第263話

「それで、どうなん、実際」

「どうなんって……」


 普段そんな言動しないだろ。

 とはいえ、どう、とは言うまでもなくヒーシャとナフのこと。

 二人とは、きっとこれからも長い付き合いになるだろう。


「とりあえず、もう言ったが魔神討伐が終わったら、二人と迷宮都市に行く」

「ん、迷宮都市レプラコン。冒険者の聖地、めくるめく恋愛の舞台……!」

「全部恋愛につなげるつもりか」


 ともあれ、ヒーシャとナフのことだ。


「……まず、俺達の間に、っていうゆるい共通認識があるのは解る……よな?」

「えっ」

「解んないのか……こいつ……」


 こいつ他人の色恋に興味があるくせに、めちゃくちゃ鈍いんじゃないのか?

 まぁ、俺も殆ど口にしてなかったけれども。

 というか、多分ヒーシャとナフ的にはクロもその認識の中に含まれると思ってるぞ。


「”なんとなく好き”」

「……?」

「ヒーシャが言ったことだ。クロが聞いてたかどうかわからないが、俺達は互いにこう思ってるよ」

「聞いてない。そんな曖昧な発言が過去に飛び出していた……?」


 クロがヒーシャを酔わせて二人きりにした時だよ。

 主犯のくせにギリギリのタイミングで寝落ちしやがって。


「俺は……正直、恋愛とかあまり興味がない」


 まず、前世では出会いがなかった。

 恋愛に執着する機会もなかった。

 未だに、恋愛をするということがどういうことかわからないまま、異世界に転生している。


 二人に出会ったのは、俺が愛子だからだ。

 愛子として事件に巻き込まれる運命にあったから。


「その上で、俺の最優先事項はレベリングだ」

「恋愛に欠片も興味がない、と?」

「まぁ、無いわけじゃない……二人に良くされると、少し戸惑うこともある」

「じゃあ」

「でも、今はそれどころじゃないだろ」


 続けようとしたクロを遮って、言う。

 魔神討伐を前に、色恋に現を抜かすことはできない。

 無論、完全に意識することは出来ないが……俺も、ヒーシャも、ナフも。

 という意識が、完全に出来上がっていた。


 これは、何も魔神の存在を知る時からの共通認識ではない。

 ニシヨツのダンジョンのボスを討伐する。

 そのために、レベルを上げて強くなることが俺達がパーティを組んだ最初の目的なのだから。


「だから結論、今は何とも言えない」

「その割には、結構日常的にいちゃついてるような……」

「毎日魔神のことだけ考えろってのも、それはそれでおかしいだろ」


 ここ最近は、ヒーシャとナフ相手に色々と交流を図ることが多かったのは確かだが。

 とりあえず、今は先に進まない。

 それは、すでに俺達の間で成立した合意だった。

 それから先は……どうなるんだろうな?

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