第317話

 幸いなことに、帰り着いたのはダンジョン地上の入口。

 普段俺達が、ダンジョンでの冒険を終えると帰還する場所だった。

 そこでは、もうすでに時刻は日を跨いでいるにも関わらずレベッカさんが待ってくれていた。

 何かあった時、即座に行動を起こす必要があったからだろうが――同時に、レベッカさんは俺達を心配してくれていたんだろう。


 レベッカさんもまた、俺達の冒険を助けてくれた協力者だ。

 心配そうなレベッカさんに、ナフとヒーシャは安心してもらおうと必死に言葉を紡いでいた。


 それからは、色々と大変だった。

 まず、今回の件に協力してくれた下層の冒険者たちに礼を言って回る。

 なにせ、俺達は俺達の都合で彼らが狩り場にしている場所を封鎖したばかりか、彼らに協力を求めたのだから。


 とはいえ、下層を拠点にしている冒険者の多くはニシヨツの人間だ。

 最悪ニシヨツが壊滅していたかもしれないとなれば、文句を言う人間はいない。

 それに報酬だってギルドを通して出ている。

 むしろ、俺達のほうが感謝されてこそばゆかったくらいである。


 他にも、ドワーフ工房の店主に凱旋の報告をした。

 店主は言葉少なながらも、こちらを祝福してくれる。

 それは、単純に俺達の勝利を祝うという意味合いもあっただろうが、ナフのこともあるだろう。

 ナフは今回の戦いを生き延びて、レプラコンに向かうことを決めている。 

 そこで、冒険者と鍛冶師。

 二足の草鞋を履く生活をすることになるわけで。

 店主は、それを祝福しているようだった。


 ヒーシャの家には、俺とナフが招かれて皆でお祝いをした。

 魔神討伐兼母親の快気祝いだ。

 そして、喜ぶべきことはそれだけじゃない。

 父親が生きているかもしれないということは、ヒーシャの家族を驚かせるには十分なものだった。

 もしも本当に生きているとしたら、どれだけ喜ばしいことか。

 特に母親は、色々と思うところがあるのだろう。

 涙を流す姿も見られた。

 ただ、ヒーシャ本人は少し他人事だ。

 これには色々理由があるが、今は置いておこう。


 そして、魔神を倒したことで俺達の名前は一気に知られること――にはならなかった。

 そもそも魔神が複数いるという事自体、あまり世間に知られたい情報ではない。

 世間の反応が、恐怖に傾くか受け入れることに傾くかわからないからだ。

 それでも、愛子が魔神を討伐したという事実は広がるだろう。

 もしくは、愛子の存在そのものが……か。


 とはいえ、今の俺達には関係ない。

 魔神を倒し、日常に戻り。

 そして、日々は過ぎていく。


 そうしているうちに、その日はあっという間にやってきた。

 俺達は、魔神を倒せばニシヨツの街にいる理由がない。

 故に、レプラコンへ向かう。


 その旅立ちの日が――やってきたのだ。

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