第313話

 タウラスという存在は、不気味だった。

 何を考えているかわからない。

 ヤツのパーソナリティがわからない。

 狡猾で、悪辣な、ただの敵。


 そう思うしかないのかと思っていたが、そうではなかったようだ。


「――フザケルナ!」


 タウラスが退きながら叫ぶ。

 状況は一気にこちら有利へ傾いた。

 タウラスは隆起の裏に隠れた二人を探さなくてはならない。

 魔法で一気に壊しているものの、半分くらいは俺が防げるし、戦いのさなかで俺は更に地面を掘り起こしていく。

 いたちごっこ。

 だが、こちらが優勢で進んでいるおかげで、攻める余地がある。


「何が、ふざけてるんだ」

「魔力ヲ分ケ合ウ。正気デハナイ!」


 魔法を放ったタウラス。

 俺は魔法を無視して突っ込み、拳を叩き込む。

 狙う先に、二人がいないと理解っているからだ。

 体制が崩れ、タウラスが不利になる。


「魔力ハ、力ノ源泉ダ! ソレヲ、他人ニアケワタス? 理解デキナイ!」


 押されながらも叫ぶタウラス。


『……魔力は、人の域を越えるために、絶対に必要なもの。それは

『まぁそりゃ、魔力を解放して強くなってるわけだからな。つまり何か、タウラスは――徹底した個人主義ってことか』


 狡猾なのも、悪辣なのも。

 全ては自分が何もかもを支配するため。

 そう捉えるべきなのだろう。


 魔力を明け渡すということは、自分の存在を明け渡すようなもの。

 信頼という概念のない奴にとって、それは苦痛以外の何物でもないんだろう。


「――安心したよ、お前にもちゃんと底ってものがあるんだな」

「憐レミヲ……ムケルナ!」


 タウラスが後ろへ飛ぶ。

 再び魔法で、ヒーシャとナフを狙おうというのだろう。

 だが、ここまで来れば後は追い込むだけだ。

 MPの関係で使えなかった切り札を、ここで使う時だ。


『ナフ、ヒーシャ! いまだ!』

『はい!』

『まっかせて!』


 俺達は、そこで。


「――極彩!」


 使

 MPの消費が激しく、使えるのは一度がせいぜい。

 その一度が、ここで来た。


「貴様……!」


 俺は今まで、バフを使っていなかった。

 MPが足りず、そしてタウラスの意表を付くために。

 そしてそれは、俺だけでは終わらない。


集束レッドサイト

「てやー!」


 ヒーシャとナフもバフをかける。

 そして最後に――


極昇華フルエンチャント!」

「導きの手!」


 ナフのバフ効果二倍を使い、それによって上昇したバフを、俺がコピーする。

 後者に関しては、ここまで使ってこなかった効果だ。

 不意を打つのに使えればと思ったが。


「バフヲ共有スルダトォ!?」


 タウラスの性格を考えれば、その行動は急所を突く行為だろう。

 故に、驚愕するタウラスに。


「ああそうだよ。嫌いなら、好きなだけくれてやる!」


 ――最速で懐に飛び込み、拳を叩きつけた。

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