第183話

 ヒーシャからのバフを最大まで貰った剣を一気に振るう。

 揺り籠を使ってATKもできるだけ最大にし、攻撃を通していく。

 しかし、核は壊れない。


「こいつ……どんだけHPあるんだよ……」

『サラマンブルドラゴ以上かもしれない。サラマンブルドラゴを呼び出せるってことは、サラマンブルドラゴより強いってことだから』

「考えたくない可能性だな……!」


 クロの言葉に辟易しながらも、剣を叩き込む。

 周囲の魔物を一掃していないまま攻撃してるもんだから、そいつらが邪魔だ。

 斬華の範囲攻撃に巻き込めるとはいえ、効率は悪い。


 それでも、有効打は間違いなく与えていた。

 核は淡い光を放っているが、その光が弱まっているように見える。

 これでダメージが入っていなかったら、俺は泣くしかない。

 とはいえこれまで、この世界で冒険者をやってきた俺の感覚が告げている。

 あと少しだ、――と。


 だが、現実は無情だった。

 ――核が、俺の眼の前から消滅した。


「なっ……クソっ!」


 消えたものはしょうがない、何とか炎剣が消える前にもう一度やつのもとにたどり着く。

 最悪、ダメージを与えるのは炎剣である必要はない。

 たどり着ければ、勝機はある。


 核は、空にいた。

 クレーターの中央、照明のように宙に浮かんでこちらを見下ろしている。

 あんな無防備な場所に、と思うが。

 すなわちそれは、何かしらの意図があるということだ。


『……あぶない!』


 クロの叫びとともに、核が点滅すると――


 光弾を周囲へ向けて射出した。


「っく!」


 慌ててDEFを元に戻す。

 なぜなら、この光弾、サーチハンドでATKが見れる。

 その数値は、ブレがあった。

 低ければ50程度、しかし最大値は――200を越えている。

 バフがアレば俺はダメージを受けないが、それでも揺り籠を使っている暇はない。


『これ、まずい……』

『大丈夫か、ナフ!』

『この量を魔物といっしょに捌くのは無理! しばらくは持ちこたえるけど、すぐに押し切られる!』

『ヒーシャのバフをナフにまわしてくれ! こっちは自前のバフだけで何とかなる!』

『は、はいっ!』


 こうすれば、ある程度の時間は稼げるだろう。

 しかしそうなると、こっちに問題が出る。

 揺り籠も、ヒーシャのバフもないとなると――俺は炎剣のダメージを中ボスに有効な火力で叩き込めなくなる。

 特に、ダイヤモンドオーガはダメージが通らない。

 そうなると、魔物の肉壁を突破するのは非常に困難だ。


 光弾は無視するにしても、魔物はどうにもならない。

 それでも何とか、俺は剣を振るって核に接近しようとする。


「どけ、邪魔だ――!」


 しかし、無常にも。

 炎剣は、溶け落ちて消えた。


 斬華のために持ち込んでいた剣は、これで全て――使い切ってしまった。

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