第315話
「――こうなるって、理解ってたよな」
「お前たちの余裕を見れば、解ル」
あの時。
俺がバフの乗った攻撃で、奴に致命的な一撃を与えた時。
確かに奴はまだ負けてはいなかった。
だが、魔神の器を守る殻を破壊され、魔力の解放を強めなくてはならなかった。
そうなった時点で、奴はこの世界に長くとどまることはできない。
結果、あの場面で奴は正面から俺を攻撃するしかなかった。
本来ならそれで問題はなかっただろう。
俺はヤツの攻撃に反応できないのだから、一方的に殺しておしまいだ。
だが、俺達は聖者の防陣の食いしばり効果をここまで使わずに温存できた。
そうなればどうなるか。
最後の攻防が始まった時点で勝敗は決していた。
それでもなお、タウラスは俺を攻撃することを選んだのだ。
「お前こソ、なぜ俺が逃げないと思っタ?」
逃げれば、降臨の機会こそ失うものの、またやり直すことができる。
ここまで俺達がやってきた努力は水の泡、振り出しに戻ってしまうだろう。
「……ヒーシャだ」
「誰ダ?」
「彼女だよ。お前が呪い子と呼んだ」
ヒーシャを指差す。
それを見てタウラスは納得したようだ。
「彼女が言ったんだ。どうしてタウラスは、愛子がいるとわかっているのに逃げないんだろうか、って」
それは、俺がレベル40になる直前の話。
ヒーシャが、タウラスのことを俺に話てくれた。
曰く、
「最初のダンジョンハザードを失敗した時点で、仕切り直せばよかっただろう、お前は」
「――そうだな」
何も、タウラスは今この場で降臨する必要はなかった。
愛子がいるのだから、それがいなくなるまで待てばよかったのだ。
特に、二回目の介入。
あの謎エリアに飛ばされなければ、俺達はタウラスのことを認識することはなかった。
それなのに、こいつはそうした。
「それは、お前が逃げないからだ。誰を前にしようと、何が起ころうと」
だから――今回も逃げないだろうと思った。
それだけのことだった。
「――ハ」」
それを、タウラスは。
「ハハハハハハハ!」
笑みで返した。
これまでの、挑発的な嘲りを含んだ笑みとは正反対の。
どこまでも、楽しげな笑みで。
「そうダ! 俺は逃げないイ! 何故なら――俺こそが頂点だからダ!」
手を広げ、自身を大きく見せながら叫んだ。
その体が崩れていく。
こうなっては、もうタウラスは姿を保てないだろう。
だが、それでも。
「見事だ愛子、――名を、名乗れ」
「……ツムラ」
「ああ、そうか」
消え去りながらも、どこまでも楽しそうなタウラスは、
「ツムラ! お前が倒したのは、この魔神タウラス! 頂点のタウラスダ!!」
そう、宣言した。
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