと抱きしめる。抱きしめる力を強くしていた。


「今日も一日ご苦労様でした」


「領土の問題が片付きそうだ」


領土の問題とは王の元婚約者の領地のことだ。元婚約者が継ぐはずだった領地。

貴族たちの中でも最大領土を誇っていた場所は元婚約者が殺されてから、彼女の父親が新しい妻をめとり、

子が産まれその子がつぐことになりそうであったが、当時の領主が錯乱し、子供だけが残ってしまった。


「あの方が、死んでしまったから」


「正確に言えばそれ以前から抑えていたあふれだしたともいう」


まあ、となる。

かなりその問題は王にとっては頭を悩ませていたものだ。


「落ち着いたら、また訪問しますか」


「お前や子供たちをどこかに連れて行きたいが、城にこもらせてばかりだ」


「私は城も好きですよ。子供たちも城が好きで」


子供たちは二人、どちらも女だ。男を望まれてはいるのだけれども、運である。

王は、彼女の旦那である彼は彼女を気遣い、子供たちも気遣ってくれている。


「今度、花を贈ろう」


「嬉しいです。旦那様は私を気にかけてくれて」


「お前も俺を気にかけてくれている」


「私にできるのは、これぐらいなので」


元婚約者よりも彼女は頭がいいというわけではない。

出来ることは彼を支えることだし、出来る範囲のことをするだけだ。

王は彼女に長く口付ける。


「これぐらいでいい」


離れて、彼女を抱きしめたまま王が話す。


「あの方よりも、私は支えられていないとは思いますので」


「……アイツは性格がきつかった。幼少期からの婚約関係であったし、俺も好きではあったが、だんだんと合わなくなってきていた」


「性格が変わられたので」


「どうだかな。俺は合わせていたが。凛々しすぎた」


好きであったことは確かなのだけれども、あわなくなってきたとは初めて聞いた気がする。

話題にすることはなかったからだ。


「私があなたを支えられ、一助になっているなら嬉しいです」


「俺もお前がいてくれて嬉しい」


彼を支えることは彼女にとって大事なことだ。

だって。


「旦那様のこと。好きですから」


王子様だと憧れていて。

将来は王となるために努力をしてきた人だ。

努力もしている。

そんな彼を助けられることが、彼女の幸せであり、


「――俺もそうだ」


助けてもらうことが彼の幸せである。

彼女はそっと彼から離れた。


「お茶にしましょう」


「冷めてしまったか?」


「いいえ。飲み頃かと。――豊穣の国の新しいお茶です。お茶は葉の発酵具合でどんなお茶になるのか決まるのですが。今回は紅茶です」


このまま抱きしめられていてもよかったのだが、お茶は飲んでほしい。豊穣の国は隣国だ。今の所は仲がいい。

部屋にあるアンティーク調の丸テーブルに載せてあるティーカップに継いだ紅茶はまだ湯気を立てていた。彼女が席に座り、彼が前に座る。

お茶菓子はクッキーだった。多少の料理は出来る。というのも、やってみたかったから覚えたのだ。

貴族で上の方とは言ってもやりたいことはやらせてくれる家であった。


「あの国の王と会ったのか」


「使いの方が持ってこられて。近いうちに旦那さまにも訪問をしてほしいと」


「食料関係だな。重要だ。クッキーはお前の手作りか」


「作るのは、好きです。貴族らしくはないとは思いますが」


「お前らしくていい」


この国は大国であるが一部の食糧は豊穣の国から輸入をしている。貿易はしているのだ。彼は紅茶を口に含んで飲んでから、クッキーを食べる。

クッキーはシンプルなバタークッキーだ。軽いものである。


「どうでしょうか」


「美味い」


「娘たちも喜んでいて」


彼が褒めてくれた。娘たちもおいしいと言ってくれたのがよい。


「近いうちに貴族たちを集めたパーティが開かれる。長女には出てもらわないといけない。長女もそうだがお前にも新しいドレスを作らねば」


「ドレスは良く作ってもらっていますけれど」


宝石やドレスは綺麗だとは思うのだけれども、積極的に買おうとは思っていない。程よくあれがいいのだが、彼は王妃だからとあつらえてくれる。

衣裳も宝石もプロに任せておいているのだ。お陰で社交場では旦那様の妻として王妃として振る舞えている。

貴族として沢山のことは叩き込まれたのだけれども、王妃のことまでは教わらなかったし、日々精進だとはなる。

彼女も紅茶を飲んだ。紅茶は葉も大事だが加工する工程も大事だ。この紅茶葉は一級品である。

豊穣の国の王は時折逢うのだけれども、作物のことに詳しい。


「お前のために作りたいんだ。遠慮をするな」


目を合わせられる。遠慮をしたとしても押し切られるだろうとなる。


「では、またお願いします」


国庫を傾けていることにならないかとなるが、政務官は慎ましいですねとか言っていた。派手に使いすぎるのもよくないだろうけれども、

使うところは使わなければならない。


「パーティは嫌いだが、やっておかねばな」


「かっこいい旦那様が見られるのは嬉しいですよ。私も釣り合うように精いっぱい着飾りますので」


「美しいお前を見せたい反面、見せたくはないとも思うがな」


頑張ることは告げておく。紅茶をまた飲んだ時に彼が言ってきたので紅茶を噴き出しそうになってしまった。貴族的にというか王妃的にというか人間的に良くはない。

口を押さえて紅茶を飲み込んで音をたてないようにティーソーサーにカップを置く。


「旦那様ってば……」


「お前はとても美しい。いうタイミングがずれてしまったが」


美しさに自信はないのかと言えば、綺麗ですねとは言われるので美しいのだろうとはなる。国王としての彼はとても凛々しくてかっこいい。


「紅茶を噴出さなくてよかったなと」


「正直だ」


「……旦那様にかかる恐れもあったので」


お茶の時間を終わらせていく。テーブルの上には飲み終わったティーカップと食べ終わった皿が置かれていた。

休むことが出来たのだろうかとはなる。酒でもよかったかもしれないが、美味しい紅茶の方を飲んでほしかった。テーブルをそのままに立ち上がった彼は

彼女の手を取る。


「気遣いがとても嬉しい。安らげた。そして俺は暫くお前を愛でていなかった。存分に愛でてもいいか」


右手の甲に口付けられる。それは、つまり。

意味を理解した彼女は、顔を赤らめながら……理解はしているのだが慣れないところは慣れないのだ……旦那様に向かって口を開く。


「好きなだけで私を愛でてください。旦那様」



【Fin】

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