コレが本当の愛の告白っ・・・だ!!

安藤 龍之介

第1話


『コレが本当の愛の告白・・・だっ!』

短編小説。


「愛・love・ユー」

  by 安藤龍之介



「私、石宝君の事が好きです。

付き合って下さい!」


夕暮れ時の誰も居なくなった放課後の教室で、

学内美女ランキング一位ともっぱらの噂になっている、

水川彩華みずかわあやかは、

同じクラスの石宝渡せきほうわたるに愛の告白をした。

因みに、石宝渡の学内美男ランキングは・・・39位である。(サンキュー!!)


告白を聞いた、石宝は目を静かに閉じ、

「・・・。」

口を一文字に固く閉ざして沈黙した。

彼は何か深く考え込むんでいる様子であった。

「石宝君・・・どうかな?」

彼からの返事が無い事にしびれを切らした水川さんは、

『上目遣い』と『猫なで声』という、

モテる恋愛テクニックを駆使くしして告白の返事を促した。

「ごめんなさい、水川さん、僕には好きな人がいます。

だから、水川さんと付き合う訳にはいきません。」

堅牢けんろうな物言いと、石のような静かな硬い表情で、

水川さんの告白を断った。


「そっか、そっか、そうだよね。

ははは、ごめんね、石宝君。

私、石宝君に好きな人が居るって、

何となく知ってたんだ・・・うん、分かってた。」

泣き出しそうな涙を寸前で我慢して、

水川は無理に笑顔を作りながら、早口で喋り続ける。

「好きな人って、やっぱり、

石宝君の幼馴染っていう、佐伯さんでしょう。」

崩壊しそう涙腺を、どうにか抑えて、

美女ランキング一位であるプライドと勝気と根性で、

彼と会話を続ける。


「えっ、佐伯って・・・あずさのこと。」

「うん、石宝君、佐伯さんと親しく話しているでしょう。

毎日・・・学校で。」

「親しくか・・・。」

「違うの?」

「ごめん、違うかな。」

幼馴染が好きだと誤解されていた事に、

石宝は驚き、つい顔が半笑いになってしまう。

「水川さん、僕はあずさに対して、

恋愛感情なんか一切あらへんよ。

あずさは、ほんまもんの幼馴染で、マジもんの幼馴染なんだよ。

何で水川さんが、そないな風に思ったのか、

僕には、正直、よ~分からへんわ。」

石宝と返事をした。(所々、関西訛り。)

「そ、そうなんだ・・・。」

予想が外れた事と、突然の関西弁の喋り方に、

水川さんは、戸惑いを隠す事が出来なかった。


「でも、石宝君、『僕には好きな人が居る。』って言ったよね。

だったら、石宝君の好きな人は誰なの?」

水川は、相手に媚びるような恋愛テクニックをすべて捨てて、

素直に思った事を口にした。

「ふふ・・・そんなの決まっているじゃないですか。」

と、石宝君は毅然きぜんとした態度で言った。

そして、彼の瞳はダイヤモンドのようにキラキラと輝いていた。

そんな彼の姿に、水川の内面は動揺していた。

(その人の事が、そんなに好きなんだ・・・。)

彼をそこまで夢中にさせてしまう思い人が居る事を知った、

彼女の心は、待ち針が刺さったようにチクチクといたんだ。


「その人の事、すごく好きなんだね。」

「ああ、心の底から愛している。」

「そ・・・そうなんだ。(泣)

ち、ちなみに、なんだけど、

その方が誰なのか・・・教えて貰えたりしますか?」

「いいよ。」

(何で私、こんな事聞いているのかな。

聞いたところで、自分が傷つくだけなのに・・・。)

水川は自分に嫌悪感を抱き、

そして、悲しくなっていく。


石宝は告げる。

「僕が愛している、お方は・・・逢沢ハルカ様です。」

「・・・逢沢、ハルカ。」

(逢沢さんって、誰だろう?

そんな人、この学校に居たのかな?

・・・いや、待って⁉)

「えっ、様⁉」

「そう、逢沢ハルカ様、アイドルグループの・・・」

「ア、アイドル⁉

えっ、ちょっ、ちょっと」

「アイドルグループ、『クリムゾン・ラブ』の『女帝』の愛称を持つ、

最強、最愛、最大の権力保持者で、

一代限りの永遠に変わる事が無い、

不動のセンター・・・その名も、

逢沢ハルカ様!!に決まっているでしょう。」

(・・・ちょっと、待って~~~~い、石宝!!!!!)

石宝の好きな人に関する、矢継ぎ早の新事実に混乱し、

脳内がショートしかかっていた。

「アイドル・・・女帝・・・権力保持者・・・

逢沢ハルカ・・・。」

「そう、逢沢ハルカ様!!」

「ふ、ふうぇ~~。」

水川は過剰なショック受け過ぎて、

人生で一度も発した事に無い『ふうぇ~~』なる、

謎の恥ずかしい声を出してしまうのであった。

「せ、石宝君・・・

アイドルオタクだったんだね。」

「いやいやいや、水川さん。

僕は『クリムゾン・ラブ』の、逢沢ハルカ様が好きであって、

アイドルオタクと、同じ枠組みにカテゴライズ(分類)されるのは、

ちょっと僕としては心外というか、その認識は間違っていると、

訂正ていせいさせて頂きたいと言いますか。」


(うるさいわ、ドルオタ!!)

数秒前まで、大大大好きだった石宝渡に対して、

水川はつい心の中で、彼を罵倒する言葉を吐くのであった。

「なに、石宝君は、そのアイドルグループの、

逢沢ハルカ・・・様が好きで、

その人は好きだから、私の告白を断ったという事で、

OKかな?」

現実を受け止められない、学内美女ランキング一位(堂々の一位!!)の、

水川は苦笑いを浮かべつつ、彼に不快を抱かれない、

ギリギリのラインの言葉づかいで、

事実確認を行った。

「水川さん・・・。

その認識で間違いありません!」

石宝は、キリっとした真剣な顔で肯定した。


「その逢沢ハルカ・・・様の、

石宝君は、何処に惚れたの?」

「逢沢ハルカ様の事、気になりますか?

分かります、分かります。

水川さんの気持ちは、よく分かりますよ。」

石宝君は嬉しそうにうなずく。

(聞かなければよかった・・・かも。)

水川は後悔する。

「あの、石宝君、やっぱり」

「逢沢ハルカ様の一番好きな所は、

やはり歌とダンスのパフォーマンスが、

異次元すぎるという事です!!

他のアイドル達の歌とダンスが、

子供のお遊戯に見えてしまう位に、

彼女はパフォーマンスは全てが卓越たくえつしているのです。

「私の歌を聞きなさい、庶民共!!」と、

彼女はステージ上で『女帝』らしい高圧的で傲慢ごうまんな発言をするのですが、その言葉遣いとは裏腹に、

彼女の声は、甘美で、麗しく、優しいエンジェル・ボイスの持ち主なのです。

しかし、優しい声だけじゃなく、曲によってはヘビーな声も出す事ができる、

音域の広さを持っているのです。

そして、ダンスは切れのある

プロのダンサー顔負けの実力を持っており、

彼女は、特にブレイクダンスを得意としておりまして・・・」

ここから、石宝の『愛の告白』は10、20、30分と続くのであった。

『愛』とは即ち・・・饒舌じょうぜつなのである。

『愛』なる気持ちや感情を語ろうと思えば、

「愛してる。」「I love you」だけでは、

全然、全く、一ミクロンも足りないのである。

「と、いう事で、僕は逢沢ハルカ様を、

心の底から愛しているのです!!

そう、これこそが『愛』・・・『愛』なのです!!!

『真実の愛』なのです!!!

水川さん、僕の気持ち、分かってくれますか!!!!」

石宝は前のめりになりながら、水川に尋ねる。

「ええ、あぁ、うん、石宝君。

私・・・よく分かりました。

『愛』って、こんなにも・・・『愛』なんだね。」

一歩後ろにがりながら、

彼にそう告げた。


-fin-


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コレが本当の愛の告白っ・・・だ!! 安藤 龍之介 @pumpkin123

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