988 静流さん

 オープン前の美容室で『初めてのお客さん』として、崇秀に髪を整えて貰った眞子。

そして、その後、店の二階部分に当たら場所に移動して行くのだが……


***


「あり?なにこれ?店の二階が普通の家って、どういう事?」


はい?

なんじゃね、これは?


崇秀が二階の扉を開けるまでは、凄く警戒していたんだけど、その扉の奥にあった物は、極々普通の一般家庭の玄関。


いやまぁ、見た感じ。

ビルの二階部分を完全にぶち抜いて作ってる様な造りっぽいから、凄い事は凄いんだろうけど……なんか、ちょっと拍子抜けな感じだね。



「いや、どういう事も、こう言う事も。俺の実家を、此処に移転させただけだから、普通の家に決まってんじゃんかよ」

「えっ?崇秀ってば、此処のビルの二階に引越しちゃったの?」

「あぁ、1週間ほど前にな。前の家を引き払って、コッチに引っ越したなぁ」

「えっ?えっ?じゃあ、静流さんは?」

「お袋か?お袋なら、ちゃんと此処に居るぞ」


えっ?静流さんまでもう居るんだ。

ってか、こんな簡単に引っ越しを決断するなんて、静流さん前の家の思い出とか……無しの方向で良いの?


なんか豪くアッサリしてない?



「えっ?」

「オイオイ、今度は、なにが『えっ?』なんだよ?」

「いや、だって、あれじゃなかったっけ。崇秀のお母さんの静流さんって、前の家に拘りとかなかったっけ?」

「まぁ、そりゃあ、元はと言えば親父と暮らしてた家だからな。多少の思い出ぐらいなら有るには有っただろうな」

「だよねぇ」

「……でも、ほれ、良く考えてみろって。ウチのお袋『超』が付く程のドケチじゃん。だからな。『思い出なんかの為に、家賃が払えるか』って言って、アッサリ引っ越しを了承したぞ」


マジで……


女の人って、結構、そう言う思い出的な事には拘る人が多いのにね。

それをアッサリ、家賃なんかで帳消しにしちゃうなんて……流石、崇秀のお母さんだよ。


親子揃って合理的かつ、かなりフッ飛んでるね。



「うわっ!!男らしいね。静流さんのあの見た目からは、絶対に想像も付かない様な男らしさだね」

「まぁなぁ。ウチのお袋は猫かぶりが上手いからな。……って訳なんで。なんなら、その噂のお袋を呼んでやろうか?」

「えっ?うわ、うわわ……ちょっと待って!!ちょっと待って!!お願いだから、そこだけは、ちょっと待って!!」


身嗜み!!身嗜み!!


静流さんに逢わなきゃいけないなら、せめて身嗜みTIMEプリーズ!!



「アホかオマエは?なにを今更、慌てて髪を弄ろうとしてやがんだよ。第一な、そんな風に髪を弄らなくても良い様に、さっきカットと、セットしてやったんだろが」

「あっ、そっか……あぁ、じゃなくて!!じゃなくて!!そうじゃなくて!!心の準備が……ねぇ」

「オイオイ、それ……なんの準備だよ?コイツ訳わかんねぇよ。……お~~~い、お袋帰ったぞ」


ちょ!!ちょっと待ってよぉ~~~!!

そうやって、さっき髪のセットはちゃんとしてくれたかもしれないけど、全体的にもっとちゃんとしないと心象が悪いって!!

こう言った場合の女性は、些細な所まで見る傾向があるから、そんな単純な話じゃないんだってば!!

特に『彼女』って立場の人間を見る時は、その数倍鋭くなるもんなんだからさ。



「あぁ崇秀。お帰り」


……っと、思っていたのに、早々に静流さんから反応が返ってきちゃったよぉ。



「おぅ、ただいま。……あぁそうだ、そうだ、お袋。今日は彼女連れてきたからよぉ、逢ってやってくれよ」


ブッ!!

なんで君は、そうやって私が困る様な事を平然とするのかね?


そんな余計な事は言わんで宜しい!!

なにも言わずに、コソッと自分の部屋に連れて行ってくれれば良いのにさぁ!!


意地悪か!!


あぁでも、それはそれで静流さんの心象が悪いかぁ。


ぐぬぬぬぬ……なんと言う難題を。



「崇秀が彼女?……ふ~~~ん、そりゃあまた珍しい事もあったもんだね。じゃあ、今ソッチに行くから、ちょっと待ってな。……よっこいしょっと」

「オイ、お袋。その『よっこいしょ』は、いつもヤメロつってんだろ」

「うるさい糞ガキだねぇ。私も年には勝てないの」

「ババァめ」


ババァなんて言っちゃダメだよ。

あんな綺麗なお母さん捕まえて、なんて事を言うのよ。


……崇秀と静流さんは、そんな口喧嘩をしながらも、静流さんは悠然と廊下を渡ってコッチにやって来てしまった。


うわ~~~っ、相変わらず綺麗な人だなぁ。

今年31歳に成ったとは、とても思えない若さだ。



「うん?この子が崇秀の彼女なの?」

「まぁな。……あぁ眞子。これが、俺のお袋な」

「あっ、あの、あの、はっ、はっ、初めまして、むっ、むっ、むっ、向井眞子と申します。あの、その……」


ふえ~~~ん!!

静流さんとは初対面って訳でもないのにさぁ。

何故か緊張し捲って、上手く言葉が紡げないよぉ!!


なんじゃね、これは?



「なに緊張してんだオマエは?馬鹿じゃねぇの」

「そっ、そりゃあ緊張するよぉ。……崇秀のお母さんなんだから」

「なんだかなぁ?……なぁ、お袋、コイツ、眞子な。ほんで本当の両親が、去年交通事故で亡くなって、もぉ居ないから、ウチでも可愛がってやってくれな」

「あぁそうなの。そりゃあ大変だったね。……じゃあ眞子ちゃん。この馬鹿息子の要望通り、ウチの子に成ったつもりで居なさい。馬鹿息子の彼女なら、私の娘同然だからね」

「だってよ、眞子」

「えっ?」


なっ、なに?

なに、この予想もしなかった様な展開は……なにが起きてるの?


私が、静流さんの娘に?



「……にしても崇秀。可愛い子を見つけたわね。アンタって、ホント瑛吾さんとソックリで面食いなのね」

「オイ、お袋。なにドサクサ紛れに、自己主張の激しいナルシストな発言をしてやがんだよ。31歳のババァのクセに」

「崇秀。……アンタ、どうやらまた寝てる間に丸坊主にして欲しいらしいわね?今度は、序に眉毛も全部剃ってあげようか?」

「イラネェつぅの。……つぅか、餓鬼の時みたいにマジでやんなよ」

「じゃあ、直ぐに『ババァ』って言葉は訂正しなさい。じゃないとアンタ、明日から、外で風が吹く度に頭を気にしなきゃいけないカツラ生活する事になるわよ。言って置くけどマジでやるわよ」

「最悪だな。このヨッコイショババァだけは」

「なんか言った?」

「いいや、なんも言ってねぇよ。……ウワ~~~イ!!俺ノ、オ母様最高ォ~~!!全然ばばぁジャネェシ!!(棒読み)」

「解れば、宜しい」


えぇ~~~、それで良いんだ!!

あんな、誠意も何もない様な心の篭ってない謝罪でOKなんだ!!


あぁでも、これが親子ってもんなのかな。



「……って言うかよぉ、お袋。お袋の自意識過剰な自己アピールは、もぉ十分な程に堪能したからよ。さっさと家に上がらせろ。此処、玄関口だから寒ぃんだよ」

「あぁそれなら、風呂が沸いてるから、先に入って来れば。その間、眞子ちゃんの面倒は、私が見て置いてあげるから」

「あっそ。じゃあ、そうするわ」

「えっ?あっ、あの……」


えぇ~~~!!もぉこれ以上ハードル上げないでよ!!


今の状況で、私になにを話せって言う訳?


どんな高い要求よ!!


……そりゃあ確かにさぁ。

静流さんとは、本当に初めて逢う人じゃないし。

真琴ちゃんの頃からズッと可愛がって貰ってた人だから、真琴ちゃんであるならば無駄なぐらいにベラベラ喋っていたかもしれないけど。


今は……ねぇ。

なんて言いますか、此処に彼女として来させて貰ってる以上、変な事を口走っちゃって、おかしな子だって思われるのも嫌だしなぁ。


そうなると、自動的に静流さんと2人きりで話す内容なんてなにもないんですよ。



「じゃあ眞子。悪ぃけどよぉ。ちょっと、お袋の相手しておいてくれな。体が冷えて、どうにも調子が良くねぇみたいだからな」


えっ?……体調悪いの?


私は、崇秀のその言葉が、妙に気になってジッと崇秀を見ていた。



「崇秀……」

「ほらほら、馬鹿息子は放って置いても良いから、遠慮せずに中に入りなさい」

「そぉそぉ。俺の事なんぞ放って置いても良いからよ。さっさと中に入れよ」

「あの、でも……体……」

「なぁ~~に、心配しなくてもよぉ。お袋は、オマエを取って食やしねぇよ」


そう言いながら崇秀は、私の頭を撫でて、いつもの様にササッとセットしてくれる。


ただ、いつもより少し長い時間を掛けて。


ナンだカンだ言っても、こうやって、私が崇秀を心配してる事に対しても。

いつも、さり気なく気を遣って、心のフォローをしてくれるんだよね。


……って事なんで、もぉ、こりゃあダメですね。


諦めも肝心ですね。



「あっ、あの、そっ、それじゃあ、少しお邪魔させて頂きますね」

「どうぞ。今、温かいお茶を用意してあげるから、この先の部屋で待ってて」

「あぁ、お構いなく。私なんて水道水で十分ですから」

「プッ!!なにそれ?……聞きしに勝る、変な子ね」


あぁダメだ。

早速テンパって変な事を言ったから……もぉ早くも笑われちゃったよ。

折角、崇秀が、静流さんと私が話し易い様に下準備をしてくれたって言うのに、ファーストインプレッションは最悪だ。


やっぱり、誰か助けて下さい……こんなの1人じゃ到底無理な話だよ。

(´;ω;`)ブワッ


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです<(_ _)>


物語中、ずっと噂話程度には出て来ていた崇秀の母親である静流さん。

988話にして、とうとう、そのベールを脱いだのですが……やっぱり、崇秀を育ててるだけの事はあって、気風の良いお母さんでしたね(笑)


俗に言う『この親にして、この子有り』って感じでしょうか(笑)


あっ、これは余談なのですが。

今回のお話の中で『倉津君が、静流さんとはベラベラ喋っていた』っと言う逸話があったと思うのですが。

実はこれには裏話がありまして。

当時の倉津君は、あまり女性と接する機会がない様な人生を送っていましたので。

静流さんが崇秀の母親だと解りつつも『美人なお姉さんと話をしてる様な感覚』で静流さんと滅茶苦茶話をしようとしてただけの話だったりします。

……っで、こう言う下積みな部分があったので『変に美人慣れしてる所があり』

出合う女性が美人であっても、焦ったり、ドモったりはするものの、ちゃんと話が出来ていた……なんて設定があったりします(笑)


さてさて、そんな中。

崇秀が風呂に行ってしまったので、眞子は静流さんと2人きりの時間を過ごす事に成ったのですが。

眞子は一体、どんな話で、この場を切り抜けようとするのか?


次回はその辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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