第258話
ナフの自己肯定感の低さは、周囲の環境が大きな要因ではない気がする。
生来の性格というか、本人がずっとそういう考え方をしてきたから、染み付いてしまったものなんだろう。
強いて言うなら――
「理由がないこと、かな」
「理由?」
「そう、頑張る理由がない」
例えばヒーシャ、彼女には母親の呪いという頑張る理由がある。
その手段は冒険者、自分の適性にも合っていて、まさに天職だろう。
まぁ、性格的には色々と向いていない部分もあるが。
それは、周囲の協力で乗り越えられる。
「ナフの場合は、具体的な目標がないんだ」
「まぁ、そうだね」
たまにいるのだ、目標を持てなかった結果、決して恵まれていないわけではないにも関わらず、むしろ恵まれていながら”頑張れない”人間が。
かつての俺が、そうだったように。
「そういう人間に必要なのは、キッカケだ」
「キッカケ?」
「そう、環境を変えたり……別のことを始めてみたり」
だが、それはそう簡単なことではない。
一度目標を持てず、自己肯定感の育たなかった人間が自己肯定感を育てることは難しい。
俺のように、人生が一変するような変化でもない限り。
「じゃあ……ツムラさんが私に必要なキッカケは何だと思う?」
言われて少し、考える。
「そうだな……例えば、コレまでにない出会いを経験したり、とか」
「うんうん」
「その結果、自分の思った以上の成長を感じたり、とか」
「うん?」
「ようは、外からの刺激ってやつが必要なんだと思う、例えば――」
例えば、迷宮都市レプラコンに行ってみるとか……と、俺は告げようとした。
「例えば――ツムラさんと出会ったり、とか?」
それを、遮るようにナフが言って。
「え?」
「えっ?」
二人して、首を傾げた。
思わぬ答えが、思わぬ形で出たからだ。
そして納得した。
よくよく考えたら、俺と出会った後のナフは冒険者として大いに成長し、レアスキルを取得したことで天才鍛冶師の後継者に推挙されてるんだよな。
と、俺は納得したのだが。
「あ、あああああ……わ、私がツムラさんのことを必要以上に意識してるみたいだぁ」
「お、落ち着いてくれ」
ナフは真っ赤になってしまった。
どうやら、本人的にはいまの回答は自爆だったらしい。
「で、でもそうとしか言いようがないよね?」
「ま、まぁそうだな……」
そこまで狼狽されると、こっちまで気恥ずかしくなってくるな。
「うう、でも私……そんなに自分がすごくなったって思えないんだけど」
「そうだな……成長を実感するタイミングが少ないからだな」
いや、謎エリア攻略とか、すごい成長してると思うんだが。
それと本人の自己肯定感が満たされるかは、また別問題なんだよな、これが。
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