第261話
「うごごごご……」
次の日、クロがベッドの上で身悶えていた。
わざわざ俺が部屋を離れて朝食を食べている隙に、部屋に置いておいた揺り籠からベッドの上に倒れ込んだらしい。
というか、朝食を食べている間に起きてきて、なにかに気がついて悶えているのか。
まぁ、概ね想像がつく。
「また、また見逃した……ラブコメイベント……見逃した……」
「いやだから、どうしてそこまでクロはラブコメイベントにこだわるんだよ……」
なんかもう、もはや執念とも言えるレベルでラブコメに拘っている。
そして、致命的なまでにラブコメイベントに縁が無い。
自分で仕掛け人をしておいて、一番大事なタイミングで寝落ちするのはもはや呪いだ。
特異、と言い換えてもいいかもしれない。
「ぐすぐす、とてもかなしい。なぐさめがほしい」
「今日は休みだから、1日中ベッドでゴロゴロしてればいいんじゃないか?」
今日と明日は休みだ。
別にクロがベッドでゴロゴロしても、咎めるものは誰もいない。
「やすみを? 怠惰に過ごす? 正気?」
「お前そんな積極的なタイプだったっけ?」
「ううん、無限に引き込もれるなら引きこもりたい」
「じゃあ何で正気を疑った?」
こいつ、もはや脳死で言葉を垂れ流しているな?
救いようがないのは、そうやってうなだれつつ俺が用意した飲み物を寝ながら飲み始めたことだ。
ストローがあるとはいえ、危ない上に行儀が悪すぎる。
こぼれたって俺は選択しないぞ。
「ぷはぁ、極楽極楽」
「かなしみがどこかに行ってしまったみたいだな」
「そしてかなしみが溢れ出してきた、うるうる」
こいつ……
まぁ、正直脳死で適当な突っ込みをしているのはこちらも同じだ。
適当すぎるところはあるが、真面目な話をする時は真面目な話をするやつなので、じゃあ今は真面目じゃないということになる。
なら、俺が適当にあしらうのも結局はクロの責任だよな、ということで。
「ばいしょーを要求する」
「賠償と来たか……金がかからず、手間にならず、俺も楽しめることならいいぞ」
「わがまま……」
どっちもどっちだろ。
「ん……今日は一日完全に暇?」
「まぁ、暇だな」
「なら、デート一回」
「ん?」
「デート一回で、許す」
なんというかそれは、デートという名目で適当に遊びたいだけな気もするが。
「デート、くれぐれも間違えないように」
「わかったよ」
まぁ、クロがデートと言い張りたいならそれでもいいか。
というわけで、二日ある休日の一日を、俺はクロとのデートに費やすこととなった。
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