989 眞子と静流さんの2人の時間

 美容室の上の階には『崇秀の自宅』が移転されていた。

そしてそこで、崇秀の母親である静流さんと出逢う事に成るのだが。

倉津真琴としてではなく、崇秀の彼女として彼女と対面した眞子は……


***


 そんな不安な思いを抱きながらも、結局は静流さんにお茶を淹れて頂いて、奥の部屋にある、ちょっと温度が高めのコタツで暖を取らせて貰っている。


でも、なんかね。

妙にそわそわして、全然気持ちが落ち着かないんだよね。


これが以前までならね。

崇秀のお母さんである静流さんは元々凄くフランクな人だから、よく馬鹿な話をしながら一緒に笑ってたりしたんだけどね。

今は、その時の置かれている心理状態とは全然違う。

私が体裁を気にして、下手な事が、なにも言えない状況。

寧ろ、静流さんの性格を重々承知してる筈なのに、無駄なまでに目茶目茶緊張して、なにも言葉が出て来ない。


男と女や立場の違いだけで、これ程までにプレッシャーの感じ方が変わっちゃうもんなんだね。


まぁ、ズッと、そう言う気持ちが抜けなかったので、中々静流さんの顔を見れずに下を向いて俯きながら崇秀の帰りを待ってた。


……けどね。

ある瞬間に、この張り詰めた空間は打破される。


それは私が……ふっと顔を上げた瞬間の話。

顔を上げると同時に、私は静流さんと眼が合ってしまう。


でも、その時の静流さんは凄く愉しそうにニコニコしながら、私の方を見てたんだよね。


なんだろうね?



そう思った瞬間が、この状況が打破された瞬間だった。



「ハァ……、良かったぁ。漸く顔を上げてくれたわね。なんでズッと俯いてたの?」

「あっ、あっ、あの、すみません。折角お邪魔させて頂いてるのに。こんなんじゃ、なんか陰気臭いですよね」

「あぁ、良いのよ。そこは別に気にしなくて良いのよ。ただ単に私が、眞子ちゃんの顔を見たくて、そう言っただけの事なんだから」

「えっ?あの……私の顔を……ですか?あの、ひょっとして、顔になんか付いてますか?」


もしそうだとしたら、もぉ最悪の極みだよぉ。

入り口では、私がショウモナイ事を言ってしまった為にイキナリ笑われるわ。

俯いてた顔を上げたと思ったら顔になんか付いてて、それすらも気付いてない様な無様な女と思われたら、果てしなく最高に心象悪い女じゃん。


あぁもぉどうしよぉ~~……これ、どうしたら良いの?



「プッ!!違うわよ。そうじゃなくてね。崇秀の彼女の顔を、もっとジックリ確認したかったのよ」

「彼女の顔ですか?……あぁ……すみません。なんか、あんまり大した顔じゃなくて、すみません。ご期待に添えてませんね」

「プッ!!……この子、本当に面白い子ね。こんなに可愛い顔をしてるのに……それに『ご期待に添えません』って……ぷぷぷっ、変な子」

「ハァ……なんかもぉ重ね重ねすみません」


トドメは変な子ですかぁ……

全部が全部、ヤナ印象しか持って貰えてないなぁ。

彼女の立場なのに、なに1つとして静流さんに良い印象を持って貰えない女なんて、どうなのよ?


これじゃあ、全部が全部、なにもかもがダメダメじゃん。



「ふふっ、ねぇ眞子ちゃん。さっきから、一体なにを謝ってるの」

「はぁ、まぁ、なんとなく、自分の不甲斐無さにですかね」

「ぷぷっ、本当に変な子ね。……じゃあねぇ眞子ちゃん」

「はい」

「そんな面白い位、自分に自信の無い眞子ちゃんには、1つ取って置きの良い事を教えてあげようか」

「あぁ、はい。なんでしょうか?是非教えて下さい」


この状況下で、静流さんの取って置きの良い話?


それってひょっとして、話の流れから言って、美白とか、若さの秘訣とかの話かなぁ?

美容師なだけあって、静流さんってホント綺麗な女性だもんね。


それを、自信なさげにしている私に伝授してくれ様としてるのかなぁ?



「実はね。此処だけの話なんだけど、ウチの馬鹿息子が、自分の彼女を家に連れて来るなんて事は初めての事なのよ」


えっ……なんの話かと思えば、此処で崇秀の話なんですか?


しかも、それって衝撃の事実ですよ!!



「えっ?崇秀……あぁいえ、崇秀君って凄くモテるから、彼女なんて、幾らでも家に連れて来てるんじゃないんですか?」

「ふふっ、それがね、あの子。何度、私が彼女を連れて来いって言っても『また今度な』って言って、頑なまでに彼女を家に連れて来なかったのよ。それを自分から、彼女を家に連れて来るなんて、あの子、相当、眞子ちゃんに参っちゃってるんでしょうね」


えっ?


そんな筈……ないですよ。

それだけは、絶対に無いですね。


……それにですね。

崇秀の事だから、毎回毎回違う、何人もの彼女を家に連れて来てて。

静流さんに『前の子は、どうしたの?』って聞かれたら、崇秀が『あぁ、アイツなぁ。アイツなら、もぉ飽きたから別れた』っとか答えてるんだと思ってました。


崇秀って、意外と真面目路線なんだね。



「あぁ、でも、それは絶対に無いと思いますよ。私なんかじゃ、本来、崇秀君の彼女には、全然相応しい女じゃないですから」

「そうでもないわよ。あの馬鹿息子。偶に家に帰って来たと思ったら、いつも貴女の事ばかり話してベタ褒めしてるもの」

「えっ?私なんかをですか?……あの……崇秀君がですか?」


嘘だぁ。

崇秀に比べたら、私なんて、何所も褒める所なんかないじゃん。

さっきのGUILDが計画している話にしても、驚くばっかりで、なに1つ話に付いて行けてなかったし。

実際の所はですね。

先程学校では真琴ちゃんに偉そうな事を言ってた割に、真実を突き詰めたら、所詮は、こんな情け無い限りの『張子の虎』女なんですよ。


ハァ~~~……もぉなんか、こんな自分が心底嫌になるよ。



「そぉそぉ。あの子ね。眞子ちゃんの話になったら凄く熱弁するのよ。『お袋聞いてくれよ!!眞子の奴、凄ぇんだよ』とか『アイツ程のダイヤの原石は見た事がねぇ。馬鹿津以来だ』とかね」

「崇秀が……あぁいえ、崇秀君が、本当に、そう言ってくれてるんですか?」

「そうよ。本当に、いつも楽しそうに話してるわよ」


そうなんだぁ。

そんなに私の事を、静流さんの報告してくれてたんだぁ。

だったら、此処までハッキリ言って貰えたって事は、少しぐらいなら崇秀にも満足して貰えてるのかな?


もしそれが現実ならば、凄く嬉しいんだけどね。



「……本当ですか?」

「本当よ。此処で嘘を言ってどうするのよ。……それにね、眞子ちゃん。私、母親としては情け無い話なんだけど。今まで、あの子の、あんな生き生きとした顔を見た事がなかったのよ。……だから貴女には、凄く感謝してるのよ。あんな変わり者の子と仲良くしてくれて、ありがとうね」

「えっ?えっ?そんなそんな!!とんでもないですよ!!私の方こそ、崇秀君には感謝の念が尽きない位ですよ。……あの、それにですね。崇秀君は、いつもみんなの為に、誰よりも一生懸命頑張ってくれてて、いつも誰よりも生き生きしてますよ」

「そぉ?……でもほら、あの子って、上辺じゃあ、そう言う風に装ってるけど、実際は、何所か、人に対して冷めてるでしょ。でも、あの子が、アナタに逢えてからは、凄く良い影響を及ぼして貰ってる。……なんて言ったって、今までのあの子にとっては、眞子ちゃんの親戚の倉津って子しか、本当の友達が居なかったからね」


そっかぁ。

崇秀は、眞子と言う存在である私だけに留まらず。

ズッと真琴ちゃんの事も、そこまで深く信頼してくれて気に掛けてくれてたんだね。


だったらなんで、もっと早く、それに気付いてあげられなかったんだろう。


いつも私は、そんな崇秀に我儘ばっかり言ってただけなのに……


今日は、なんだか情け無い事バッカリだね……


情けなくて、涙が出てくるよ……



あっ……本当に出ちゃった……(TωT)ブワッ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


例え同じ人間であっても立場の違いによって、心境の変化と言うものがあるもんですね。


まぁ特に眞子は、崇秀が大好きなので、少しでも静流さんに良い印象を持って貰おうと思う意識が先行し過ぎて、普段通りには出来なかったみたいです(笑)


さてさて、そんな中。

静流さんの語る言葉の中から、眞子である自分も、倉津真琴と言う存在も、崇秀にとっては大事な存在である事を今まで以上に認識してしまった様なのですが。

果たして、此処からどう言う展開になるのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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