第176話
「クソ、そもそも敵が警戒してるせいでもう一発白熱針が放てる状況じゃない!」
アレは結構な集中力が必要な作業。
魔物たちの勢いが増した現状で、使える魔法ではない。
斬華を振るいながら、考える。
「何かしら、突破口になりうる情報はないのか……?」
魔物たちは、遮二無二こちらへ突っ込んできていた。
正直、若干向こうがこちらを恐怖しているのが見て取れる。
それでも、突っ込まないと先ほどの白熱針で核事態が吹っ飛ぶんだからしょうがないんだろう。
そして、それをされると困るのがこっちだ。
魔物どもに同情する気も起きないくらい、状況は逼迫している。
「……まず、そもそもここはどこなんだ」
情報を整理しよう。
これまで俺がこの世界で把握してきた情報から、この場所について精査する。
『――ダンジョンは生きている』
クロの声。
――だが、少し違和感があるような?
『魔物の一種、ってことだよな。じゃあこれは、ダンジョンがそうなるように仕組んだことってことでいいのか?』
『その通り。だけど、ダンジョンが魔物というのは本質ではない』
魔物を斬華でキリ飛ばしながら、会話を続ける。
斬華の炎が、少し弱まってきた。
効果時間の終了が近い。
『ダンジョンはあるものに例えることができる。定期的な更新によるリフレッシュと、魔物の出現。それはいうなれば――』
『血流、とかそんなイメージか?』
『正解。だからいうなれば、ダンジョンは“ある魔物”の体内の一部と表現できる』
つまり、正確にはこれを仕組んだのはダンジョンではなく。
ダンジョンの本体、ということか。
とんでもない話だが、理解はできる。
ようは、魔物には上位存在がいるのだ。
俺達人間に、ステータスを与えた女神が存在するように。
そもそも、魔物には魔物を生み出す上位存在がいる。
その証拠が、“特異”と呼ばれる現象。
特異はその上位存在が齎したモノだから、下位存在の力では解決できない。
特異がステータスには反映されないように。
ステータスやスキルで、特異を排除することはできない。
俺達人間にとって、それが女神の存在だというのなら、魔物にとっての神は、すなわち――
『魔神』
クロが、そう口にした。
それと同時に、斬華が終わる。
魔物たちが一斉に寄ってきて――俺は水球でそれを吹き飛ばしながら、水球をすり抜けてくる魔物に拳を振るった。
この状態では、防戦しかできない。
だが、防戦をする理由ができたのだ。
魔神の名を口にした直後。
『やったやった、やりましたー!』
そんな、ヒーシャの声が聞こえてきた。
『ツムラさん、ミノタウロスを倒したよ。いまからそっちに向かう!』
『やっと終わったか。頼む、この状況をどうにかするには、二人の力が必要なんだ』
ジリ貧にしかならない状況。
俺はその打開のために、ヒーシャとナフの到着を待つことにした。
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