第173話

 かつて、俺はタンクとしてのロールを何とか全うするために詭弁を働かせた。

 で、敵の攻撃が味方に届かないようにしたのだ。


 その後組んだパーティには専門のタンクがいて。

 正直、あの方法でタンクは無理があるよなと思っていたので、それを利用する機会はなかったのだが。

 渡りに船が、やってきたのだ。


「――水よ!」


 俺の周囲に、水球が浮かぶ。

 それは俺の動きに連動し、追いかけてくるようにした。

 常に俺の周りを浮遊しているのだ。


「――――!!!!」


 こちらの変化に、サラマンブルドラゴは威嚇のような咆哮を上げて襲いかかってくる。

 振り下ろす角。

 それを、水球は――弾いた!


「!!!!」


 明確に、サラマンブルドラゴが驚愕したのを感じる。

 効いている。

 そう確信し、俺は懐に潜り込んだ。

 あいつ、角の後の追撃である爪を振り下ろす余裕すらなかったぞ。


 その後、拳で連打。

 攻撃できる時間は、明らかに先程までより増えていた。

 とにかくここで、叩き込めるだけの攻撃を叩き込む。

 さすがに揺り籠を使う勇気はないが、もはやサラマンブルドラゴの攻撃を恐れるつもりはない。


「――!!!!」


 そして、しばらく拳を打ち込むと、サラマンブルドラゴが巨体を持ち上げる。

 全身プレスだ。

 もちろん俺は、水球を間に挟んで対応する。

 ここが正念場だ。


 落ちてくる巨体に対し、連続で水球が炸裂する。

 足りなければ追加し、サラマンブルドラゴを押し留めていく。

 やがて――それは拮抗した。


「今だ!」


 俺は更にツッコミ、サラマンブルドラゴの後ろ足の辺りまで到達する。

 全身プレスのために持ち上げられた巨体で、地に足を着いたまま殴りかかるにはこの位置しかないのだ。


「んでこれは、たった今思いついた即興必殺技――」


 俺は、拳に力を込めて、



「――蓮華!」



 そこに、水魔法を纏わせる。

 斬華の派生技だ。

 炎を纏わせる斬華だと、手に纏わせたり、サーチハンドに纏わせると纏わせた部分が燃えてしまう。

 なんだかよくわからないが、斬華で炎を纏った剣を握っても俺にダメージはない。

 だが、手に炎を纏わせると、手が燃えてしまうらしいのだ。

 しかし水魔法ならばその限りではない。


 そこからは一方的だった。

 叩き込まれる拳は、水属性ということもあってかサラマンブルドラゴにはかなり有効なようで。

 最終的に、炸裂する水球も合わさって向こうは完全に身動きが取れなくなっていた。


 そうすれば、使

 特に、一方的に拳が叩き込める状況ならば、ATKの上昇を攻撃が当たる瞬間に限定できる。


「これで、……最後!」


 手応えを確かめながら、おそらく最後になるだろう一撃を叩き込み――


「――――――――!!!!」


 サラマンブルドラゴは、絶叫とともに消滅した。

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