第262話

「ぱくぱく、ぱくぱく」


 街に繰り出してはや数時間。

 俺達が何をしているのかといえば、食い倒れだ。

 そりゃそうだろう、中世風異世界の娯楽なんて現代と比べて天と地の差。

 食べるくらいしかやることがない、現代人基準では。

 これでも、この世界は過去に何度も転生者がやってきているから、まだマシな方だ。


 とはいっても。


「クロ、さすがにそろそろ食べ過ぎじゃないか?」

「まだ入る、まだ入る」

「こいつの胃はダンジョンか何かか」


 クロはさすがに食べ過ぎだ。

 ここ数時間、ずっといろいろなものを食べているというのに、未だに橋が休まる気配がない。

 俺なんてもう昼はいらないくらいだぞ。

 まだ十二時にもなってないというのに。


 その関係もあって、わざわざ二人で街を歩いてもデートみたいな会話は何もしていない。

 喋るか食べるかで、クロが食べる方を選んでいるからだ。

 そもそも、話をまともに出来ているとはいい難いぞ。


「ごくん」

「あー、とりあえずなんだが、この後はどうするんだ?」

「ん? 食べる?」

「いや、食べないが」


 ちょうど食べ物を飲み込んで、口が空いたところで声を掛ける。

 俺も食べたいと判断したのか、食べていたたこ焼きを一つわけてくるクロ。

 残念ながら、もう入る場所がないからお断りした。

 まぁ、美味しそうではあるよな。


「ん……じゃあ、あっちでやすも」

「わかったよ」


 そのまま、クロは残ったたこ焼きを一気に食べきって、美味しそうに飲み込んでから俺に残骸を渡してきた。

 袋の中からアイテムボックスのゴミ箱エリアに放り込まれる残骸。

 アイテムボックス、なんとなく脳内でカテゴリ分けができるんだよな。

 ゴミ箱と食事が同じエリアの中にあると想像したら色々と嫌なので、こうしてカテゴリ分けができるのはとても助かる。

 まぁ、実際には一つ一つが全く別の異空間にあるらしく、同じ場所に存在することはありえないんだが。

 すげぇなアイテムボックス、チートかよチートだったわ。

 

「んー、ツムラは何したい?」

「デートに関してはノープランだよ、クロの好きにしたいようにしてくれ」

「なんでもいい、が一番困る」

「料理のリクエストか。じゃあ、そろそろ色々と話をするか。話があって、わざわざデートなんて言って連れ出したんだろ?」

「ん……」


 別に、真面目な話にしろそうじゃない話にしろ。

 こうしてクロが二人で出かけるという時点で何かしら話があることはコレまでの付き合いから察することができる。

 問題はその内容だ。


「色々ある。まずは……恋バナ?」

「最初がそれかよ、ぶれないな……」


 ほんと好きだな、他人の恋バナ……

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