第21話 パパ、平和な日常を過ごす
「それじゃみんな手を合わせて、頂きます」
「「「「いただきます!」」」」
「……ますっ」
「はい。お召し上がりください」
奴隷の子供達を買い取ってから半年が経とうとしていた。
当初は家を購入して一緒に住もうと考えていたが、その意向をジュリエッティさんに伝えたところ気を遣う必要はないからこの屋敷で面倒を見なさいと言ってくれた。
正直甘い話だとは思う。
俺のエゴで子供達を買い取ったくせに、結局は世話になるしかない。後先を考えていなかったと言われればそうかもしれない。
ただ、この半年間この子達と暮らしてみてわかった。
あの時この子達を買ったことは間違いじゃなかったと。
「あ、それミレイが食べようと思ってたのに! なんでライトが食べてるの!?」
奴隷になったとき、名前は無くなる。
そのため、俺がみんなに名前をつけてあげた。一応ご主人様という立場らしいからな。
一番年長の女の子には美しく正しくあってほしいという願いを込めて
「いいじゃねぇか。食うのが遅ぇのが悪ぃんだよ」
奴隷商で会った時に一番俺と話をしてくれた男の子には、どこまでも高く、速く、遠くに羽ばたいていってほしいという願いを込めて
「ジュノン、にんじんもちゃんと食べなきゃダメだよ?」
「イヤっ!」
まだ幼い男の子には、優しく真っ直ぐ自分が信じた道を進んでほしいという願いを込めて
「ジュノン! イヤイヤはメッだよ!」
優真と同じくらいの年齢の女の子には、明るく元気で周囲の人も笑顔にして欲しいという願いを込めて
「シロウ様、レミ様のお食事も準備が出来ました」
「ありがとうございます、ロドスさん。それじゃ、レミにも昼食を届けてくるからみんなは行儀良くね」
ロドスさんからご飯が乗ったお盆を受け取り、もう一人が待つ部屋を目指して歩き出す。
俺が購入した子供の奴隷は五人。
あと一人は、ミレイの妹だ。
静寂に包まれた廊下進み、目的の部屋を目指す。半年経っても気温はあまり変わらない。どうやらこの国に四季は無いらしい。
「レミ、起きてるかい?」
「はい。起きています」
目的の部屋のドアを二回ノックし応答を待つ。返ってきた声色からは、体調が優れていることが伺えた。
「休んでる時にごめんね。昼食を持ってきたよ」
「いつも申し訳ございません。私なんかのために……」
俺が買った子供の奴隷の最後の一人。
「レミ、私なんかは言わない約束だったでしょ?」
「そうですけど……奴隷なのにお役に立つどころかお世話になってばかりですので……」
「いいんだよ。俺はレミが生きて元気になってくれるだけでいいんだ。ほら、一緒に晩御飯を食べよう」
「……はい」
レミは奴隷商から買い取った時点で既に体調が悪かった。
だからというわけではないが、子供達を買い取ってから一番最初にしたことは医者の診察だ。みんながちゃんと健康がどうかを調べることを最優先にするべきだと考えた。
レミ以外の子供達は、少し栄養が足りていないけど問題ないという診断結果だった。この半年で健康的な生活を続けているので、既に体調も回復している頃だろう。
ただ、レミだけは違った。
蓄魔症。
この世界に来たばかりの頃はよくわからなかったが、世界には魔力という物質が存在していて、悪い魔力を体内に溜め込んでしまうという病気らしい。
ナルビィさんに問い合わせてもみたが、現状の俺のスキルレベルでは解決することが出来ないと言われてしまった。
森羅マーケットで手に入れられるのは市販の風邪薬とかその程度の物だけだ。魔力なんて意味不明な物が起因となる病気に効く薬は売っていないか。
ちなみにこの病気、治療法が未だに判明していないらしい。何が原因で体調を崩しているかもわからないという話だ。
ただ、だからといって希望が無いわけではない。この病気は大人になるにつれて自然と改善されることもあるらしいので、今は安静にして健康的な生活を送るのが一番の薬になるらしい。
安心してくれレミ。栄養に関しては森羅マーケットの全てのポテンシャルを引き出してカバーするから。
感染するかどうかも判明していないため他の子供達との接触も避けた方がいいとのことだが、すぐに良くなってみんなと一緒に食卓を囲める日が来るさ。
「「ご馳走様でした」」
「今日のご飯も美味しかったです!」
「ロドスさんに感謝だね」
「はい!」
ほらね。こんなにも元気なんだから。
「それじゃ、食器を片付けてくるよ」
「ありがとうございます! その……」
レミは両手の人差し指をツンツンとしながら何かを言おうとしている。
「また後で来るから、その時にたくさんお話をしよう」
「……はい!」
レミは部屋から出れないから、基本的に俺かロドスさん、ジュリエッティさんが時間を作って会いに来ている。その時に色々な話をするが、その中でも森羅マーケットで仕入れた日本のファンタジー小説の読み聞かせが一番好きらしい。
ファンタジーな世界でフィクションのファンタジーの話を聞かせるというのも、不思議な話ではあるがな。
二人分の食器を持って食堂へと戻る。
子供達も既に食事を終えているようで、食堂に人の姿は見当たらなかったがキッチンの方から洗い物をしている音が聞こえた。ロドスさんが昼食の片付けをしているようだ。
「すみませんロドスさん、片付け手伝います」
「いえいえ、片付けは私の方で行いますので、シロウ様は庭で子供達とのお時間をお過ごしください」
ご飯を食べてすぐに庭で遊び始めるとは……流石は子供だ。
「すみません、それではお言葉に甘えさせていただきます」
「はい。いってらっしゃませ」
キッチンを出て子供達がいる庭へと向かうと、そこには元気に走り回る子供達に混じってはしゃいでいる大人の子供がいた。
「やーい! グレイドンが鬼だー!」
「逃げろ〜!」
「待てよガキ共ォ!! 捕まえたらただじゃおかねぇぞ!!」
ユーマとマイを追う男、グレイドン。ジュリエッティさんに絶賛片思い中の乙女な男だ。この場合ジュリエッティさんが乙女になるのか、グレイドンが乙女になるのか。漢気は……ジュリエッティさんの方が……イヤイヤ、良くないな。
ちなみにジュノンが俺とジュリエッティさんの子供だという誤解も、俺とジュリエッティさんが結婚しているという誤解も既に解けている。
「いいジュノン、右足、左足を交互によ!」
「あいー!」
「まだ歩けるわけねぇだろ」
「なんでそういうこと言うのよ! もしかしたら出来るかもしれないじゃん!」
ミレイとライトはジュノンの世話をしてくれている。ミレイが積極的にジュノンの歩行の練習を手伝っているが、ライトはそれを茶化しているようだ。
確かにジュノンが歩くのにはまだ早いかもしれない。最近掴まり立ちを覚えたばかりだしな。
ただ、ミレイがやる気になっているのでわざわざ水を刺す必要もない。ジュノンも嫌がっているわけではなさそうだしな。
というかジュノン、俺の経験を超える速度で成長をしている気がする……
まだ自分から話せるわけではないが、俺たちが声をかけると内容を理解しているのでは?と思える節が多々あるのだ。
そろそろ年齢的には一歳になる頃だと思うけど、そのくらいの歳でこんなにも話が通じただろうか……せいぜい面白いとか嬉しいとか痛いとかその程度だったような気がするけど……
まぁ子供によって成長速度は様々だ。育児のマニュアルはその子と向き合って初めて専用の物が出来上がっていく。あまり気にするようなことでもないだ——
「ね……ねぇねぇ!! 見て見て!! 歩いた!! 歩いたよジュノン!!」
「おーやるじゃん」
うぉぉおぉぉぉぉぉおおおお!? 歩いただと!?
……魔族の成長速度って、人間と同じだよね?
何でも買えるスキル「森羅マーケット」で、魔王の娘を育てます いくつになっても中二病 @ikutsudemochu2
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