第309話

『ツムラ、回収』

「導きの手!」


 大技を放った勢いで、バランスを崩したナフをクロの発言で回収する。

 近くに現れたナフを支えつつ、距離を取った。

 クロがこういうということは何かしらの変化があるということだからだ。


 直後。


 タウラスから膨大な量の魔力が溢れ出した。


「……っ! これは」

「ぴ、ぴえええ」

「あの場所にいたら、巻き込まれて不味かったな」


 魔力が、周囲を破壊している。

 むき出しな魔力でアレとは、とんでもない話だ。


『魔力を解放した。気をつけて』

『となると……アレが最終形態ってところか』


 魔力解放。

 魔神だけが使える能力だ。

 魔神は、自身の体内に大量の魔力を蓄えている。

 これをより多く使えるようになるのが、レベルアップの仕組みだ。


 人間の場合は、レベルが上がると体内の魔力が増える。

 それをステータスという形で出力する。

 似てるようで全然違うんだな。

 ともあれ。


 そんな魔力を今、タウラスは無理やり解放している。

 こうすることで魔神としての本来のスペックを発揮できるようにするわけだ。

 とはいえ完全なフルスペックとはいかない。

 無理やり解放してるんだから、当然といえば当然だが。


 これの厄介なところは、急激に強くなること――ではない。

 魔力は無理やり開放されると急激に魔神から消失していく。

 その結果、魔力がなくなるとどうなるか。

 魔神はこの世界の外に還っていってしまうのだ。

 逃げられる、ということ。

 せっかくここまで追い詰めたのに、全部無駄になってしまう。

 ふざけるな、という話。


 もちろん魔神としては、そもそもこれを使うことは不本意なのだが。

 あっちだって色々手間を掛けて降臨してきたのに、取って返さなくてはならないのだから。

 不本意なのは当然だろう。

 ただ、眼の前の敵――つまり俺達を倒してしまえば、奴は魔力解放をやめることができる。

 そうなれば丸儲け、やらない理由はない。


 ともあれ、お互いの勝利条件ははっきりした。

 こちらは奴が魔力を失って逃げる前に倒すか、逃げるまでヤツの攻撃を耐えるか。

 向こうはこちらを殺すか、逃げ切るまで魔力を使い続けるか。

 無論、どちらも前者を狙ってくる。

 俺達だって、奴をここで逃がすつもりはない。


『……魔力の総量からして、大丈夫そう』

『ああ……理解った。それならな』


 こっちは全力を出し切った。

 もはや打つ手は殆どない。

 だっていうのに向こうが全力を出してきたら、どう戦うっていうんだ?

 答えは簡単。

 最後の切り札を使う時が来た。

 それを使えば――俺は奴と互角に戦える。

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