第314話
手応えはあった。
それまで何度か打撃を与えるたびに感じていた殻のようなものを打ち破った感覚が。
それは、魔神という中身を保つための器か。
もしくは魔神という存在を動かすための核か。
どちらにせよ、決定的な一撃だ。
「ハ」
拳を叩き込んだまま停止する。
一瞬にすら満たない刹那。
しかし、永遠にも思える一瞬。
俺たちは視線を交わした。
「ハハハハハハハハ!」
タウラスの笑み。
同時にやつは俺を蹴り飛ばしてくる。
不意打ちにすらなっていない一撃だ。
ガードの上からダメージが入ることはない。
俺はその一撃を利用して距離を取った。
それは単なる反撃だ。
だが同時に、奴の意思を明らかにするものでもある。
「まだダ!」
奴の言葉が、
「まだ、終わっていなイ!」
より明瞭になっている。
この後に及んで、まだそんな気力が残っているのか!?
「魔神には器があル。この世界に降臨する器ガ! お前はそれを破っただけダ!」
結果、やつはその殻の中から、魔力をさらに解放させたということか。
もちろん、そんな事をすれば奴だってただではすまないだろう。
だが、ここで俺に勝利すれば何も問題はない。
「そこまで卑劣だと、いっそすがすがしいな」
「抜かセ、俺は勝利のために降臨したのダ」
――勝利のため、か。
魔神タウラス。
狡猾にして悪辣の魔神。
その本質は、自分以外のすべてを信じず、自分こそがすべての頂点だと証明することに執着する存在だった。
勝つためなら何でもする、というのはまさしくやつのためにある言葉だろう。
「――消えロ、愛子」
これが、最後の攻防になる。
タウラスは、もはや攻防に時間を割く余裕すらないのだろう。
正面から、俺に突っ込んでくる。
解放された自身のスペックだけを頼りに。
それは、間違いなくこれまでの戦いで最速の一撃だった。
魔導解放を使った今ですら、回避が不可能な致命の一撃。
これをまともに喰らえば、死は免れない。
そんな一撃を、俺は――
――正面から受けた。
「――――」
「…………」
互いに、沈黙する。
今度こそ、その沈黙は永遠のように長かった。
俺とタウラスから、魔力を解放したことによって発生する光が消えていく。
笑みを浮かべたタウラスと、タウラスを睨む俺だけが残り――
否。
そこには、光があった。
俺達を囲むようにして展開された、結界。
聖者の防陣。
物陰から、フィーアが手をかざしてタウラスを睨んでいる。
防陣には、これまで使ってこなかった最後の効果があった。
HPが0になったとき、それを1にする。
食いしばり。
ナフのそれと同じ、一日一回だけ使える効果だ。
故に、俺はタウラスの攻撃を正面から受け。
同時に、タウラスは俺が攻撃を受ける前提で放った拳を受けて――
胸に、風穴を開けていた。
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