第316話
そして、最後に。
タウラスは一言だけ言い残した。
「そうだ、いいことを教えてやろウ」
「……なんだ?」
「呪い子の父を探していると言ったナ。俺は――知らなイ」
「知らない?」
それは、違和感のある物言いだ。
「俺のダンジョンで死んだ人間のことヲ、俺のダンジョンは覚えていル」
「だが、覚えていないってことは、知らないということ……?」
「そうダ。だから――今頃、そいつの父親はどこで何をしているのだろうナ?」
タウラスの呪いを解呪するために冒険者を死ていた人間が、タウラスのダンジョンで死んでいない。
つまりそれが意味することは――
「――お父さんが、生きてる?」
話を聞いていたヒーシャが、そうこぼす。
タウラスは応えなかった。
「それくらいハ、お前たちで調べロ」
そう言って、
「あばヨ、人間」
タウラスは、消滅した。
――――――
沈黙が広がる。
俺達は、現実を少しの間認識できなかった。
勝ったのだ。
魔神タウラスに。
この場には、俺達しかいない。
そう、理解するのに。
幾分の時間がかかった。
「――終わった、んだよな」
「…………うん」
「た、多分そうじゃないかな、と思います」
なんて、やりとりをして。
顔を見合わせて。
お互いが、それはもう疲れ切った顔をしているのに気付いて。
「……はは、なんだその顔」
「つ、ツムラさんも人のこと言えませんよ」
「しょうがないって」
笑みを零した。
生きている。
生きて、勝利した。
魔神相手に。
いや、それだけではない。
あの謎エリアに放り込まれてから、俺達は常に何かと戦い続けてきた。
魔神だけではないのだ。
魔物だってそうだ。
ダンジョンすら牙を向いた。
それでも勝ち抜いて、勝ち抜いて、勝ちきった。
「ん……安心するのは、まだ早い」
「クロ、どうしたんだ?」
「空間、崩れる。ダンジョンのどこかに放り出される」
ああ、と納得する。
周囲の空間がぼやけている。
これが転移魔法陣と同じだとしたら、最悪ダンジョンのどこかに転移させられる可能性がある。
MPはほぼすっからかん、ここから戦闘は不可能だ。
もしも今の状態で下層のヤバイ魔物と出くわしたら少し危ないかも知れないな。
だが――
「問題ないよ」
「どうして?」
「俺達が頂点だからだ。このパーティなら、誰にだって負けないさ」
そう言って、宿木から顔を出したクロと、ヒーシャ、ナフを見る。
俺達はタウラスすら倒せたんだ。
今、俺達を越えられる奴はいない。
そういう確信でもって、俺は笑った。
「――帰ろう、みんな」
その呼びかけに、クロは、ヒーシャは、ナフは。
「……ん、理解った」
「は、はひっ!」
「そうだね、帰ろう!」
三者三様言葉を返し。
俺達は――帰還した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます