992 幸せの権利

 新店舗での初めてのお客さんとしてのカット。

静流さんと言う、崇秀の母親から自分の娘の様に扱って貰える様になった権利。

そんな沢山の幸せを与えて貰ってる眞子なのだが、これでまだ崇秀の見せたい物は終わりではなかった(笑)


***


「あっ、あれ?なっ、なにこれ?」


その部屋の中に入った瞬間、崇秀が部屋の電気を灯してくれたんだけど。


なに?なんなの?この女の子女の子した部屋?

なんの為に、こんな部屋が存在するの?


まさか……此処ってお母さんの部屋じゃないよね?

静流お母さんって美人系の人だから、こう言う少女趣味なイメージじゃないんだけどなぁ。


あぁでも、この家には静流お母さん以外の女性が居ない訳だから、やっぱり此処ってお母さんの部屋なのかなぁ?



「いや『なにこれ?』って言われてもだな、オマエの部屋としか答えようが無いな」

「えっ?えっ?えっ?なっ、なっ、なに?どういう事?なに?それ、どういう事?」

「いや、だからぁ、そんなに何回も『なに?』って聞かれても……オマエの部屋は、オマエの部屋としか言い様がねぇじゃねぇの」

「ちょ!!ちょっと待って!!なんで私の部屋が、崇秀の家にある訳?」

「まぁ、そう慌てなくても、その辺についての説明もちゃんとしてやるから。取り敢えず、その辺に座るなりなんなりしろ。こんな入り口で立ち話すんのもなんだろ」

「えぇっと、あぁっと……あの、うっ、うん、そうだね」


訳わかんないよ。


……とか言いながら。

厚かましくも部屋に入って、ベットの上にチョコンと座ってみる。


そんで、崇秀も絨毯の上に座ったので……



「あの……早速で悪いんだけどね。これって、本当にどういう事なの?」

「いや、別に、どうもこうもねぇだろうに。ただ単に、オマエが、ウチのお袋に甘えたくなったら、この部屋を使えってだけの話だ」

「えっ?でもでも、そんなのお母さんに迷惑じゃない」

「いや、全然迷惑じゃねぇよ。寧ろ、お袋を構ってやってくれ」

「なんで?他人が勝手に出入りしたら、お母さんに迷惑掛かるじゃない」

「いや、それがそうでもねぇんだよ」

「なんで?なにが、そうでもないの?」

「いや、実はな。あぁ見えてウチのお袋ってな。結構寂しがり屋なんだよ。だからよぉ、俺が居ても、居なくても構わねぇから、此処に遊びに来た時は、この部屋を使って、偶に話し相手になってやってくんねぇかなぁって話。なんかお袋。オマエの事を矢鱈と気に入ったみたいだしさ。……つぅ訳で、ほれ、家の鍵」


あぁ……もぉ、この親子だけは……


どう言う理由で、この部屋を提供してくれようとしてるのかと思ったら、そう言う事だったんだ。


けど、そんなに私を泣かして楽しいの……


もぉヤダ……

して貰ってる事、全てに感動しちゃって、涙が、またポロポロ零れ落ちてきた。



「ぐすっぐすっ……良いのかなぁ?本当に良いのかなぁ?私、そんな事までして貰って良いのかなぁ?……私なんかが……そんな事して貰って良いのかなぁ?」


そう言いながらも、言葉とは裏腹に、私は、崇秀の投げてきた鍵を握り締めていた。


この幸せを逃したくない証拠なんだろう。


でも……



「いや、良いからやってんだけど」

「そう言う事じゃないんだよ。ぐすっ、ぐすっ……私…私は、今の真琴ちゃんに嫌な事を全部押し付けて丸投げした様な卑怯な女だよ。それなのに……こんなに親切にして貰っちゃって良いの?こんなに幸せで良いの?」

「はぁ?そんなもん良いに決まってるじゃん。なに言ってんだオマエ?」

「でも……」


やっぱりダメだよ。

これは、私が世界で一番手放したくないものだけど、此処まで甘えちゃダメだ。

真琴ちゃんにだけ自分の嫌な事を押し付けて、自分ばっかり1人で幸せに成るなんておかしいよ。


そんなの人として間違ってるよ。



「アホかオマエは?いや、敢えて言うなら、正真正銘の馬鹿なんだな。なんでオマエが、わざわざ不幸になる必要があるんだよ?訳わかんねぇんだけど」

「えぇ~~~っ、だって、だって、崇秀は、そう言ってくれるけど。今の真琴ちゃんは、これから私の代わりにズッと大変な思いをする羽目に成るんだよ。それなのに、それを丸投げした私が、1人だけノウノウと幸せに成るなんて、絶対におかしいじゃない」

「じゃあ、なにか?オマエの言い分からしたら、オマエが不幸になったら、倉津の不幸とやらは消えて無くなるのか?」

「えっ?……そっ、そりゃあ、無くなりはしないけど」

「だったら、オマエの言う、その幸せとやらに勝手になれば良いじゃねぇかよ。なに、倉津と不幸を共用しようとしてんだよ、このバカタレが?んな無意味な事をしてもなんの意味ねぇだろうに」

「だって……」

「だっても、ヘッタクレもあるか。けど、そうやってオマエが倉津の事を不幸を嘆く位だったら、出来るだけアイツが不幸じゃなくなる様にバックアップする努力するのが筋ってもんなんじゃねぇのか?……それになぁ。人間、誰であっても、幸せになっちゃイケネェ人間なんて、この世の中には誰1人として存在しねぇんだよ。……馬鹿かオマエは」


あっ……本当だね。

私が真琴ちゃんと不幸を共有した所で、なんの意味もない。

いや寧ろ、それ処か、それで自身の感じてる罪悪感を少しでも軽減し様としているだけに過ぎない。


それはただ単に、無意味な現実逃避でしかないんだ。



「あの……じゃあ私は、この幸せを噛み締めさせて貰って良いのかな?」

「だから、良いに決まってんだろ。今更オマエがワザワザ不幸を背負い込む必要なんてねぇんだよ。……それにな。オマエは、ヤクザが不幸だと激しく勘違いして様だがな。実際は、それは、そうでもないんだぞ」

「どうして?ヤクザなんて世間の嫌われ者だよ?普通は、そんなの嫌じゃない?」

「ぬるい考えだな。……良いか眞子?ヤクザってのはな。下っ端じゃねぇ限り、そこそこに金は有るし、色々な人間との繋がりも持ってる。特に『倉津組』ぐらいの大きな組織になってきたら、その影響力も資本力も桁違いだ。……っとなるとだ。この有用性を、どう使うかで、不幸じゃなくなる可能性は大にしてある。……要は、オマエは、此処がなにも解ってないって事はだな。オマエの考え方が一方向しか見えてない証拠なんだよ。その辺については、遠藤さんを、ちょっとは見習えって話だ」

「えっ?……遠藤さん、なんかしてるの?」


あの人って……実は、凄かったりするのかなぁ?


でも、もし凄いのなら、なにが凄いのか知りたいなぁ。

そのヒントさえ貰えれば、真琴ちゃんをヤクザの世界から救出して、奈緒ネェと幸せになる可能性がグッと高くなるからね。


此処は、絶対に知って置きたい情報だ。



「教えねぇよ」

「なっ、なんで?意地悪しないで、お願いだから教えてよ」

「ダメだな。此処からは、オマエが倉津を助ける為に、自分で探って、自分で考えろ。それがオマエに課せられた、今後の課題だからな」


……そっか。


これも当然だよね。


いつもの様に、誰かに頼ってばっかじゃ、なにも成長しないし。

本気で真琴ちゃんを『ヤクザの世界から救おうとしてる』なんて、口が裂けても言えないもんね。


……うん、そうだね。

だったら、色々な方向から独自に考察して、頑張ってみるのが筋ってもんだよね。


よっし!!なら誰にも頼らず、出来る所までは、なんとかしてみせる!!



「解った。……じゃあ、自分が、これだけの大きな幸せに貰う代わりに、真琴ちゃんの件は精一杯頑張ってみる。それぐらいの覚悟が無きゃ、口先だけになっちゃうもんね」

「はい、良く出来ました。……まぁ、結論的に言えば、そういうこったな」


あぁ……またこうやって、私の持っている負い目を消すヒントをくれてる。


今回は、答えじゃない所が味噌だね。


それになにより、私が、今以上に頑張れる為に、向井眞子と言う私が一番望む家族と言う物を与えてくれた。


申し分が無いほど、なにもかも、お世話をしてくれてる。


だったら後は、それに報いる様な解答を見せなきゃね。



でも……ありがとう。

こんな自分勝手な私に、望むモノの全てを与えてくれるアナタは、私にとっては本当の神様です。


本当に、ありがとう。

貴方を好きに成れた事が、私にとっては最高の誇りです。


もぉ、感動し過ぎて、こんなチープな感謝の言葉しか脳裏を過ぎらないや。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


どんな人間であっても幸せに成る権利は持っている物。

それは、倉津君に全ての嫌事を丸投げした眞子であっても変わる事はなく。

当然、彼女も幸せに成っても問題はない。


ただ、此処で大事な事は、そうやって自分が幸せな環境に置いて貰えたのなら、それを独り占めするのではなく。

その感動や幸せを誰かにお裾分けでしてあげるぐらいの技量が無ければ『幸せにして貰う価値がない』って話ですね(笑)


さてさて、そんな幸せに包まれてる眞子なのですが。

此処をどう理解し、どう行動して行くのかが今後の課題。


次回は、その覚悟を語って行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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