第257話
「冒険者として生計を立てたい。鍛冶師としてそれなりにやっていきたい。そういう感情はあるよ?」
「まぁ、そうしないと生きてけないからな」
「でも、鍛冶師として母さんの後を継ぎたいとか、冒険者として一流になりたいとかは……正直、思ってなかったかな」
それは、とても普通なことではないだろうか。
冒険者は、志を持って冒険者になる人間と、そうでない人間が半々だという。
ナフが後者だったとしても、それは別に悪いことではないだろう。
ただ――
「それなら、どうしてナフは真面目に冒険者をしてたんだ?」
「あはは、そこなんだよね……志は特になくても、眼の前の課題を一つずつこなしてくことはできるでしょ?」
「なるほど、真面目は真面目ってことだな。まぁ、ナフは確かにそういう性格だ」
それに、ナフが頑張る理由はそれだけではないだろう。
「それに、ナフのいいところは他人のために頑張れることだ」
「そりゃ……他の人は困ってたら放っておけないし。ヒーシャとか、いつでも放っておけないから、逆にこっちが助かってることもあるくらい」
悩まなくていいから、と敢えて自嘲するようにナフは笑う。
そこまで自分を卑下にしなくても……と思うが、そういうことはナフだって理解ってるはずだ。
「普段は、それでいいと思ってる。でも、こうやって将来のことを考えると……なんだか萎縮しちゃって」
「自己肯定感が低いんだな」
「そうそう、そんな感じ。ツムラさんはどうしてるの?」
どう、と言われてもなぁ。
俺は少し気まずくなって視線を逸らしつつ、
「ナフと同じだよ。将来のことなんて殆ど考えてなかった」
「ええ? 意外。今のツムラさんは、自信に満ち溢れてる気がするけど」
「そりゃ簡単だ、今の俺はやりたいこととやってることが一致してるんだよ」
前世の俺は、本当に普通の人間だった。
やりたいことを仕事にできるほど情熱はなく、仕事なんて金を稼ぐための手段でしかない。
けど、今は違う。
レベルを上げていればこの世界での立場が良くなる。
レベリングをするのは異常者だが、レベルの高い人間は尊敬の対象だ。
「人は、やりたいことをやってる時が一番輝いてるんだよ」
「そういうものかな?」
「レベッカさんとか、そうだろ? あの人はギルドのスタッフとして仕事してる時が、一番輝いてる」
「ああ……」
レベッカさんの場合は、ダンジョンハザードの対策という人生の目標があったから頑張れたのだろうが。
それでも、頑張る過程で身につけた評価とスキルと自己肯定感は裏切らない。
「……そうやって、輝いて生きるためにはどうすればいいんだろうね」
そして、そんな自己肯定感を磨いてコレなかった少女が、ここにいた。
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