第312話
戦闘は膠着していた。
こちらが不利とはいえ、その不利がダイレクトに関わるのはMPの消費だ。
導きの手を使えば、二人を手元に引き寄せることができる。
だから決定的な致命傷を二人に与えることはほぼ不可能だ。
とはいえ、それをすればするほど、俺の敗北は近づいていく。
行動を起こさなくてはならなかった。
「無駄ダ!」
だが、遠い。
俺が近づこうとするたびに、タウラスは距離を取る。
こちらのタイムリミットを良く理解した動き。
普通に戦うだけでは、こうして膠着するのは当然と言えた。
だからこそ、俺は多少の危険を承知で動く。
まず、俺は自分が戦闘中に作った地面が隆起した部分の後ろに回る。
これはタウラスの魔法から少しでもナフとヒーシャの二人を守るために作ったものだ。
もちろん焼け石に水だが、他にも使い道はある。
「導きの手」
俺は、そこで導きの手を使った。
ナフとヒーシャが現れ、俺はそのまま止まることなく影から飛び出した。
こうした隆起はエリアのあちこちに現在で来ており、二人の姿を隠すために使っている。
後はタウラスに二人の居場所を気取られる前に仕掛けるだけだ。
「小癪ダナ!」
「言ってろ!」
向こうは俺の行動を読んでいるだろうか。
読んでいるだろう、その程度に奴は狡猾なはずだ。
でも、俺が二人をどの場所に隠すかまでは読めないはず。
奴は隆起した地面を破壊していない。
きりがないからだ。
故に、それから何度か地面の裏を通った後――俺はタウラスに最高速度で接近した。
「フン!」
正面からタウラスが拳を受け止める。
「狙イハ悪クナイ」
「!!」
やはり、タウラスは俺の狙いを読んでいるか。
「確カニ、コレナラ、読メナイ」
たとえ読めても、導きの手を使えば二人を呼び寄せることが可能。
そうすれば、隙を作ってまで隠し場所を攻撃しても意味がない。
だからこの作戦は、間違いなく有効なんだろう。
だというのに、
「ダガ」
タウラスは、そう嗤った。
「時間切レダ」
――直後。
俺の身体から光が失われる。
ああ、それは。
やつの言う通り、時間切れ。
俺の魔力――MPが空になったのだ。
「残念ダ。ツマラナイ」
そう言いながら、タウラスは。
俺を拳で貫こうとして――
「まだだ」
俺は、その拳をすり抜けるようにしながら、奴に拳を叩き込んだ。
「――ア?」
そこで。
初めて。
タウラスは、理解できなかった。
これまで、こちらの行動に裏をかかれることはあっても。
奴はその意図を即座に理解していた。
だが、今回はそうではなかった。
俺は、まだ魔導解放を使用している。
MPが尽きてもなお。
そうかタウラス。
お前には、導きの手で他人からMPを譲渡してもらう使い方を、発想することすらできないのか。
そう、俺は今――ヒーシャとナフのMPを借りて、魔導解放を使用していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます