第14話 親衛隊の皆さんはメイドの格好をしている
オルスラの説明を聞いた俺の感想は、こうだ。
ふざけんなよジギスムント! 詐欺じゃねぇか!!!
何が簡単な仕事だ! 酷い男の影武者に仕立て上げてくれたもんだな。なんだよ『暴虐皇子』って。なんだよ帝位継承戦争って。ふざけるな。二〇〇人以上いる兄弟姉妹から命を狙われているって?
だから、「決して恨むな」というルールをつけ加えたのか!? 弟君があれこれジギスムントの悪口を言っていた理由がわかったよ! 最悪だお前。次会ったらまた殴ってやる。今度はマジで体重をのせて殴るぜ。今の身体は、お前と同じ位に頑丈なんだぜ。高長身細マッチョだ。
いやはや、くそっ。
「ふぅー……」
落ち着こう。まったく落ち着ける気分じゃなかったが、全身全霊で落ち着こう。疑問だらけだが、簡単なものから解消していこうじゃないか。荒れ狂う感情はいつか振るうであろう全力の拳に込めようじゃないか。
「一応、確認しておきたいことがある。一応、一応な」
「は、殿下」
「君、結構よく喋るんだね。あと、結構いい性格してるね」
お人形みたいに整った顔で、冷静沈着そのものみたいなポーカーフェイスを浮かべている癖に、滅茶苦茶喋ってくれた。それに、大分主君への毒が混じっていたような気がするぜ。ダークホースとか自業自得とか、普通上司に言わないだろ。しかも俺、『暴虐皇子』なんだろ? 肝が座っているというべきなんだろうか。
「仰せのとおり、小官の性格はよろしくあります」
オルスラは無表情を保ったまま首を傾げた。
だからそういう意味じゃねぇよ。さてはこの美少女、天然だな?
「あと、第一印象とはなんのことでしょうか」
おっと、マズイ。
親衛隊長というからには、それなりにジギスムント(本物)と付き合いがあるに違いない。付き合いが長い人間同士の日常会話で「第一印象」は出てこない気がする。病室暮らしだった俺にはよく分からないが、多分そうだろう。
「おっほん!」
精一杯威厳に満ちた咳払いをして、本当になんとかしたい方の疑問を解消すべく口を開く。
「親衛隊の人間を何人か連れこい。話を聞きたい」
オルスラは丁寧に頭を下げて「失礼します」退出する。部屋の外が若干騒がしくなる。直ぐにノックが聞こえた。オルスラの後ろにみっつの人影がついてきて、ベッド脇に等間隔で直立不動した。
不思議なことに、全員が若い女だった。
しかも、全員美人だった。その服はひらひらの白と黒。
しっかし、まぁ。俺は「親衛隊の人間を連れてこい」と言ったつもりだったんだが……、何故女給を連れてきた?
さてはオルスラ、かなりのお茶目さんだな? まあいい、聞けばはっきりする。何故か、はっきりさせない方がいいんじゃないかという予感があるが――、
ええい、ままよ。
オルスラの隣に立つ背の高い女給に尋ねる。
「青髪の君、聞きたいことがあるのだが」
「は、は、は、はいいいははいあはいい! あいいいはい!!! は!!」
青髪の女給は壊れたお喋り人形のようにワケのわからないことを叫んだかと思うと、そのまま崩れ落ちた。気を失ったらしい。しょうがないな。次の人に尋ねてみよう。
「緑髪の君」
「…………」
「おーい、緑髪の君」
「…………」
「聞こえているか?」
「申し訳ございません、殿下。ご容赦ください」
オルスラが申し訳なさそうに答えた。緑髪の女給は、立ったまま気絶しているのだった。しょうがないな。次の人に尋ねてみよう。
「……黒髪の君」
「は、はい」
「俺が怖いのかな?」
「はい! いえ、いえ口が滑りました本心ではございません申し訳ござ……」
やはり、彼女も気を失って倒れた。俺が声をかけるだけで失神する人間が三人。しかも全員が美女だ。美女が気絶する様を見て何か新しい扉を開いてしまいそうな気がしたけれど、これは無視したい。それに、他に気になることがあった。
繰り返すが、俺は「親衛隊の人間を連れてこい」と言った筈だ。奇妙だな。それで女給が出てくるか? いやいや……。
「オルスラ、ちょっと尋ねたいのだが」
「はい、殿下」
「俺が、いや余が『暴虐皇子』であることは改めてよく理解したとも。声を掛けるだけで相手を失神させられるのだから、さぞ恐れられているのだろう」
むしろ、何らかの超能力者であってもおかしくないぜ。まぁ、なんでもいい。超能力者であってもまったく困らないからね。問題は、問題は、だ。
「否定して欲しいんだが、この女性たちが親衛隊なのかな?」
「申し訳ありません」
お! やはり何かの冗談だったか!
という俺の期待は――、
「小官の鍛え方が足りませんでした。大恩ある殿下に対しこのような態度をとるなど、決して許せることではありません」
直ぐに裏切られた。
親衛隊として不適格って意味で言ったんじゃないんだけど。
「……無作為に選んだ親衛隊の人員が、何故全員若い女なのかな? しかも、女給姿なのかな?」
「殿下のお考え、小官ごときにはとても推し量れるものでは。なお、我ら親衛隊に男はおりまん」
「俺が……、いや、余が親衛隊の人選をし……、たのかな? いや、したんだったな?」
恐る恐る尋ねてみる。オルスラは整った顔を縦に振った。最悪だぜ。恨むぞ、ジギスムント。最悪の男じゃねぇか。俺が生きていた時代、それほど素直に男の欲望を追求するやつはいないぜ。
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