第177話(他者視点)

 少し時間を戻し。

 ヒーシャとナフは苦戦していた。

 はっきり言って、状況はかなり悪い。


「ああもう、なんでこう、すばしっこいんだあいつ!」

「それでいて、攻撃力も高い。大変だよ、ナッちゃん!」


 ミノタウロスと遭遇した二人は、何とかそれを相手していた。

 素早い上に、パワーもある。

 魔法まで使ってくるとなれば、厄介なんてもんじゃない相手だ。


 一応、倒そうと思えば二人でもミノタウロスは倒せる。

 だがそれは、場合だ。

 リソースをすべて出しつくせば、難なく倒せる相手ではあるが、現状それはできない。

 ツムラが“核”を見つけたが、その核を破壊するのは一人だと無理らしい現状。


 幸いなことがあった。

 周囲に魔物が複数いる。

 これは、一見すればヒーシャとナフにとって不利な状況。

 だが実際は二人にかなり有利に働いた。


 高機動型のミノタウロスにとって、正直周囲の雑魚は邪魔でしかないのだ。

 攻撃に巻き込んだり、足場にいるせいで移動先を制限されたり。

 逆にヒーシャとナフは、こいつらを盾にして攻撃を防げる。


 戦闘は、膠着しつつも二人に有利な方向へ進んでいた。

 ただ、同時にかなり綱渡りな戦闘だ。

 ヒーシャがバフをほとんど使えないから、一発でもナフが食らうと戦況は瓦解しかねない。

 それでも何とか、少しずつミノタウロスにダメージを与えていった。


 変化があったのは、ツムラとの通信を経た後のことだ。


『――勝つ』


 ナフは、そういった。

 決意表明のようなもの。

 それと同時に、ここで追い詰めたミノタウロスに止めを刺すと決めたのだ。


「ヒーシャ、アレ使おう!」

「うん!」


 ここまで二人が使ってこなかった、切り札を使う。

 バフもすべて使用して、その効果が切れる前にミノタウロスを倒すのだ。


「光の体躯!」


 行使するのは、ヒーシャ。 

 光魔法で、のだ。

 ヒーシャにとって、身体は光を帯びるのは身体強化の象徴。

 そのイメージを使って、光魔法でナフを強化するのだ。

 結果、が可能になる。


 その数値、実に+70!


集束レッドサイト!」


 ナフもまた、バフのためのヘイトスキルを使用し、ミノタウロスに向けて駆け出す。

 ここからは短期決戦。

 ヘイトは自分に向けているため、ヒーシャに攻撃が飛ぶことはないが、攻撃する。

 ヒーシャもそれなりに高レベルの冒険者。

 多少ダメージを受けても、死ぬことはない。


「おおおおっ!」


 急速にミノタウロスの懐へ突っ込んだナフは、バフがAGIからATKに切り換わるのを待って、攻撃を仕掛ける。

 リキャストは一秒にも満たない。

 ほとんどそれは、隙にならないのだ。


裁断ストラグルアウト!」


 先ほどドロップしたミノタウロスの大斧と、それによるバフ効果。

 他にもエンチャントによるATK上昇などがもろもろ、斧には乗っている。

 それらを纏った斧攻撃の必殺技が、ミノタウロスを捉える。


「――――!」


 大ダメージ。

 この一撃は、当たりさえすればDEFのだ。

 しかも、攻撃はそれで終わらない。

 ダメージを受ければのけぞる。

 もう一発叩き込めるのだ。


 そして、そこに。


「今だ、ヒーシャ!」

「うん!」


 先ほど言及した、を使う。



!」



 その言葉と共に、斧が光り輝いた。

 ヒーシャが光魔法で強化するのは、ステータスだけではない。

 もだ。


 そして、その一撃は――


「これで、終わり!」


 ナフの裁断ストラグルアウトも合わせ、ミノタウロスを倒すには十分なものだった。

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